2258話 束ねし力
剣。槍。戦斧。長刀。
テミスたちと相対した異形の兵達が構えた武器は、他の兵達が携えているものとは異なり、ひと際禍々しい気配を放っていた。
それはまるで、アイシュやスイシュウが携えている呪法刀のようで。
ビリビリと伝わってくる迫力を前に、テミスは密かに構えた大剣の柄を固く握り締めた。
「ハハッ!! 悪くない光景だろ? 四天王ってやつさ! いや……? この場合は四騎士か……? まぁ、この際名前なんて何でもいいか」
高笑いする『先生』が腕を振りかざすと、静かに動き出した四体の異形の騎士たちは、それぞれにテミスを除いた者達の前に陣取った。
このままではまずい。
敵は『先生』を含めて五体。だがそれに対してこちらには、真正面から相対する事ができるほどの戦力は無い。
それを理解しているからこそ、『先生』はテミスたちを各個に撃破すべく、手勢を展開してきたのだろう。
「……一瞬で終わらせてやるッ!! コルカッ!! 全員を援護しろッ!」
こうなれば、先手の一撃を以て敵を一体削り、少なくとも互角の戦いが出来るようにする必要がある。
瞬時にそう判断したテミスは、己の能力を携えた大剣へと注ぎ込むと、剣を携えた異形の騎士に狙いを定めて月光斬を叩き込んだ。
だが……。
「ハハッ……! やらせるかよ……!!」
バヂィンッ!! と。
不意に放たれた一撃を弾き飛ばすと共に、嘲笑が混じった『先生』の声が響き渡る。
テミスが月光斬を放った刹那。
ずるりとテミスの大剣に似た形の大剣を現出させた『先生』は、テミスが狙った異形の騎士を守るかの如く立ち塞がり、放たれた斬撃を打ち消したのだ。
「クッ……!?」
「そらっ! お返しだぜッ!!」
直後。
大剣を振り抜いた姿勢のまま隙を晒したテミスを狙って、槍を携えた異形の騎士が鋭い一閃を放った。
だが、月光斬を放った直後のテミスに応ずる術は無く、テミスは迫り来る必殺の一撃を躱すべく咄嗟に身を捩る。
「――爆ぜろッ!!」
しかし、放たれた刺突がテミスを貫くよりも早く。
テミスの背後から飛来した火球が、槍を携えた異形の騎士の胸元へぴたりと張り付くと、轟然と燃えあがって焼け弾けた。
それは紛れもなく、コルカが放った魔法で。
爆炎に包まれた槍を持った異形の騎士は、不気味に上体を仰け反らせて吹き飛ぶと、ブスブスと黒い煙を立ち昇らせながら、『先生』の足元に倒れ伏した。
「助かったぞ、コルカ」
「へへっ! 良い援護だったでしょう?」
「ッ……!!」
槍を躱すべく崩した姿勢を立て直しながらテミスは一歩退くと、得意気な微笑みを浮かべるコルカに礼を告げる。
しかしその傍らでは、サキュドが不貞腐れたような表情で鼻を鳴らしていて、この厳しい戦場にあって尚、普段の調子を崩さない二人に、テミスは静かに微笑みを浮かべた。
「テミス様。テミス様はヤツとの戦いに集中してください。他の連中は、アタシ達が」
「っ……! だが……!!」
「大丈夫ですよ。テミス様。魔法使いの意地ってやつを見せてやりますからッ!」
不貞腐れた表情のまま、クルリと紅槍を回したサキュドが告げると、その言葉を支持するかの如く、笑顔を浮かべたコルカが言葉を重ねる。
だが、現実的な問題として、この戦いは根性論で何とかなるような甘いものではない。
如何にコルカが優れた魔法使いであろうとも、あの異形の騎士たちに接近を許せば負傷は免れないだろう。
どう足掻いても一人が欠ける。
そんな現実に、テミスが歯噛みをした時だった。
「敵の前で仲良く作戦会議かッ!? 馬鹿がッ!!」
嘲るような叫びと共に、大剣を振り翳した『先生』と四体の異形の騎士が、一斉にテミス達へ向けて襲い掛かる。
その奇襲に、真っ先に即応したのはコジロウタで。
巧みに長刀を操ったコジロウタは、同じく長刀を繰る異形の騎士の一撃を捌くと、クルリと身を翻して相対する。
続いてサキュドが槍を携えた異形の騎士の一撃を紅槍で弾き飛ばし、同時にシズクが剣を携えた異形の騎士の一撃を捌く。
「クソッ……!!」
次々と響く剣戟の音を聞きながら、一拍遅れて自らへ向かって斬りかかってきた『先生』の刃を受け止めると、テミスは忌々し気に悪態を零す。
これでこちらの手勢に、コルカを狙う残りの一体を留める事ができる者は居ない。
だが、テミスが刃を受け止めた頃には、戦斧を携えた異形の騎士は既に傍らを通り抜け、一歩跳び下がりながら杖を構えたコルカに肉薄していた。
「コルカッ!!」
最早迎撃は不可能。
そう悟ったテミスが、鬼気迫る声でコルカの名を叫んだ時……。
「させるかってんだよッ……!! ぐあッ……!!」
ゴギィンッッ!! と。
突如として響いた方向と共に、コルカと異形の騎士の間に割り込んだ戦斧が空を裂き、異形の騎士が振り翳した戦斧に弾き飛ばされる。
だが、ぶつかり合った事で勢いが削がれたものの、振るわれた異形の騎士の戦斧はいまだ執拗にコルカの首へと狙いを定めていた。
しかし、続いて割って入った剣と槍が巧みに息を合わせて異形の戦斧の一撃を留めると、コルカの首を狙った戦斧の刃はすんでの所で留められる。
「へっ……!! アンタがここまで引き摺ってきたんだ! 今更仲間外れだなんて寂しいじゃねぇかッ!」
「全くです。彼女の護衛は我々がッ!!」
異形の騎士が放った一撃を留めたジールとレイシルドは、得意気な微笑みを浮かべてテミスへ叫びをあげる。
そんな彼等の意地を示すかの如く、じゃらりと音を奏でた鎖鎌が宙を舞い、戦斧を携えた異形の騎士の腕を切り裂いたのだった。




