2269話 無双たる連撃
周囲へ吹き荒ぶ紅色の魔力の奔流が、花びらのような形を模り、紅の大輪が咲き誇る。
テミスの作った隙を生かしたサキュドは、異形の巨人と化した『先生』の首の裏へ正確に紅槍を突き立て、寸分の狂い無く穿ち抜く。
「ッ……!! ……ッ!!」
だが、サキュドの一撃がただ鋭いだけの一刺しで終わる筈もなく。
首筋へと紅槍の穂先を突き立てたまま、サキュドは更に魔力を放出すると、その勢いを以てバギバギ、ミシミシと音を立て、さらに深く紅槍を押し込んだ。
「これで終わりだッ!!!」
一方でテミスも、ただ腕を縫い留めて満足するような戦士では無かった。
サキュドの放った一閃が着弾したのを確認すると、テミスは即座に『先生』の腕へを突き立てた大剣を引き抜いて構え直し、全力で振りかぶって力を籠める。
全霊を以て刀身へと注ぎ込まれる力は、間を置かずバヂバヂと弾ける音を奏でながら真っ白に輝き、瞬く間に眩い光を以て大剣の刀身を包み込む。
そうしてテミスの準備が整った頃。
サキュドが吹き上げる紅の魔力に陰りが見え、大きな一輪の大花が如く吹き上がっていた魔力は、ひらひらと宙を舞う細かな花びらへと姿を変えていた。
「サキュドォッ!!」
「ッ……!!」
瞬間。
テミスは猛然とサキュドの名を叫ぶと同時に、渾身の力を込めた月光斬を、サキュドが穿った『先生』の傷へ向けて振り下ろす。
放たれた煌々と輝く光の斬撃が着弾する刹那。
サキュドは僅かな魔力の奔流を残してひらりと宙へ跳び上がり、クルリと空中で身を翻して、諸共に巻き込むかのように放たれた月光斬を躱してみせた。
そして、テミスとサキュドはまるで示し合わせていたかの如く、隣り合わせの位置へピタリと着地すると、会心の微笑みを浮かべて視線を交わす。
「さて……ここは一つ、様式美として言っておくべきか?」
「……テミス様がそう言った時は、碌な事になりません。お止しになってくださいな」
「クク……それもそうか……」
テミスはクスリと皮肉気な微笑みを浮かべて、脳裏に浮かんだ一つの文言を呑み込むと、微かな白煙を燻らせながら変わり果てた『先生』の姿を見上げた。
如何に頑強極まる身体を持っていたとしても、黒銀騎団きっての威力を有するサキュドとテミスの一撃を立て続けに受けては、流石に耐えきれなかったらしい。
異形の巨人は頭の天辺から真っ二つに切り裂かれ、左右にぐにゃりと拉げ曲がって動きを止めていた。
「…………」
「…………」
これで、残った遺骸が塵となって虚空へと消え失せればそれでよし。もしもそうでなければ……。
並び立つテミスとサキュドが、残心を解く事なく大剣と紅槍を構えたまま静かに、奇妙な形へと姿を変えた異形の巨人であった物体を見据えた時だった。
「おぉ~いっ!! やったのかぁッ!!?」
背後から暢気な大声が響いたかと思うと、声の主と思われるジールを先頭に、コルカやシズク達といった、触腕に足止めを喰らっていた面々が駆け付けてくる。
「お前……わざわざ私が呑み込んだ言葉を宣いやがってッ!!!」
「なっ……!? なんでぇ……? 俺はただ、やったのかって確認をしただけで……」
「こちらの触腕たちは突然ビクリと動きを強張らせたかと思うと、一斉にべしゃりと崩れ落ちて動かなくなったのです!」
「見事な一撃であった。あの傷痕からも、如何なる大技であったか想像に難くないというもの」
「…………」
「…………」
緊張に満ち満ちていた空気が一転、テミスが怒りの咆哮をあげると同時に、戦勝に沸く明るい空気が戦場を満たした。
コルカもシズクもコジロウタも、どうやら物言わぬ残骸と化した異形の巨人は既に討伐せしめたのだと認識しているらしく、武器を既に納めている。
しかし、サキュドとテミスは口を閉ざして無言のまま視線を交わすと、緊張を緩める事無く視線を物言わぬ残骸へと向けた。
「……やはり、テミス様もですか? アタシとしては、テミス様の一撃で決めであって欲しいと願っているのですが」
「お前もか……サキュド。どうやら、嫌な予感という奴は当たるらしい」
直接、異形の巨人と化した『先生』を切り裂いた二人は、渋面を浮かべて言葉を交わすと、予感を確信へと変えてゆらりと静かに身を落とした。
先ほど加えた一閃で感じたのは、ほんの僅かな違和感。
例えるのなら、真っ二つに切り裂いた果実の中心に、在る筈の種が無かったような。信を外したかの如き感覚。
だからこそテミスはサキュドに、サキュドはテミスに、相手にこそ手応えがあって欲しいと願っていたのだ。
「喜べお前達。このデカブツは随分としぶといらしい。まだ戦いの舞台は残されているぞッ!!」
周囲へ集った面々に、テミスは大剣を構えたまま皮肉気に頬を歪めて注意を促した時。
そんなテミスの警告を嘲笑うかの如く、真っ二つに拉げた頭部のそれぞれに一つづつ、まるで眼球でも模しているかの如く仄かに赤い光が灯ると、ぐぢぐぢと気持ちの悪い音を立てて、異形の巨人の残骸が蠢き始めたのだった。




