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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2262話 征伐を成す

 鋭く斬り放ったテミスの斬撃は、『先生』の脇腹辺りから顔面を抜けて斬り裂き、二つに別たれた身体がズルリと横滑る。

 だが、一度攻勢に回ったテミスがただの一太刀で済ませる筈もなく、返す刀で即座に第二撃目が、更に大剣を閃かせて第三撃目が、十字に異形の身体へと刻まれた。


「が……ぁ……ッ……!!」

「その身体がまだ死なんことくらい理解している。良いさ。お前は特別だ。死ぬまで付き合ってやる」


 苦悶の声と共に、『先生』は苦し紛れに腕を伸ばすも、その手がテミスに触れる事は無く、猛然と振るわれた大剣によって斬り飛ばされた。

 異形の怪物と化した『先生』が、例え首を落とそうとも命絶えない事など、元よりテミスは計算の内だった。

 だが一方で、他の異形の兵士たちの特性から鑑みるに、不死身とも思える回復力にも限界はあり、決して無限に回復できる訳ではないのだろう。

 限りがあるのならば簡単な事。テミスは世界の敵たる『先生』をこの場で殺すと、今すぐに殺すと決めていた。


「ぁがっ……! や……やめッ……! ごぶぅッ! だひゅげッ……ぐぶぁッ!!」

「…………」


 千々に異形とかした肉体を切り刻まれながらも、『先生』は懲りる事無く身体の至る所に口を作り出しては言葉を発し、その片端からテミスまるで耳を貸す事無く大剣を振るい、叩き切っていく。

 情状酌量の余地なし。どうせこの場で殺すのだ。

 ならばそれが例え贖罪の言葉であろうとも、厚顔無恥な命乞いであろうとも、いちいち宣う戯言に耳を貸すほど無駄な事は無い。

 問題はただ一つ。

 『先生』の命が尽きるその時まで、傷口を焼いて止血はしたものの、傷を負ったテミスの体力が持つか否かだけだ。


「どっ……ぶべっ……!! どりひぎだッ!! がッ……!?」

「…………」

「ぢ……ぐじょッ……ぼぶぁッ……!!」


 神速を以て放たれるテミスの斬撃により、『先生』の肉体は既にヒトの形を留めてはおらず、スライムのような流体と化してテミスの足元に広がっている。

 だがそれでも、『先生』は不気味に液体の表面を震わせては蠢き回り、時に新たな口を作って交渉を試みたり、時には鋭く尖らせた身体を槍のように用いて、テミスに抵抗を試みていた。

 しかし、まるで聞く耳を持たないテミスに取りつく島は無く、全ての足掻きは一薙ぎの剣閃によって拒絶された。


「ぁ……い……やだッ……!! ごぁッ!? じに、だぐ……なッ……!!」


 一言すら発する事無く斬撃を放ち続けるテミスの足元で、『先生』も遂に交渉は不可能だと察したのか、事ここに至ってなお強気だった語調に揺らぎが生まれる。


「ごッ……うずるじか……!! ながっだんだぁッ……!! だがらッ……!!」

「…………」

「えら……ばれだッ!! 人類のだめッ……!! じめいッ……!! がぁッ……!!」

「……哀れだな」


 止む事の無い斬撃の嵐に苛まれながらも、『先生』は止まることなく命乞いを続けた。

 無論。しでかした事を鑑みれば同情の余地はなく、テミスが斬撃を放つ手を止める事も無い。

 だが、今『先生』が必死で紡いでいる言葉にも、確かに真実はあるのだろう。

 敵を魔族と定め、戦いの手を止めてロンヴァルディアを敵と見做しても尚、このネルードの民には平穏がもたらされていた。

 仮にその平穏が、誰かの絶望と怨嗟の上に成り立つ悍ましきものであっても。

 全てを己の欲望の肚へと呑み込むのではなく、平和を形作らんとしていた一点だけにおいては、名も知らない『先生』が確かにヒトであった証なのかもしれない。


「……おい。まだ喋る事ができるのなら、名前くらい名乗って死んでいけ」

「…………」


 ほんの気紛れに思い立ったテミスが尋ねた頃には、足元に広がる流体は既に力を失って粘性を失い、さらさらと広がり始めていた。

 最早そこに意志を感じる事は無く、テミスは遂に大剣を振るい続けていたてを止めた。


「フゥ……」

「終わったか」

「あぁ……いつから見物していたんだ? 助太刀をしてくれても良かっただろう」

「拙者もつい先ほど終わったばかり。こ奴と同じく、動かぬ水となって消え果て逝った」


 そこへ、静かな歩調でコジロウタが歩み寄ると、大剣を地面に突き立てて杖代わりとしたテミスは、じっとりとした非難の視線を向けて軽口を叩く。

 見れば、どうやら一足先に戦いを終えたコジロウタに続いて、サキュドたちも戦いを終えたようで、激闘の痕が残るボロボロの姿でテミスの方へと歩み寄ってきていた。


「クク……大概、酷い格好だな」

「戦い抜いた戦士の誉れであろう。とはいえ、今は傷を癒し、身を清めるべきであろう。特にお主はいっとう傷が深い」

「一撃。良いのを貰ったからな。お陰でこのザマだ」


 テミスとコジロウタは肩を並べて駆け付けてくる仲間達の方へ視線を向けると、穏やかな声色で言葉を交わした。

 そんな二人の背後で、深々と太刀傷の刻まれた地面に溜まった黒い粘液が、ごぼりと微かに蠢いたのだった。

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