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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2271話 ヒトの先

 バリバリ、メギメギと。

 異形の球体から軋む音が響き、中から一つの人影が歩み出てくる。

 背の丈は少し長身な成人男性ほどで、すらりとした細身の体格だった。

 しかし、ひたりと不気味な音を立てて地面に足を付けた人影は、体格こそ普通の人間の範疇ではあったものの、のっぺりと凹凸の無い顔面や、身体を構成する黒く光沢のある物質は、紛れもなく異形の兵そのもので。

 その身から放つ異質な気配を前に、テミス達の間に緊張感が張り詰める。


「ッ……! む……ア゛ッ……!! ……あ~、あ~……。うん。いや助かった。内側からでは、()をこじ開けるのは手間だったんだ」


 テミス達の視線が集中する前で、異形の人影はビギビキと不気味な音を奏でながら、顔面に口と思しき亀裂を作り出し、『先生』の声を以て静かに語り始めた。


「っと、失礼。話は作業を続けながらにさせてもらうよ。なにぶん、変体したばかりで飢餓感が酷くてね。食事のようなものさ」

「…………」


 確かに声色は聞き違うはずもなく『先生』のものだったが、その落ち着き払った口調はまるで別人で。

 そのあまりの異質さに凍り付いたように硬直しながら、テミスたちは眼前の異形が自らの這い出てきた球体の残骸に手を翳し、グズグズと吸収していくのをただ見守ることしかできなかった。


「さて、君たちは今の僕……いや、私の姿に疑問を持っている事だろう。強いのか? はたまた弱いのか? 当然の事だ。我々は敵同士、気にならない方がおかしい」

「……その口ぶりでは、親切に教えてくれるように聞こえるが?」

「あぁ、教えよう。私は今の君たちよりも強い。理解できるかな? 羽化したのだよ。言葉の綾ではなく、目に映る世界が変わった。私はヒトを超越したのだ」

「ヒトを超越……ね。結構な事だ。そのまま悟りでも開いて山奥にでも籠ってくれれば言う事は無いな」

「フフフ……面白い冗談だ。超越者たる私には、世界を統べ、導く義務がある」

「やれやれ。まずは鏡を見た方が良いんじゃないか? 化け物」

「ただのヒトが超越者たる私を畏れるのは自然の理。無理からぬことだ」


 誰もが気圧されて言葉を失う中。

 テミスだけは皮肉気に頬を吊り上げて微笑みを浮かべると、眼前に立つ異形と真っ向から言葉を交わす。

 相対しているだけでもビリビリと伝わってくる気迫は凄まじく、それはヒトを超越したという妄言じみた主張もあながち間違いではない事を物語っていた。

 穏やかで余裕のある口調は、その超然たる強さを得たが故の自身の表れなのだろう。


「さて。超越者たる私は、君たちに一つの栄誉を与えよう。今この場で私に服従し、世界を統べ導く私の手足となって働くという誉れを」

「ハッ……! 随分と慈悲深いな? お前は私に恨み骨髄であったはずだが?」

「全ては過去の事。私は赦そう。君を。否……むしろ超越者たる私にここまで相対する事ができた君たちこそ、旗下に迎えるにふさわしいと考えている」

「…………」


 実に降らない、唾棄すべき妄言だ。

 テミスは胸の内でそう吐き捨てながらも、口を噤んで大剣の柄を握る手に密かに力を籠める。

 尊大で婉曲な言い回しこそしているものの、コイツが宣っている事は絶大な力を振りかざしての世界征服に過ぎない。

 世界を征服する自分の手下になれと告げているのに、世界の半分も寄越さない所は、同じ台詞を勇者に吐いた何処ぞの魔王よりも狭量に思えるが……。


「ククッ……柄じゃないな。勇者など。どうやら、私も少し妄言にあてられてしまったらしい」


 徐々に加速し始めていた自身の思考を、テミス皮肉気に頬を歪めて笑い飛ばすと、朗々と揺らぐ事無く言葉を続ける。


「一応……訊いておくが、世界を統べ、導くとは具体的に何をするつもりだ?」

「決まっているだろう。今のヒトはあまりに愚かで脆弱だ。無駄に争い、無為に命を費やさんとする。度し難い暴挙を正し、超越者たる私の元で統制するのさ」

「フハッ……!!!」


 決して相容れないであろう事を知りながらも、テミスは静かに眼前の自称・超越者を見据えて問いかけた。

 しかし、返ってきたのは酷くわかりやすい、決して相容れる事は無いという事実だけで。

 あまりに予想通りなその答えに、テミスは堪え切れずに笑いを零した。

 そして……。


「化け物風情が神の真似事とは恐れ入る。我々の目的はが変わる事は無い! はた迷惑な化け物の駆除だッ!!」


 テミスは固く柄を握り締めた大剣を振りかざすと、その切っ先を眼前の異形へと突き付けて、凛とした気迫を漲らせて言い放った。


「やれやれ。残念だ。超越者たる私に抗えるとでも? ならば教えよう。それがいかに不遜で無謀な蛮勇であるかを」


 そんなテミスの答えに、異形の殻の吸収を終えた『先生』はゆらりと向き直ると、穏やかな声で言葉を返したのだった。

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