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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第1章

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24話 白翼の聖女

 遠くの方からガシャガシャと、馬の嘶きと共に鎧の音が近付いてくる。みるみるうちに大きくなる音を鑑みると、かなりの速度なのだろう。


「……増援か」


 テミスは小さく呟いてボロボロの大剣に視線を落とす。この大剣を触媒に、もう一度何かを錬成するか……?

 数秒遅れて臨戦態勢に入った二人を視界の端にとらえつつ、二人に任せて後ろに下がる事を検討しながら敵の姿が現れるのを待つ。


「あれ……は……」

「厄介なのが……来たわね」


 姿を現した敵を見据えて、マグヌスとサキュドが同時に歯噛みする。

 しかし、その数は少数。町を襲っていた連中とは異なり、白を基調とした甲冑を身に付けているが、せいぜい多くても三十人と言った所だが……。


「連中。何者だ?」


 しかし、マグヌス達の間に走る緊張が、彼らを只者では無いと物語っていた。


「……奴等は白翼騎士団。人間軍の中でも最強の部隊です」

「人間って屑ばっかりだけど、アイツらは別。強い癖に驕らないし、溺れない。強く正しくって連中は好きだけど、その分手加減できる相手でもないわ」

「白翼……騎士団だと?」


 いつの間にか各々に武器を構え、臨戦態勢に入っている二人を眺めながら思わず問い返す。確かその騎士団の名前は……。


「はい。あの白銀の甲冑は間違いありません。連中は一兵卒においても我々将校クラスの戦力です。侮らない方が賢明かと」


 マグヌスが緊張の汗を額ににじませて忠告をする。なるほど、町を襲っていた連中をものの数十分で片付けた2人が言うのだ。間違いなく、彼女の部隊は相当の猛者なのだろう。


「隊長? 何をっ――」

「良い。黙って見ていろ」


 着実に、そして急速に距離を詰めてくる白翼騎士団を前に一人、数歩進み出た私を見て2人に動揺が走る。

 だが、彼女の部隊ならば……。あの日語った言葉に偽りが無いのなら、戦闘は避けられるはずだ。


「……たったの三騎で出迎えとは、私達も舐められたものね」


 数秒も待たずに、騎士団の先頭で馬を駆る懐かしい顔が、私から数歩離れた距離で馬を止める。

 美しい金髪を風になびかせながら怒りに顔を歪めている彼女は、確かにフリーディアその人だった。


「…………」

「どうした? 魔族。その立派な甲冑はお飾りかしら? それとも、殊勝にも降伏しに来たのかしら?」

「……隊長?」


 黙ってフリーディアの罵声を受け続ける私に、後ろからマグヌスの緊張した呟きが聞えて来る。


「だんまり……ね。その甲冑に跳ねた血……いったい何人の罪なき人を殺し――」

「久しぶりだな。フリーディア」


 フリーディアが馬上から蔑むように目を細めた瞬間。テミスは止めかけの留め金を無視してヘルムから頭を引き抜いた。


「テミ……ス……?」

「どうした? 罵詈雑言は打ち止めか?」


 一瞬。驚愕に見開かれていたフリーディアの表情が、深い悲しみへと変わる。


「っ……嘘よ。どうしてっ……」

「ならば、次は私の番だな」


 そう言うとテミスは、互いに警戒しながら睨み合う部下たちを無視して大きく息を吸い込んだ。


「茶番も大概にしないかッ!!」

「っ……!?」


 自らに向けられた怒声に、フリーディアの目が再び驚きに見開かれる。


「何が罪なき人だ? 私の後ろに広がる町の惨状を見ろ! 略奪に強姦、誘拐と虐殺。貴様等人間の兵士たちによって、どれほどの罪なき犠牲者が出た事か!」


 叫びと共に、心の中に溜まっていた怒りの炎が燃え上がってくる。


「お前達には知性ある者の誇りは無いのか!」

「……フリーディア様。魔族のたわごとです」


 息を荒げる私を見下ろしながら、フリーディアの隣に居た騎士が彼女に進言する声が聞えて来る。

 その騎士の言葉に、更に身勝手な怒りが燃え上がった。何の悩みも無くフリーディアの隣に居る癖に、いったい何を見ているんだ?


