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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第7章

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252話 醜悪なセイギ

「っ……どういう……事だッ……?」


 ラズール平原での戦闘終結から数時間後。

 アストライア聖国へと帰投したサージルは、目の前に広がる惨状に驚愕していた。

 家々の戸は開かれ、市民たちは皆、一様に不安に瞳を揺らがせている。中には、怒りを周囲の者へとまき散らしている者も居た。

 だが、そんな事よりも。


「どういう事だと訊きたいのは、私達の方よサージル」


 町へと帰還したサージル達を出迎えたのは、武器を構えて展開した白翼騎士団の騎士達だった。そして、その後ろには。ボロボロの服に身を包み、やせ細った元奴隷たちが匿われている。


これ(・・)はいったい、どういう事かしら?」

「――っ!」


 語気を強め、陣を組んだ騎士達の先頭に立つフリーディアが身を翻す。その時はじめて、視界の通ったその先……フリーディアがその背に庇っていた、元奴隷たちの姿をはっきりと視認できる。

 そこには、様々な種族の魔族たちだけではなく、その目を怒りと憎しみに燃やす人間達の姿もあった。


「魔族が悪……相容れない考えではあるけれど、戦場に立つ私達は、その気持ちを汲む事はできるわ」


 抜き放った剣を構えながら、フリーディアは静かにサージルの目を睨み付ける。

 ヒトと魔で争っている以上。その種族自体に嫌悪感情を抱いてしまうのは仕方の無い事だ。町で平和に暮らす人々にとっては、たとえ兵士である身内が戦争で殺されたとしても、『魔族に殺された』以上の事は解らない。

 故に。不当に家族を奪われた者達にとって、その行き場の無い恨みが、魔族という種族全体に向けられてしまうのは当然の事だろう。


 ――だが。


「彼等は私達と同じ人間よ。貴方の信ずる女神教は、人間の味方だと記憶しているのだけれど?」

「…………えぇ。間違っていませんよ。その通りです」


 フリーディアが自らの後ろに立つ人間達を示しながら問いかけると、サージルは驚愕に歪んでいた顔をゆっくりと笑顔に戻し、怒りで僅かに震える声で言葉を続ける。


「我等が女神……アストライア様はあなた達人間の味方だ。だからこそ、穢れた彼等に贖罪の機会を与えていた……んですがねぇ……」

「贖罪……ですってっ!?」

「えぇ。贖罪です。彼等は皆、魔王領で生活するという罪を犯した……。人の身でありながら、悪しき魔王の支配を受け入れたのだ!」

「なっ――」


 そのあまりに身勝手な言い分に、フリーディアは言葉を失ってその場に立ち尽くす。


「彼等は、栄えある人の身でありながら、魔族に準ずるという愚を犯した! そう! 罪に穢れているのですよ! 人の身の誇りがあるならば、安穏と生活するより、いくらでもできる事はあったはずだ! その使命を忘れ、ただ自分達の平穏が守れれば良いと……何という身勝手! 何という傲慢かッ!」

「…………身勝手で傲慢なのはどっちよ」


 ボソリ。と。言葉を失ったフリーディアの前で声高に主張するサージルに、冷たい声が叩き付けられる。煌々とした怒りを宿したフリーディアの瞳は、燃え盛るように熱くサージルを睨み付けて叫びを上げる。


「普通に生活する一般の人達がそんな事できる訳が無いでしょうッ!! そんな事をしたら――」

「――えぇ。それが奴等に見つかれば処刑……ですが、魔族に穢されるよりは喜ばしい事では? 人として女神様の御許へ還れるのだから」

「っ……貴方……正気で言っているの……?」

「正気も正気。常識を語っているだけですよ。狂気を問うのならば、贖罪に生きる彼等の邪魔をするあなた達の筈ですが」

「っ……!!!!!」


 この男は……。この男だけは生かしておいてはいけない。

 フリーディアの脳裏に、サージルに対する凄まじい拒絶感を伴う嫌悪感情が渦を巻き、言語化すら不可能なほどな激しい怒りとして満ち溢れようとしていた。

 この男は宣言したのだ。守るべきものを区別し、その一方を虐げると。

 この男は言い放ったのだ。たとえ自らが守るべき者であったとしても、その命や営みを投げ棄てて敵を害せと。


「っ~~~!!!」


 迸る怒りが許容量を超えたフリーディアの頬を熱い涙が伝い、その身を焦がすほどのその感情は彼女の喉を無意味に震わせた。

 テミスやライゼル。彼女達は立場や考え方は異なれど、その主張は筋が通っていた。それに、幾度となくぶつかり合っても、言葉を交わす事で少なからず互いの事を理解しあえていた筈だ。

 だというのに、この男にはそれがまるでない。

 歩み寄る事をせず、理解させるつもりを欠片ほども持ち合わせていない。神を仰ぐ自らの信念のみが正しく、それを周囲へと強制しているだけ。


「テミスの気持ちが、少しだけわかった気がするわ」

「っ……! フリーディア様……同感です」


 小さく口走ったその言葉に、カルヴァスをはじめとする騎士達が大きく頷く。

 同じ言葉を介して語り合っているはずなのに、まるで話が通じていない。否。彼等にとって言葉とは語らうものではなく、自らの意思や思想を押し付けるための物なのだ。


「さぁ、理解できたのなら彼等を渡し、貴女達も自らの犯した罪を償うのです」

「ふざけないで。貴方は蛮行はここで止めてみせるわっ!」


 笑顔と共に手を差し伸べたサージルに対し、フリーディアは切っ先を突きつけてそれに応じた。

 同時に、フリーディアと肩を並べた騎士達はその獲物の先をサージルへと向け、純然たる敵意を露にしたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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