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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第7章

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243話 英雄と共に

「っ……。よしっ!」


 グッ……グッ……。と。テミスは拳を開閉しながら呟くと、軽く肩を回して笑顔を浮かべる。

 ラズールで怪我の治療を始めてから約一週間。転生者の体質も手伝ってか、傷は完治し、崩れていた体調も問題なく戦えるほどに回復していた。


「それにしても今回は……醜態を晒してしまったな」


 テミスはぽつりと独り言を漏らして、頬を掻きながら軍靴に足を通す。

 よもや戦いに敗れた挙句、ルギウス達に正体を明かす事になるとは……。


「だが……まぁ、うん……」


 悪くない。テミスはそう言葉を続けようとして口を噤み、自らの中に産まれた照れを隠し散らすかの如く、片手で後頭部を乱暴に掻き毟った。

 決して口に出す事は無いだろうが、今回の件はとても助かったと言うほかは無いだろう。

 別に、サキュドやマグヌスを信用していなかった訳では無い。だがふと気が付けば、彼等の思い描く軍団長としての私と、転生者として戦う私の姿がいつの間にか乖離していただけ。


「いや……それすらも、私の思い込みだった訳だが……」


 ばさりと音を立てながら軍服に袖を通し、ため息と共にひとりごちる。病室で一人きりの時間が長かったせいか、どうも独り言を呟く癖がついてしまったらしい。

 しかし、経緯はどうあれ、語り聞かせる機を逃していた事実を語る機会を得、更には背を預ける事のできる友もできた。


「そう考えれば、この程度の怪我は安い買い物……等と言ったら、また怒られるのだろうな……」

「ああ。そうだよ」

「っ!! ルギウス!」


 突如。独り言に言葉を返され、テミスは声の方向へと視線を向ける。そこには、柔らかな笑みと共に佇むルギウスの姿があった。


「やぁ、テミス。調子が良いようで何よりだ。快気祝いに、今の独り言は聞かなかった事にしてあげよう」

「……ルギウス。一応忠告だが、ここは仮にも乙女の病室だぞ。ノックも無しに覗くとは、変態の烙印でも押されたいのか?」

「フフッ……ノックはしたとも。君が考え事に夢中で気が付かなかっただけではないかい?」


 テミスの苦し紛れの反撃をルギウスは難なく躱すと、ゆっくりと傍に歩み寄って笑いかける。相も変わらず憎たらしい程に整った顔立ちで、そんじょそこらの乙女ならば卒倒してその腕の中に納まってしまうのだろう。だが、生憎私にその手の趣味は無いのだ。


「相手が気付いて居ないのならばそれは合図とは言うまい……。もしも私が着替えでもしていたらどうするつもりだったんだお前は……」


 テミスはじっとりとした半眼でルギウスを見つめながら距離を取ると、足元にまとめられていた私物の入った鞄を拾い上げる。


「それは……まぁ、役得と言うヤツじゃないかな? 実際、そうならなくて至極残念だよ」

「ハァ……言ってろ……。それで? わざわざ病室まで呼びに来たんだ。何の用だ?」


 意図的に放たれた答えづらい問いに、ルギウスが爽やかな笑顔で、まるで模範解答の様な変態的回答を返す。その答えを聞いたテミスはガクリと脱力すると、いち早く現状を抜け出すべく話題を急かした。

 真実を語り聞かせてからというもの、ルギウス達との距離が縮まったのは喜ばしい事なのだが、逐一こうしてイジられる様になった事だけには断固として遺憾の意を表したい。

 前々からの常習犯であったサキュド曰く、いつも難しい顔をしていらっしゃるテミス様が、顔を赤らめたり慌てたりするのが新鮮で面白いんですよぉ~。等と趣味の悪い妄言を抜かしていたが、ルギウス達のこの何とも言えない表情を見ていると、その妄言も真実味を帯びてくるので質が悪い。


「まぁまぁ、良いじゃないか。せっかく回復したんだ。少しくらいこうして語らっても罰は当たらないさ。だからテミス。もっと――」

「――しつこいぞルギウス。そもそも、私はこれからお前の居る詰め所へ赴くはずだったのだ。それをわざわざ、お前がこうして病室まで押しかけて来ているんだ。察するなという方が難しいと思うがな」


 ニンマリとした笑みを浮かべたルギウスが茶番を続けようと発した言葉を、僅かに苛立ちの混じったテミスの声が斬り落とす。

 こうしてふざけている暇があるのだから、よほど火急の事態ではないのだろうが、何かがあったとわかっていながらその情報をお預けにされるのは、やはり気持ちの良いものではない。


「フゥ……やれやれだね」

「…………」


 力の籠り始めたテミスの眼差しにルギウスは小さくため息を吐くと、肩をすくめて正面へと回り込む。そして、ニヤけた笑みを浮かべていた表情を一変させ、真面目な顔で沈黙を以て先を促すテミスに向き直ると、静かに口を開いた。


「奴等が……アストライア聖国がまた……動き出したよ」

「……そうか。懲りない奴だ」


 その言葉にテミスは静かな声でそれだけ返すと、ルギウスの横をすり抜けて歩き始める。しかし、その冷静な口調とは裏腹に、その顔には溶けた蝋燭のように歪んだ好戦的な笑みが浮かべられていたのだった。

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