「たわごと? どうかな。たわごとだと言うのなら統治はどうだ? 私はこの目で見て来たぞ? みすぼらしい民家が立ち並ぶ集落と、いっとう豪奢な領主館を。そして人間領を抜けたらコレだ。頭がおかしくなったかと思ったわ」

「それはっ……」


 テミスは傍らの騎士に矛先を向けたが、その言葉に眉をひそめたのは隣のフリーディアだった。


「あぁそうだ。そういえばイゼルの町で珍しく強引なナンパに逢ってな」

「ナン……パ?」

「会って早々に、『俺に仕えろ』とはなかなかに刺激的な出会いだった。聞けばあの町の冒険者将校らしいな?」


 テミスは高らかに歌うように事例をあげつらい、笑顔の形に表情を歪める。ただし、そこに含まれている意味は憎しみではなく嘲笑だった。


「二度と出会う日が来ない事を祈っていたのだがな……まさか、『仕える』人間を物色しに侵攻しに来るとは……さぞ有能な指揮官らしい。――――今はそこで転がっているがな」

「っ!」


 笑みを広げて後ろに転がるカズトの死体を顎でしゃくると、騎士団一行が一斉に息をのんだ。


「でたらめだ! 隊長! 見た所人間らしいですが、所詮は魂を魔王に売った裏切り者……全部我らを騙す虚言に違いありません!」


 隊列の後ろから歩み出てきた赤毛の騎士がフリーディアにまくし立てる。ああいうのをまだまだ青い……と言うのだろうか。


「お前……面白い事を言うな。名は?」

「貴様のような腐れ畜生に名乗る名など――」


 赤毛の騎士がそう応じようとした途端、フリーディアの隣で彼女に進言していた男の拳が静かに、しかし有無を言わさぬ迫力の言葉と共に彼の頭に叩き込まれる。


「騎士道から外れるな。相手が犬であろうと何だろうと、名を問われれば正々堂々と名乗りを上げる。それが例え魔族だろうとな」


「ちっ……リット・ミュルクだ!」

「それではリット・ミュルク卿」

「っ……」


 テミスは名を呼び、今まで漠然とフリーディアや騎士団全体に向けていた意識をミュルクへと集中させて、目を見開いて更に笑顔を歪める。


「私が今、この背に背負う町から上がる煙が……幻覚とでも? よろしければ私がガイドとして、貴方の同胞が蹂躙したこの町の名所を観光案内致しましょうかァ? 傷付いた敵国の民間人や、破壊された家屋などなど……我々にとっての悲劇は、貴方達の最高の喜劇となるのでしょう?」

「こ……の! 言わせておけばいけしゃぁしゃぁと!」


 私の煽り文句を買って剣を抜いたしたミュルクに続いて、背後の騎士達が堪り兼ねたかのように次々と抜刀する。

 やれやれ、この程度でキレるとは……小学生並の忍耐力だな。と、テミスは内心で嘆息しながら小さくため息を吐く。今の台詞は意図的に、反論できない程の事実を最大限に相手の誇りを汚すように放ったもの。故に頭にきて怒っても不思議ではない。しかし、真に清廉潔白な騎士様であるのならば、略奪や民間人を巻き込んだことを詫びるべきではないか?


「はぁ……結局そうなるのか。フリーディアの部下と言うから期待していたのだがな」


 内心の失望の一部が呟きとなって表へとまろび出る。結局彼女の組織もまた、都合の悪い事は力で隠匿し、耳障りの良い正義へと置き換えるのだろう。

力なく首を振ったテミスの手が、ゆっくりとその背に背負われた大剣へと伸びた。

8/13 誤字修正しました

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