2273話 力の根源
真っ白に染まったテミス達の視界の中で。ぶつかり合った2つの技のエネルギーが、バヂバヂとスパークする音を奏でる。
しかしそれも束の間の事で。
次第に音は不規則なリズムへと変わっていき、テミス達の前方からは嵐のような暴風が吹き付け始めた。
「クッ……!!」
月光斬が圧し負けている。
テミスは直感的にそう察すると、咄嗟に振り抜いた大剣自らの前で盾のように構えて防御の姿勢を取った。
その直後。
「クゥッ……!!?」
ガギィィィィンッ!! と。
大剣を構えるテミスの手に強烈な衝撃が伝わると同時に、押し寄せる暴風の威力が桁違いに跳ね上がった。
瞬間。
テミスと並び立っていた仲間達は、堪え切れなくなった者から順に、姿勢を崩して後方へと吹き飛ばされていく。
「ほぅ……? 堪えたか。少し意外だよ。しかし辛うじて……といった所、お仲間は全滅だ」
「ッ……!!」
まき散らされていた閃光と烈風が収まり、穏やかに響く『先生』の声と共に、大剣を構え続けるテミスの目に視界が戻ってくる。
そこには、歪な長剣をテミスの構えた大剣と鍔ぜり合わせ、悠然と佇む『先生』の姿があった。
しかも、『先生』はテミスのように両手で剣を構え、全力を以て相対している訳では無い。
さながら子供が、拾った木の枝を剣の代わりに振り回しているかのように、片手で振るっただけといった印象。
ただのそれだけで、相応の実力者であるコジロウタやサキュドたちまでも、まとめて吹き飛ばし得るその威力を見れば、確かに超越者などという戯言も現実味を帯びてくる。
「ハッ……!! 偉そうなことをほざいた割には、私にお前の剣は届いていないぞッ!!」
「どうやらそのようだ。ギリギリの及第点ではあるものの、君は私と戦う資格があるらしい。そう、君だけはね」
「なに……!?」
鍔迫り合いを演じていた長剣を払い、『先生』はゆらりと掌をテミスの後方へと翳して告げた。
心なしか、ただ粗雑にひび割れているだけの唇擬きの端が、愉しむかの如く吊り上がっているように見えた。
だがそれよりも、サキュドたちの状態を案じたテミスは、怒りにささくれ立つ心を押し留めて、チラリと肩越しに背後の様子を窺った。
「ぐっ……くっ……っぅ……!! テミス……様っ……!!」
「っ……」
「はぁっ……うっ……ぁぁっ……!!」
しかしそこに広がっていた惨状は、テミスの予想をはるかに超えたもので。
地面の上に倒れ伏し、苦し気に表情を歪めながらも、薄く明滅する紅槍の石突を地面へと突き立てて起き上がろうと藻掻くサキュド。
片膝を地に付き、長刀の峰に額を預け、何かを堪えるかのように肩で息をするコジロウタ。
そのすぐ傍らに四肢を投げ出した格好で仰向けに倒れたシズクは、虚ろな表情で涙を流しながら、ビクビクと時折身体を跳ねさせている。
「馬鹿なっ……!」
「待ちたまえ。駆け寄った所で意味は無い。無意味な事で私を待たせるのは許されざる大罪だ」
「ぐっ……!!」
咄嗟に駆け出すべく、身を翻したテミスが一歩を踏み出しかけた時。
背後から響いた『先生』の声がそれを阻み、テミスの足を止めさせた。
「お前、何をした……? 奴等がこの程度でやられるなどあり得ん」
仲間達の傍らへと駆け付ける代わりに、幾ばくかの冷静さを取り戻したテミスは、低い声で『先生』へと問いかけながらゆっくりと振り返る。
その時に映った視界の端に、意識すら失ったと思われるジールたちが転がっており、彼等を守ったのだと思われるコルカも、その前で倒れ伏している姿が垣間見えた。
毒か……? それとも、何かしらの魔法攻撃か……?
同時に、僅かに冷静さを取り戻したテミスの思考が高速で動きはじめ、様々な可能性を模索する。
サキュドたち程の実力者が、ただ剣戟の余波だけで戦闘不能に陥るほどのダメージを負うとは考え難い。
だからこその搦め手が何かある。
そうテミスは確信していたのだが……。
「やれやれ。少し失望したよ。君は戦うべき敵である私の力の源泉が何かを、もう忘れ果ててしまったというのか?」
「っ……!! 呪い、か……っ!!」
肩を竦め、溜息まじりに答えた『先生』の言葉に、テミスは目を見張って鋭く息を呑んだ。
異形の兵士や呪法刀など、不気味で不可思議な形へと姿を変えてはいるものの、その根底には呪いが常に潜んでいる。
『先生』曰く、負の感情エネルギーであるという事だけは、テミスも理解はしているのだが……。
「その通り。正解だ。私の力は呪い、この姿も呪いの力によるものだ。だからこそ、私の放つ攻撃には、源泉たる呪いの力が、乗る……のだろうね」
「チッ!! 忌々しいッ……!!」
「呪いを御せず、猛毒に等しい低俗な君たちにとってはそうだろう。この力は弱い者ならば触れただけで、呪って、憎んで、羨んで、妬んで、蝕む。呪いは今、当てられた彼女たちを呑み込まんとしているんだ。抗った所で相応の苦痛はあるだろう」
鷹揚に頷いた『先生』が、手に携えた歪な長剣をゆっくりと持ち上げながら、静かに言葉を紡ぐと、テミスはギシリと固く歯を食いしばって、大剣の柄を強く握り締める。
そんなテミスを煽り立てるように、『先生』は朗々とした声色で言い放ったのだった。




