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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2282話 天を衝く慟哭

 ドズドズドズッ……!! と。

 周囲からテミスを刺し貫いた柄の無い剣の刃は、テミスの身体を持って束ねられ、まるで花束のような姿を形作った。

 その中心で、全身を貫かれたテミスの身体は、百舌鳥のはや贄が如く、腹を天へ向けた格好で宙吊りになって止まる。


「ッ……!! ァ……ッ……!!」


 もはや悲鳴すら上げる事の叶わぬ激痛がテミスの全身を襲い、一瞬で意識が白く塗り潰されていく。

 最早戦うことなど不可能。

 無数の刃でその身を刺し貫かれたのだ。いかに人並外れた強靭な肉体を持つテミスといえども、まごう事無き致命傷で。

 今この瞬間に、命を繋ぎ止めているだけでも奇跡に等しい状態だった。


「っ……!!」


 数秒の沈黙の後。

 宙吊りとなったテミスの手からズルリと大剣が零れ落ち、ガランと乾いた音を立てて地面へと落ちる。

 テミスの血に塗れた大剣は、その刃を地に突き立てることなく横たわり、力無く倒れ伏したその格好は、地に伏すことすら叶わない主の姿を代弁しているかのようだった。


「フム……」

「……ッ!!!」


 それからさらに数秒。

 滅多刺しにされたテミスの身体から滴る血が、柄の無い剣を伝って地面に落ち、それが血だまりを作った頃。

 静かに息を吐くような音と共に、テミスの身体を刺し貫いていた柄の無い剣が一斉に蠢き、テミスの身体から抜き放たれる。

 だが、支えを失ったテミスに立てるだけの力は残っておらず、力無く為されるがままに垂れさがっていた肉体は、バシャリと音を立てて血だまりの中へと落ちた。


「……終わりだね」

「クッ……!!!」


 その光景を見たスイシュウが、ガクリと力無く項垂れながら呟きを零すと、悔し気に歯を食いしばったアイシュが拳を地面に叩きつける。

 見るも無残な絶望の光景が、目の前には広がっていた。

 旗頭たるテミスは血だまりの中で力尽き、ネルードきっての勇士であるアイシュとスイシュウも希望を失い、力無くその身を地に横たえている。

 共に戦わんとこの地に集った様々な種族の精鋭も、その身を蝕む呪いに打ち勝つ事は叶わず、意識を繋ぎ止めているものすらほとんど居ない有様だ。

 どう言い繕おうとも逃れ得ぬ、全滅という救いの無い現実だけが、雌雄を決した戦場に静かに横たわっていた。


「ッ……!!!」


 だが、どう足掻いた所で覆す事の叶わない絶望の中にあって尚。

 テミスはただ一人その戦意を失ってはいなかった。

 最早その感情は戦意と称するよりも、妄執や執念といった類のものに近いのだろう。

 この場の誰よりも深手を負っているにも関わらず命を繋ぎ、動かぬはずの手を微かに動かしている姿は、それほどにまで常軌を逸していた。


「そこまで深手を負って、まだ意識があるのか。驚嘆に値する生命力だが……今は哀れという他はないな」

「…………」

「その傷では持ってあと数分の命。あえて止めは刺すまい。そうだな、せめてもの冥土の土産にひとつ、私からも花を手向けるとしよう」


 テミスの身体から離れ、一か所に集まった柄の無い剣は再びヒトの形を模ると、『先生』は瀕死で横たわるテミスを血だまりの外から見下ろしながら、穏やかな声で言葉を紡ぐ。


「折角だ。君が共に戦った仲間も一緒に送ってあげよう。特等席で見届けると良い。さぁ、最期の花火だ!!」


 更に言葉を続けた『先生』の声色は、徐々に穏やかさの仮面が剥がれ、内に秘めた嗜虐性が顔を表した。

 高らかな宣言と共に、ヒトの形を模った背にメギメギと生えた一本のミサイルは、誰かが止める間も無く宙へと放たれ、瞬く間に空の彼方へと消え去っていく。

 そしてその数秒後。


「おぉっ……!! 聞こえたかい? あの音が。感じたかい? この揺れをッ……! 良い事を教えてあげよう。今の一撃は、パラディウムとかいう君たちの拠点へ向けて放ったものだ」

「……!!!」

「アハハハハハハッ!!! いやすまないっ! 君の道連れと手向ける筈が、先に殺してしまったッ!! 君の仲間は、君を待っていてくれるかな?」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッッッ……!!!!」


 ドォォォンッ……! と響く微かな音と共に僅かに地面が揺れ、彼方の空にキノコのような形の雲が形成された。

 それらを認識すらできないまま、高笑いをあげて勝ち誇る『先生』の言葉に、血だまりの中に沈んだテミスは鬼気迫る声色で怒りの絶叫をあげる。

 しかし、深く傷付いた身体はいくら力を込めようとも、痙攣するかのようにぴくぴくと動くだけで、ただ血が流れ出る速度を速めるだけだった。


「ふふっ……はははっ……!! 戦いは終わりだ。さぁ行こう、終わりを与えに。さぁ行こう、もう邪魔者は居ない」


 勝利宣言を放った『先生』は、テミスを見下ろして酷く楽し気な声で笑い声をあげると、悠然とその身を翻して、為す術無く地面に転がるテミス達を背に歩きはじめる。

 そんな全てが終わった戦場には、テミスの声なき怒りの慟哭が音も無く天を衝いていたのだった。

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