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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2263話 雌伏の罠

 駆け付けたサキュド達と合流を果たしたテミスは、大剣を傍らに付き立てたまま静かに微笑みを浮かべて言葉を交わす。

 脇腹に食らった傷がずきずきと鈍い痛みを発したが、傷口は既に焼き止めており、血が溢れてくる事は無い。

 尤も、傷口を無理矢理焼き固めているのだから、この手の傷は治癒が酷く遅く、もしもファントの医療を取り仕切るイルンジュがこの処置を知った日には、病室に監禁される羽目になる事が見て取れるのだが……。


「とはいえ、無事に事が済んで何よりだ」


 テミスは大きく息を吸い込んで告げると、ゆっくりとした足取りで数歩後ずさる。

 一度は倒し損ね、酷く苦戦したように思えたものの、こうして後から振り返ってみると、かつて激闘を演じたヤトガミやサージルには遠く及ばない戦いだった。


「やれやれ……これで下らん戦いも終わりか……」


 深々と息を吐いたテミスは、傍らに付き立てた大剣の柄頭に掌を乗せたまま空を仰ぎ見ると、感慨深げに言葉を漏らす。

 ユウキ曰く、今のヴェネトレアにはロンヴァルディアとの戦いを続けるだけの余力は無いらしい。

 そしてアイシュたちの新生ネルード公国が、ロンヴァルディアとの協調を示せば、残るはいまだに動きを見せないティロティアルのみ。

 仮にティロティアルが反ロンヴァルディアの意を持っていたとしても、たった一国でロンヴァルディアと戦端を開いた所で、国の規模からして些末な戦いが一つ増えるだけだ。


「テミス殿」

「ン……? 何だ?」

「此度は面倒をかけてしまい相済まない。改めてお詫び致したい。……如何すれば詫びれるであろうか?」

「……気にするな。お前にも守るべきものがあっての事だろう。今度はついでに、おまけ連中も守ってくれればそれで良いさ」

「承知した」


 穏やかに佇むテミスに、音もなく進み出たコジロウタが低い声で名を呼んで問いかける。

 するて空へ視線を向けていたテミスは、コジロウタと真っ直ぐに視線を交えて言葉を交わし、コクリと頷いたコジロウタがシズクの傍らへと並び立つ。


「テミスさん! これからどうしますか? 本隊の戦いはまだ続いているようですが、助太刀に駆けますか?」

「…………」


 だが入れ替わるように、朗らかな笑顔を浮かべたシズクがテミスの傍らへと駆け寄って問いかけ、コジロウタの眉間に深い皺が寄る。

 同時にテミスもシズクの問いへすぐに言葉を返す事無く、ピクリと眉を跳ねさせるが、数刻の僅かな静寂が訪れただけだった。


「っ……! シズク、テミス様は負傷されているのよ? だというのに助太刀に回れと?」

「だからこそです! ここではまともな治療もできません! って、ちょっと! 詰め寄らないで下さい! 私達で切り抜けた方が早いのではないかという意味です!」

「こんな事は言いたくはないけど、アタシたちが駆け付けた所で無駄よ。正直、消耗が激し過ぎる。足を引っ張るだけだわ」

「えっ……!?」

「そっちの武人。アンタはどうなの?」

「……あと一度、刀を振るえれば良い方であるな。戦いは避けるべきであろう」

「そういう事。アタシたちは既に限界なのよ。無理は禁物だわ?」


 そんなシズクの態度に、のんびりとした表情を浮かべていたサキュドが僅かに表情を歪めると、ツカツカとテミスの傍らまで歩み寄り、怒りに満ちた表情でシズクを引き剥がす。

 同時に、諫めるような言葉と共にコジロウタへ水を向けると、そのサキュドらしからぬ弱気な発言に、シズクが驚きに目を見開いて声を漏らした。


「……そうだな。無理を押し通すべきではない。サキュドの言う通りだ」


 自身をじっと見上げるサキュドに応えるように、テミスがゆっくりと頷きながら、地面に突き立てた大剣に添えていた手を離し、サキュドの肩へと乗せる。

 その瞬間はまさに、テミス達が最も大きな隙を晒した時だった。


「――――っ!!!!」


 刹那。

 ズドドドドドドッ!!! と。

 大剣を手放したテミスと、その傍らに身を寄せたサキュドの周囲の地面から、一斉に黒い棘のようなものが突きあがり、中心で佇んでいたテミスとサキュドを串刺しにした。

 一方で、弾かれたように動いたコジロウタが、シズクの身体を抱えてテミス達から少し離れた位置で勝利を祝っていたコルカとジールたちの元まで一気に跳び下がる。


「テミスさんッ!!!」


 事が起こってから数拍の後。

 コジロウタの手によって退避させられたシズクは、たった今自身の眼前で何が起こったのかを理解すると、悲痛な声でテミスの名を叫ぶ。

 だが、いまだ執拗にテミスの立っていた位置を串刺しにする棘は、既に身の丈を超えるほど大きな球体と化しており、テミスたちの姿を見付けることはできなかった。


「…………」


 しかし、黙したまま長刀を構え直したコジロウタの瞳には、つい先ほどまで地面に突き立っていた筈の大剣が、忽然と姿を消している様を捉えていたのだった。

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