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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第7章

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251話 誇りと信頼

「……終わったな」

「――っ! テミス!」


 ライゼルがルギウスの前から立ち去った後。突如、虚空から姿を現したテミスが静かに語り掛ける。


「無事で何よりだ! だが……まさか無傷で帰ってくるとは思わなかったよ」

「何を言う。無傷じゃないさ」

「なんだって……!?」


 苦笑いと共に零したテミスの言葉に、ルギウスは顔色を変えてその鎧に覆われた身体を注視する。確かに、派手な出血や損壊こそは無いが、漆黒の甲冑の端々は土で汚れている。


「フッ……何処を見ているんだ?」

「っ……! いや、失礼。負傷したのならば、僕が護衛をするから急ぎ治療に戻ろう。いや……その前に。歩けるかい?」

「………………あ~……いや……その……」


 テミスの言葉にルギウスは視線を逸らすと、大真面目な顔をして問いかける。テミスとしては、自らの体をまじまじと眺めるルギウスをからかってやったつもりだったのだが、こんな反応をされてしまっては罪悪感が募ってしまう。


「大した事は無い。打撲は少々あるが、戦闘に支障は出んよ。……それよりもだ」


 テミスは強引に話題を打ち切ると、先程のルギウスと同じように彼の身体を観察する。そこには多少の汚れこそ見られるが、テミスのように地を転がった程の痕跡は無く、差し当たって傷らしい傷も見当たらない。

 ――しかし。


「余程。苛烈な戦闘だったのだな」


 ルギウスから周囲へと視線を移動させ、テミスは静かに言葉を紡ぐ。

 視線を向けた先。ライゼルとルギウスが戦闘を繰り広げていた地面には、焦げ跡や裂け目、凍り付いた下草など、様々な魔法の痕跡が残っていた。

 だが、当のルギウス自身に傷は無く、その違和感がテミスの中に疑問を生み出していた。


「……あれの戦いを苛烈と称するのは、僕としては好ましくないけどね」


 ぎしり。と。テミスの言葉を聞いたルギウスは歯を食いしばると、悔し気に言葉を漏らす。確かに、戦いの跡こそ派手に残ってはいるが、それを付けたのは全てルギウスの攻撃だ。つまりこの傷痕は、ルギウスの攻撃は全ていなされていたという証拠でもあるのだ。


「フム……? 何か気にかかることがありそうだな?」

「ああ……認めるのは非常に業腹だけど……君に話さない訳にはいかないだろう」


 ルギウスは視線を落として重く口を開き、自らの戦いの顛末をテミスに語って聞かせた。


「なるほど……確かに妙だな……」

「……だろう? だから、彼には何か別の狙いがあると思ったのだけど……」

「フムン……まぁ、いい。ひとまず引き上げるとしよう」


 言葉と共に、テミスは腕組みをして少しだけ考え込むそぶりを見せた後、ルギウスに向き直って小さく微笑む。

 兎も角、決着は付いたのだ。ライゼルの奴が何を企んでいるといたとしても、こんな吹き曝しの平原で考えている必要は無いだろう。


「了解だよ。それにしても、我ながら情けない……共に戦うと言っておきながらこのザマとは……」

「フッ……何をそう気を揉んでいる?」


 深いため息を吐きながら肩を落としたルギウスに、テミスは柔らかな笑みを浮かべて言葉をかける。


「お前がライゼルを食い止めてくれなければ、私は奴ら二人を相手取る羽目になっていたのだ。共に横で戦っていなくとも、救われたことに変わりは無いだろう?」

「テミス……」

「ククッ……こう見えて頼りにしているのだ。頼むぞ?」


 驚いたように目を見開いたルギウスの前で、テミスは数歩先に歩を進めた後、ピタリと立ち止まって振り返る。その頬は、ほのかに赤く染まっていたのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 同時刻。アストライア聖国本陣。

 立幕で仕切られた陣に担ぎ込まれたサージルの前で、ライゼルは驚愕に身を震わせていた。


「クク……フフフ……驚いたかい?」

「ああ……まさか、あそこまでの重症からこんな短時間で起き上がるとはね……」


 言葉を交わすライゼルの視線の先。そこでは、粗末なベッドの上に腰を掛けたサージルが、不敵な笑みを浮かべていた。


「これこそ、僕が女神様の加護を得ている証拠だよ」

「っ……こうも目の前で見せつけられては、ぐうの音も出ないですね」

「だけど……これではまだ足りない……」


 けれど、サージルは浮かべていた笑みを歪め、その表情を怒りへと変えると、拳を固く握り締めて歯を食いしばる。


「今のままの僕では奴を殺す事はおろか、まともに渡り合う事さえできないッ!」


 サージルは声を荒げると、湧き上がる憎しみを叩き付けるように自らの膝に拳を振り下ろす。


「もっと……もっと力をッッ……」

「…………」


 そして、まるで呪詛を紡ぐかのように呟きを漏らした。

 その光景を、難しい顔をしたライゼルが静かに見つめていたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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