2256話 剛刃一閃
猛然と異形の兵の群れへと突貫したテミスは、体勢を崩した重鎧兵の持つ大盾を掴んで隙間をこじ開け、大剣を突き込んで後方の槍兵を打ち倒した。
同時に、テミスがこじ開けた隙間をひらりと飛び越えて、異形の兵の戦列の内側へと飛び込んだコジロウタが、長刀を振り回して間合いの内に居る兵をまとめて斬り倒す。
「ハハッ!! 私も負けていられないなッ……!!」
「拙者らは共に肩を並べた戦う仲間だ。拙者の敵はお主の敵。然らば拙者らの間に勝敗など無かろう」
「フッ……!! 違いないッ!!」
テミスの叩いた軽口に、コジロウタは生真面目な返事を返すと、長刀を構え直して残った兵と対峙する。
その答えに、テミスはクスリと微笑みを深めてから、自身が盾を掴んでいた重鎧兵を撫で斬りにした。
明確な意思を感じられない異形の兵とはいえ、どうやら戦場における危険度の判別はできるらしく、揃いも揃って戦列の内側へと飛び込んだテミス達に身体を向けてそれぞれに武器を構える。
だがそれは即ち、対峙している本隊であるサキュドたちへの飽和射撃が途絶えたことを意味していて。
「クッ……!! 今ですッ!! 総員ッ! 突撃ッ!!」
「くふふふっ!! テミス様ぁっ!! アタシの分もちゃあんと残しておいてくださいよぉッ!!」
「ッ……!! 私もッ……!!」
「ホラッ! 何をボサっとしてんだい! ボクたちも行くよォッ!!」
緩んだ敵の攻勢と共に気まで緩んだのか、守りを固めていたアイシュがぐらりと状態を傾がせながら、号令を叫ぶ。
その瞬間。
紅槍を振り翳したサキュドが、狂笑と魔力の残滓を零しながら突貫すると、すかさずその背に刀を抜き放ったシズクが続いた。
しかし、アイシュの号令を受けて尚、スイシュウが発破をかけるまでは一気呵成に飛び出していく兵は居らず、部隊は一拍遅れて突撃を始めた。
「ハッ!! やれやれッ!! 兵共の練度が低すぎて厭になるッ!!」
「致し方あるまい。今は戦場に身を置いてこそいるものの、彼等の殆どは武人ではないのだ」
「言葉を間違えるなよ! あの腑抜け共の中に軍人は居たとしても、武人など一人も居ないわッ!」
「……厳しいのだな。テミス殿は」
「お前が甘いだけだろうッ!! 少なくとも私の知る武人はッ! 自身の有利が保証されるまでは攻勢に出ないような愚図共ではないッ!!」
「友を、家族を、国を……己の大切なものを守らんと奮い立つ彼等は、まごう事無き武人であると拙者は思うがな」
サキュド達が突撃を仕掛けた裏側で、テミスとコシロウタはまるで世間話にでも興じるかの如く言葉を交わしながら、次々と周囲に群がる異形の兵を斬り伏せていく。
二人の間の評価に差こそあれ、戦況が動いた今となっては反政府軍の兵とて貴重な戦力だ。
テミスたちやサキュドたちのように鎧袖一触とはいかずとも、互いに補い合って異形の兵士たちと渡り合っている。
そんな中だった。
「むっ……!!?」
突如。
テミスの振るった大剣が、ガギィィンッ!! と硬質な音を奏でて留められ、返す刀で即座に斬撃が放たれる。
しかし、その刃がテミスを捕らえる事は無く、自身の斬撃が止められた瞬間には身を翻していたテミスは、大剣を構え直しながら静かに目を細めた。
「おいっ! 気を付けろ。どうやら、雑魚の中にそこそこ使える奴も混じっているらしい」
「そのようだッ! こやつ、中々にできるッ!!」
眼前に姿を現した、ひと際雰囲気のある騎士姿の異形の兵を前にテミスが叫ぶと、コジロウタもまた一歩跳躍して退きながら鋭く言葉を返す。
二人の前には、すらりと細身の甲冑らしき形の異形の騎士が一体ずつ。
テミスの前に立つ異形の騎士は剣を構えすらせずにゆらりと上体を傾がせると、そのまま剣を振りかぶってテミスへと斬りかかった。
同時にコジロウタの前に立つ異形の騎士は、出し抜けにぐじゅりと腕を伸ばして、間合いの外からコジロウタへ槍を突き放った。
「調子に……乗るなァッ!!」
「フッ!!」
だが、テミスはビリビリと怒りの籠った咆哮をあげて大剣を振るい、真正面から異形の騎士の斬撃と打ち合うと、斬撃ごと真っ二つに異形の騎士を両断した。
一方でコジロウタも、短く息を吐いて不意を突いて放たれた刺突を躱してみせると、その異常に伸び切った腕に斬撃を加えて両断してから、続けざまに長刀を振るって、槍持ちの異形の騎士を千々に刻む。
「忌々しい連中だッ!!」
「その点は同意する。戦場にあのような曲芸を持ち込むとは、此度の敵には義も誇りを感じられんッ!!」
異形の騎士を打ち破ったテミスとコシロウタが、吐き捨てるように胸中をぶちまけた時だった。
「お二方ァッ! 伝令だぜッ!! この場の指揮はアイシュの姉さんとスイシュウ殿に任せて先へ進んでくれとッ!! 他の面々にも今、伝令が走ってらぁッ!」
「了解したッ!! 早く片付けて来ないとお前達の分は残さんぞ……と二人に伝えろッ!!」
「承知したッ!!」
テミス達の元へ駆け寄ってきたジールが大声で言伝を告げると同時に、手に携えていた剣を自らへと襲い掛かってきた異形の兵の顔面へと叩き込む。
そんなジールに一瞥をくれると、テミスはひらりと身を翻しながら言伝を残し、コジロウタは力強い頷きを返して、二人は更に戦場の奥へと駆け出していったのだった。




