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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第7章

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221話 女神の使徒

 人間領内地・ゼルファー

 暴政が多い人間領の中でも、突出して善政を敷いていると謳われるこの町で、一人の男が立ち上がろうとしていた。


「やぁ、調子はどうだい? マーカス」


 黒髪の短髪に精緻な意匠が凝らされた軽鎧を身に着けた少年が、街路に面したカウンターで渋い顔をしている荒くれ風の男に声をかける。風貌から、年の頃は18か19くらいだろうか。未だ垢抜けない雰囲気と、その豪奢な装備は見る者にどこかちぐはぐな印象を与えている。


「サ……サージル様ッ!? そ。そりゃもうっ! ……って、そいつはっ!」


 しかし、サージルと呼ばれた少年を認めると、名を呼ばれた荒くれの男は慌てて背筋を伸ばして応対する。同時に、その視線はサージルがその背に担いでいた獣へと引き寄せられる。


「クリークラビット・ロード。中々にてこずったけど、何とか仕留めたよ」


 サージルは人の好い笑みを浮かべると、背負っていた獲物をカウンターの上にドサリと下ろした。しかし、マーカスの視線はサージルの笑顔へと釘付けになっているままだった。そして、驚きの表情を崩さないままボソリと言葉を漏らす。


「な……何で貴方が……」

「おいおい。貴方なんて止してくれよ。僕だって元はと言えば一介の冒険者なんだ。前みたいにサージルって呼んでくれ」

「ば……馬鹿言っちゃいけねぇ! 貴方は今やこの町を治める領主……冒険者将校様なんだ。ンな口利いたんじゃ、他の奴等に殺されちまうよ」

「それこそ馬鹿な話だろうマーカス。確かに僕は領主になったけど、その役目もつい最近拝命したばかりの青二才だ。事実。至らぬ点も多いからね」


 サージルはマーカスの言葉に笑みを零すと、そのままカウンターに背中を預けて親し気に言葉を交わす。


「で、でもよ……なんでわざわざ領主様が、クリークラビット・ロードの討伐なんて危険なクエストを……」

「危険だからこそ……さ」


 後頭部を掻いたマーカスが視線を逸らしながら問いかけると、サージルは涼やかな笑みを浮かべて即答する。


「各地で廃れつつあった冒険者稼業を復活させたのは僕だ。なら、冒険者の一人として……そして領主として、危険なクエストは先陣を切って受けるべきだろう?」

「っ……さ、流石はサージル様だぜ……その気概、俺達が惚れこんだだけはある」


 その言葉に、マーカスは目尻に感動の涙を浮かべながら震える声で呟くと、何度も大きく頷いた。


「ハハ。当たり前の事をしただけさ。それに――」

「わかっていますって、全ては女神様の導きのままに……でしょう?」

「…………あぁ。わかってるじゃないか」


 輝かんばかりの笑みを浮かべたサージルの言葉を食って、マーカスがその後に続く決まり文句を口にする。すると、少しばかり長い沈黙の後、柔かに微笑んだサージルがそれを肯定する。


「んっ……? それはそうと、サージル様。いつもの剣はどうしたんですかい?」


 マーカスはふと気が付いた違和感を口にすると、首を傾げて問いかけた。

 このサージルという冒険者上がりの少年は、見かけによらない怪力で、その白く輝く片刃の大剣を羽のように振り回す姿は、この辺りでは有名なのだが……。


「ああ、今日はちょっとね……。あ~……アレを持ってると、人が集まってきちゃうから。皆を危険なクエストに連れていく訳にはいかないからね」

「なるほど……にしたって、大剣は貴方の一番得意な武器でしょうに……。俺ァ御身が心配ですぜ」

「フフ……ありがとう、マーカス。でも、大丈夫だ。僕には女神様が付いているからね」


 そう言うと、サージルは軽やかにカウンターから身を離してマーカスを振り返る。


「っあ……! サージル様。クエストの達成報酬は……」

「いつもの様に、領主館の財務宛に送ってくれ」

「ハァ……貴方って人は本当に……」


 サージルが慌ててその背に投げかけられた問いに即答すると、マーカスは呆れたような笑みを浮かべて頬を掻く。

 冒険者として稼いだ金まで全てこの町の為に使う……しかも、わざわざ匿名で寄付する形を取る徹底っぷりは、マーカスがサージルの善性を感じるには十分すぎるほどだった。


「了解しましたよ。いつも通り、上手くやっときます」

「ああ。頼む。……っと、そうだ」


 半ばお決まりとなった別れ際のやり取りを交わしたあと、数歩進んだサージルがその足を止めてマーカスに顔を向ける。


「……? どうかしたんですかい?」

「報せは届いているとは思うが、今夜の集会……待っているよ。君には是非その瞬間に同席して欲しい」

「ええ。勿論ですとも」


 マーカスがそう答えると、二人は笑顔で頷き合い、サージルはそのまま背を向けて立ち去って行った。


 ――その夜。


「皆! 集まってくれてありがとう!」


 サージルは堂々とした面持ちで声を張り上げると、領主館の前に集まった人々を見下ろして微笑んだ。

 今日この瞬間。歴史は正しい方向へと動き出す……。悪辣を下し、女神様の使命を果たす為、皆が幸せに暮らせる世界を創る一歩となる。


 確かな確信と共に、サージルは大きく息を吸い込むと、天に輝く星々に届くほどの大声で宣言を発した。


「今この瞬間。この町ゼルファーは進化を遂げる! 私はここに、ゼルファーがロンヴァルディア王国から独立し、新たな都市国家となる事を宣言する! 我らが国の名は、世界を憂う女神……その名を冠した、アストライア聖国だッッ!!」


 サージルがそう宣言してから数秒後。

 戸惑いと困惑のざわめきをかき消すように、まるで爆発でもしたかのように巨大な歓声が満天の星空に響き渡ったのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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― 新着の感想 ―
う、うわぁ…… いつの世も狂信者は厄介だぁ。
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