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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第7章

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254話 潰える希望

「覚悟ッ!」

「生意気なァッ!」


 漲る気迫と共にフリーディアは疾駆し、ダメージの残るサージルへ真正面から剣を叩き付ける。

 だが、その頭を狙って突き出された刺突はサージルの構えた大剣の腹で防がれ、激しい金属音と衝撃に変化する。


「フフ……」


 しかし、フリーディアは小さく笑みを零すと、弾かれた勢いを利用してそのまま剣を引き戻し、大きく開脚して体制を沈めると、盾となった大剣の隙間から覗くサージルの脇腹に向けて剣を突き上げた。

 無論。大剣を盾に攻撃を躱したサージルの視界にその姿が映る事は無く、死角からの攻撃は阻むもの無く狙った位置へ吸い込まれていった。


「グゥッ……!?」


 硬い金属の感触の後、剣はズブリという鈍い感覚をフリーディアの手へ伝え、浅いながらもサージルの身体に傷をつけた事がわかる。


「オォッッ!」

「っ……!」


 瞬間。怒りの声と共にサージルの大剣が蠢き、白い一閃となってフリーディアに振り下ろされた。

 ドガンッ! と。地を揺らすほどの破砕音が鳴り響き、敷かれていた石畳が粉々に粉砕される。だが、その鋭く強力な一撃にフリーディアは囚われていなかった。


「凄まじい力だわ……」


 大剣が砕いた石畳から数メートル離れた前方で、油断無く剣を構えたフリーディアが呟いた。

 サージルの一撃は恐ろしく迅く、そして重い。フリーディアの持つ剣では、打ち合った途端に弾き飛ばされるか、最悪その剣ごと叩き切られてしまうのは目に見えている。


「っ……」


 ごくりっ……と。フリーディアの喉が無意識に生唾を飲む。相も変わらずサージルの呪いは体を蝕み続け、こうして剣を構えているだけで奇跡に近かった。

 それでも尚、フリーディアが身体を支えて戦えているのは、彼女の持つ強靭な精神力の賜物だ。


「死にぞこないがッ! フラフラじゃないかッ!」

「くっ……」


 ほんの一瞬。フリーディアの視界が揺らめいた隙に、猛獣のような勢いで飛び掛かったサージルが、その大剣を力任せに振り下ろす。

 ジャリィッ! っと。激しい火花と共に金属の擦れる音が響き渡り、直後に再び石畳の砕け散る音が鳴り響く。


「セェッ!」

「ぐっ……アアアアッ……!」


 舞い上がった土埃の中から、烈破の叫びと苦悶の悲鳴が響き、戦場に一瞬の沈黙が訪れる。

 周囲で戦う誰もが皆、サージルとフリーディアの戦いの行方に注目していた。その戦いを見つめる瞳には、各々の主の勝敗の行方を憂う思いだけではなく、あの純真で真っ直ぐな騎士の意志に期待する感情も宿っていた。


「お……おぉっ!!」


 土埃が晴れると共にシルエットが浮かび上がり、戦いを見守る誰もがその光景に歓声を上げる。

 土埃の中に佇む影は二つ。

 凛々しく剣を突き立てる小柄な影と、その胸を貫かれながらも腕を掴んで跪く男の影だった。

 ――しかし。


「っ……クッ……化け物ッ……!!」

「ハ……ハハッ! 奴にも言われたよ」


 土煙が薄らぐ毎に、抱いた希望は絶望へと塗り替わっていった。

 この戦いを見守る全ての人間は思っただろう。現実とはここまで皮肉に溢れ、無慈悲なものなのか……と。


 フリーディアの剣は確かにサージルの胸を捉え、その中心を刺し貫いていた。

 しかし、その身を剣が貫いているにも関わらず。サージルは鋼の様な握力で掴んだ腕を締め上げ、耐えかねたフリーディアの手が剣を取り落とす。


「うっ……くっ……」


 ズルリ……。と。ボタボタと流れ落ちる血液と共に、フリーディアの剣がサージルの身体から抜け落ち、派手な金属音と共に地面へと落ちる。

 普通の人間ならば、間違いなく致命傷。即死には至らずとも、心臓を刺し穿たれていては、意識を保つ事など不可能の筈……。

 だというのに、サージルはすさまじい力を以てフリーディアの手を捻り上げ、大剣を手に立ち上がると、狂気的な笑みを浮かべていた。


「誇り高い君に一つ……チャンスをあげよう」

「っ……?」


 ギシギシと軋む骨の痛みに歯を食いしばりながら、ピクリと瞼を動かしてフリーディアはサージルの言葉に反応を示す。

 その視線は、サージルの胸から流れ出る血に向けられており、その目には不屈の光が宿っていた。

 しかし、そんな目を気に留める事も無く、唇を吊り上げたサージルは言葉を続ける。


「女神の騎士たる僕に仕え、その汚辱に塗れた罪を濯ぐ事を許そう。いつ如何なる時も僕に側仕え、女神の騎士たる僕の為……女神を信ずる正しき民の為にその身を捧げるんだ」

「なっ……!」


 その言葉に、告げられたフリーディアではなく、周囲を囲む白翼の騎士達の顔が怒りに歪む。それは彼等にとって、問いかけそのものが騎士の誇りを著しく穢すものだった。

 怒りに顔を歪めたミュルクが即座に飛び出し、冷静沈着たるはずのカルヴァスもまたそれに続く。


「ぐあっ!」

「ぬぅっ……!」


 しかし、その刃がサージルに届く事は無く、その背との間に立ちはだかったライゼルの手によって弾き飛ばされた。


「ライゼルッ!! 貴様ッ! はじめからそのつもりでッ――!!」

「許さんッ! お前だけはッ!!!」


 地に打ち付けられた騎士達の怒りの咆哮が響き渡り、薄い笑みを浮かべたライゼルが彼等に背を向ける。


「フッ……彼は良く働いてくれる……。雑魚を二匹殺すのも、手間だからね……。さあ、答えを聞こうか。フリーディア」

「ッ……」


 チラリと背後に目をやったサージルは笑みを浮かべ、腕を吊し上げたフリーディアを見つめて言い放つ。

 その言葉は勝利宣言に他ならず、誰もがフリーディアの敗北を骨身に味わっていた。


「……お断りよ」

「そうか……」


 しかし。短く目を瞑ったフリーディアはその目を開くと、不敵な笑みと共にサージルの問いを突っぱねる。その目に煌々と灯った光が、彼女の意思が決して屈する事は無いと雄弁に告げていた。


「なら、泣いて仕えたいと懇願させてやるまで……君は良い駒になるッ!」


 サージルの手が閃き、大剣が陽の光を弾きながら振り上げられる。


「ッ――!!」


 直後。襲い来るであろう激痛に耐えるべく、フリーディアは固く目を瞑った。


 ――しかし。


 フリーディアの身に襲い来るはずの痛みは、いつまで経ってもその身を焦がす事は無かった。

 その代わり……。


そこまでだよ(・・・・・・)、サージル。ウチの団長を開放して貰おうか」


 サージルの背後から、不敵な声が響き渡ったのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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