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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第7章

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242話 理知の暗躍

「待てとはどういう意味ですか! カルヴァス副隊長ッ!!」

「そうよカルヴァス! 私達がライゼルを止めないと!」

「ええい! 黙れミュルク! 熱くなる気持ちは理解できるが、状況を考えろ!」


 狭いとは言えなくても、決して広いとも言えない宿屋の中にいくつもの怒号が飛び交った。

 しかし、浮足立つ白翼騎士団に対して、サージルとライゼルは互いに視線だけで静かに腹を探り合っていた。


「フリーディア様もです! いいですか!? 仮にもここは市井の中……こうして議論を交わすだけならばまだしも、剣を抜くなど騎士としてあるまじき行為です!」

「っ……でもっ!」


 カルヴァスの叱責に、フリーディアは少しばかりの冷静さを取り戻すが、それでも尚諦めきれないのか反論を試みる。


フリーディア様(・・・・・・・)


 カルヴァスは、一抹の罪悪感を覚えながらも、下唇を噛みながら大きな瞳に涙すら浮かべ、必死に抗弁を試みるフリーディアの名を力を込めて呼んだ。

 彼女は高潔な騎士だ。その高潔さは、権力闘争に明け暮れていた我々の濁った目を覚まさせるほどに鮮烈で、澄み切った水のように無垢だった。だからこそ……彼女が冷静であったならば、仲間や友の為とは言え、非戦闘員である市民を巻き込んで戦う事を良しとしないだろう。


「っ~~~!! っ…………。……解ったわ」


 長い沈黙と、目に見えるほどの葛藤を経た後。フリーディアはカルヴァスの言葉に頷くと、腰の剣に添えられていた手が力なく垂れ下がる。


「フリーディア様ッ!?」


 しかし、それを咎めるように、不満の叫びを上げたミュルクがライゼルに向けた剣に力を込めて叫びを続ける。


「この野郎は俺達を裏切っただけじゃなく、騎士道に唾を吐いたんだ! ああ、考えてみりゃあそうさ! 魔族とツルんでファントを攻めてみたり、裏切ったり嵌めたりするのはお前の十八番(オハコ)じゃねぇかっ! こんな奴を――」

「――黙れッッ!! リット・ミュルク!!!」

「っ……!!?」


 カチャカチャと滾る怒りで剣を揺らしながら、ミュルクが口汚くライゼルを罵ると、その言葉を遮ったカルヴァスの咆哮がビリビリと宿を揺らす。そして、そのあまりの迫力に言葉を失ったミュルクに対し、カルヴァスは静かに口を開いた。


「……それ以上の発言は、俺が許可しない。下がって居ろリット・ミュルク。副隊長命令だ」

「――しかしっ!!」

「黙れと言ったはずだが? 命令が聞えなかったか? リット・ミュルク隊員」

「ぐっ……フリーディア様ッ……」


 凄みを効かせたカルヴァスに気圧されながらも、ミュルクは抗弁を試みる。しかし、更に圧を増したカルヴァスの気迫に屈すると、助けを求めるかのようにフリーディアの名を呼んだ。


「……剣を収めなさい。リック」

「っ~~~。わかり……ましたッッ……」


 しかし、ミュルクが懸けた一縷の望みを撃ち砕くように、唇を噛んだフリーディアの押し殺した声が命令を下す。

 すると、最後の望みすら絶たれたミュルクは、口惜しさに身を震わせながら抜刀した剣を納め、歯ぎしりと共に後ろに並ぶ騎士達の前まで身を退けた。


「フフ……答えは出た様で。しかしライゼル。いくつか聞かなければならない事ができましたね」


 白翼騎士団の面々が押し黙ると、今度はその様子を眺めていたサージルが薄い笑みを浮かべて口を開く。その矛先は、自らの眼前でカードを納めるライゼルに向けられていた。


「……質問とは? 今更何を聞こうというのですかね?」

「いえいえ。少しばかり……気になったものですから」


 互いに作り笑いを浮かべたライゼルとサージルが向かい合い、偽りの笑みを透過して睨み合う。その妙に高まった緊張感は、口惜しさと無念に焦がれる白翼騎士団達でさえ固唾を呑んで見守る程であった。


「そこの騎士君が言っていた事ですが……魔族と組んでファントを攻めた……とは? 貴方もまた選ばれし者(・・・・・)の筈。何故、わざわざ魔族共なんかと?」

「ククッ……」


 その問いに、ライゼルはまるでテミスのような含み笑いを零すと、ニヤリと不敵な笑みを深めて口を開く。


貴方と同じ(・・・・・)ですよ……サージル。必要とあらば、目的のためには手段を選ばない……当たり前の事だ」

「……なるほど。色々聞きたい事はありますが、それは後にしましょうか……さて、では」


 その答えにサージルもまた、意味深な笑みを浮かべて頷くと、それを見守るフリーディア達に向き直って呼びかける。


「ライゼルにこの町を紹介するついでに、あなた方の視察とやらも済ませてしまいましょうか」

「っ……!!」


 ぎしり。と。挑発とも取れるサージルの呼びかけに、白翼騎士団の面々は拳を握り締めながらも応じたのだった。

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