2255話 堅守猛攻
正門を突破し、庭内へと侵攻を果たしたテミスたちを待ち受けていたのは、毅然と整列した異形の兵達の部隊だった。
最前面に大盾を有した重鎧兵を置き、そのすぐ背後には長槍兵を、そしてその更に背後から弓兵が矢を射かける。
典型的な周密陣形から繰り出される飽和攻撃はテミス達の接近を許さず、耐えず射かけられる矢は確実にテミス達の戦力を削っていく。
だが、一方的にやられ続けるテミスではなく、飛び道具に対する守りの固いアイシュを中心に、遠距離攻撃を持たないシズクやコジロウタを防御に回し、コルカやサキュドに命じて応撃を放つ。
「オオオォォォッ!!」
「…………」
そしてテミス自身も、気合の籠った月光斬を重鎧兵に打ち込むが、斬撃は巨大な鐘を衝いたかのような轟音を響かせて、情報へと逸らされてしまう。
しかし、月光斬を真正面から受け止めた重鎧兵たちの大盾は、大きく拉げて深い亀裂が走り、盾を支えていた異形の兵もその威力に圧されて大きく姿勢を崩す。
そこを狙いすましたかのように、鋭く風を切る音を奏でて放たれた矢が疾駆すると、テミスの傍らを通り過ぎていく。
その矢はテミスが僅かにこじ開けた敵の守りの隙間を正確に射抜き、背後に控える弓兵と槍兵を串刺した。
「……! お前……! 弓を使えるのかッ!?」
「当然。弓は遠くに居る標的を討つための暗器」
「フッ……!! クククッ……!」
放たれた矢の正確さに驚いたテミスが背後を振り返ると、そこには弓を構えたアマネコが堂々と立っており、得意気に微笑みながらテミスの問いに答えを返す。
尤も、彼女が手に携えている弓は、どうやらアマネコの傍らで立ち尽くしている反乱兵から奪い取った物らしく、主兵装を奪われた兵は複雑な表情で矢筒をアマネコへ差し出していた。
「怯むなッ!! 押し返せェッ!!」
まさしく総力戦といった様相の火力勝負。このまま削り削られの持久戦を長引かせれば、テミス達に勝ち目は無い。
何故なら相手は異形の兵士。倒れた所で時間がたてばやがて復活を果たす化け物なのだ。
それを知るからこそ、テミスは声を張り上げて前進を指揮し、自らも敵の戦力を削るべく大剣を振るった。
そうしている間にも、アイシュの展開した防壁には無数の矢が突き立ち、時折敵の中に混じった大弓兵の放った杭のような巨矢が、守りを貫いて止まる。
本来ならば、『先生』との決戦を控えるテミスの消耗は極力控えるべきだ。
しかし、逼迫した戦況がテミスの温存を許さず、結果としてテミスは前線へ引きずり出されていた。
「チィッ……!! このままでは埒が明かんッ!! サキュド! 一撃を加えて敵の守りを崩せ! コジロウタ! 共に一気に斬り込むぞッ!!」
「了解ッ!!」
「承知したッ!!」
遠距離攻撃では埒が明かないと判断したテミスは、大剣を構え直して突撃の姿勢を取ると、紅色の光弾を放つサキュドと、絶えず射かけられる矢を斬り払ったばかりのコジロウタに号令をかける。
瞬間。即応したサキュドは掌を閃かせて紅槍を現出させ、その切っ先に魔力を集中させ始めた。
同時に、長刀を振り抜いたコジロウタは流れるような動きでテミスの傍らまで移動すると、背合わせに構えて突撃の姿勢を取った。
「ちょっとぉッ! ボクたちはどうすればいいのさッ!?」
そこへ、抜き放った剣で飛来する矢を叩き伏せながら、間延びした声でスイシュウが問いを叫ぶ。
だがそれは、指示を仰いでいるというよりもむしろその逆で。
爾後の命令を出す事無く敵へ斬り込まんとするテミスに、きちんと指揮を執れと諫めているようだった。
「このまま防御応撃を続けた後、敵が崩れた隙を突いて全軍攻勢に転じろッ!! 血路は我々が切り拓くッ!!」
「よぉっしっ! 皆ッ!! 聞いたねッ!? もう少しの辛抱だッ! ボクたちの大将が道を拓いてくれるよッ!!」
テミスが応えるや否や、ッスイシュウは高らかに声をあげて兵達を鼓舞すると、呼応した兵士たちの鬨の声が一斉に上がる。
どうやらスイシュウはただテミスに指揮を執らせただけではなく、危難に立たされた兵たちの士気を盛り返すべく、テミスたちの突撃に華を添えてみせたのだ。
「……ッ!! テミス様ッ!! いつでも行けますッ!!」
「反撃の狼煙はお前の一撃だッ! 我々がお前の呼吸に合わせるッ! 好きに撃てッ!」
「はッ!! 気持ちの悪い怪物どもめッ! 食らいなさいッ!!」
猛る兵士たちの声を切り裂いて、紅槍から魔力を迸らせたサキュドが叫ぶと、チラリとコジロウタに目配せをしたテミスは、凛と叫んで命令を下す。
すると即座にサキュドの魔力が一気に膨れ上がり、振るわれた紅槍から放たれた紅月斬が、射かけられる矢を塵と化しながら異形の兵達へ向けて突き進んでいく。
「オオオォォォッ!!」
「……好機ッ!!」
そんな紅の斬撃が斬り拓いた一筋の道を辿って、弾けるように飛び出したテミスとコジロウタは、一気に敵の隊列の中へと斬り込んだのだった。




