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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2278話 終焉の兵器

 テミスの援護を受けたアイシュとスイシュウの動きは、目を見張るほど鮮やかなものだった。

 ゆらゆらとトリッキーな動きで攻めるスイシュウに対し、アイシュはただひたすらに速力を生かした猛攻を仕掛ける。

 しかし、二人がかりであっても『先生』に有効打を与えるには至らず、激しい剣戟の音だけが戦場に響き渡った。


「ハァッ……! ハァッ……!! こりゃぁ……参ったねぇ。とんでもない強さだ」

「ハッ……ハッ……ッ……!! 二人がかり……いえ、三人がかりでこれですか」

「だが、諦めて退く訳にはいかない。そうだろう?」


 剣戟を止めて退き、荒い呼吸を繰り返す二人を見据えながら、テミスは静かな声で戦意を鼓舞する。

 たとえテミスの攻撃は通じずとも、アイシュ達を狙った攻撃を防ぐ事は出来る。

 故に。テミスは二人の援護と防御に徹し、付与した魔法をかけ直しながら、自身も前に出て攻撃を阻んでいた。

 だがそれでも。

 三人を前にして『先生』は悠然と仁王立っており、多少の傷を与えてはいるものの即座に回復され、有効な一撃を与えることはできていない。


「そうは言っても、だね……! 流石にこれは、時間を稼いで避難するべきだとボクは思うよ? 僕達三人だけじゃ、決めきれないッ!」

「せめて、貴女の攻撃が通ればまだ、幾ばくかの可能性は見いだせたのでしょうが……」

「ハッ……! 何を臆病風に吹かれている。コイツがヒトの枠から外れた化け物であるのは先刻承知済みのはず。今更逃げだした所で結末は変わらんぞ」


 大剣を構えたテミスは吐き捨てるように告げると、前を見据える目を静かに細める。

 事実として、アイシュとスイシュウの意見は戦略的には正しいのだろう。

 だが第一に、ここまで切り結んだ『先生』が、素直に撤退をさせてくれるはずもなく、何より退くためには力尽きた仲間たちをこの場に見棄てていくことになってしまう。


「フム……その様子では、そろそろ限界のようだ。超越者たる私に届き得る刃を持つ二人と、只人の身で超越者たる私にここまで食い下がった者。もう幾ばくかの進化が見られるのではと期待したのだが、どうやら外れだったらしい」


 逡巡するテミス達の前で、佇んで様子を窺っていた『先生』はゆらりと一歩前に足を踏み出すと、穏やかな口調で淡々と言葉を紡いだ。

 だがそれはテミス達にとって、死刑宣告にも近い言葉で。

 つまるところ、今の今まで『先生』はただこちらを観察していただけなのだ。

 テミスの魔法によって強化されたアイシュとスイシュウを以てしても、『先生』の全力を引き出すには至って居なかった事を意味している。


「ならばその健闘に、せめてもの労いを贈るとしよう。見るが良い。新たな兵器を」

「黒い……杭……?」

「ここで新しい武器とは、厄介ですね……」

「ッ……!!!」


 ぐじゅるっ! と。

 言葉と共に蠢いた『先生』の背中が蠢き、一本の円筒形をした杭のようなものが姿を現した。

 ひと目見ただけではただの杭。

 だからこそ、アイシュもスイシュウも新たな兵器などという大言壮語と共に、見せ付けられたそれを理解する事ができずに困惑を露わにしていた。

 だがただ一人、テミスだけは。

 鋭く息を呑み、背筋を駆け抜ける怖気に目を見開いていた。


「わざわざ形を似せたんだ。君にならばわかるだろう?」

「アイシュッ! スイシュウッ!! 奴にアレを撃たせるな!! 私も出るッ!!」

「なっ……!? 何をっ……!?」

「無茶です! 貴女の攻撃は通じないのですよッ!」

「だとしてもだッ!!!」


 『先生』の背中に形作られた杭型の兵器。

 それがミサイルであると確信した途端、テミスは己が身を焦がす戦慄に突き動かされるように、猛然と『先生』へ斬りかかった。

 しかし、テミスの攻撃は悉く阻まれて届く事は無く、割れ裂けたような『先生』の唇が、ニンマリと口角を吊り上げて笑う。


「君たちにも理解できるように言うのならば、超長距離射程を持つ砲弾といった所だろうか。その気になれば、ここから対岸の町も狙えるだろう」

「なっ……!? 流石に信じられませんッ!!」

「なんだって……!?」

「信じなくとも構わんッ!! アレに後方が焼かれれば、途方もない被害が出るぞッ!!」


 ゆっくりと諭すかのように、『先生』は背中に聳え立つ()を指差しながら、淡々とした声で解説を続ける。

 しかしその間も、テミスは必死で届かない大剣を振るって叫びをあげ、いまいち危機を理解していない二人に警鐘を鳴らした。

 あのミサイル擬きがどれ程の威力を有しているのかはわからない。

 だが、この世界には戦争の折に民間人を殺してはいけないという決め事は存在しないのだ。

 個々人がそれぞれの良識や矜持に従って、戦う力の無い者の命を奪わないことはあれど、少なくとも眼前の『先生』にそういった意識が無い事は明白。

 つまり、ファントの町やフォローダの町、そしてこのネルードも。

 射程にさえ入っていれば、そこに住む人々ごと全て灰燼に帰すのだ。


「ははっ! ただ焼くだけじゃあない。これは炸裂した後、周囲へ呪いを振りまいて広げていく。ヒト、物、土地……全てを呪い滅ぼす最強の兵器だ」


 そんなテミスの焦燥を肯定するかのように、『先生』は朗らかな笑い声をあげて頷いてから、高らかに最悪の言葉を重ねたのだった。

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