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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2250話 憂いなき戦

 半日後。

 テミス達は奪還した治安維持軍の軍港に入港した、ロロニア達の船を迎えていた。

 総力戦の決断をしたテミスは、即座にテルルの村に築いた拠点の放棄を決定、艦砲射撃による防衛戦力と最終脱出手段を兼ねた切り札として招聘したのだ。


「ロロニア。よく来てくれた」

「オウッ! アンタに呼ばれりゃ、いつでもどこでも駆け付ける……つもりだったんだがな。まさか、軍港に船を寄せる日が来るとは思わなかったぜ」

「フッ……戦況は先だって伝えた通りだ。万が一我々が敗北する事があれば……わかっているな?」

「……あぁ」


 テミスは意味深な目でロロニアを見据えながら言葉を選んで告げる。

 ここには多くのネルード兵達が居るうえに、傍らには聡いアイシュも肩を並べている。

 しかし、ネルードの渦中にあるが故に伝える事の出来なかったテミスの意図を、ロロニアは正しく汲み取っており、低く唸るような声で言葉を返した。

 ロロニアに課せられた使命。

 それは、万に一つテミス達が敗北した時の脱出船となる事ではない。

 今は黒銀騎団の客将の身分ではあるものの、ギルファーの一員であるシズクや、白翼騎士団の連絡要員であるリコリシアに、蒼鱗騎士団の副官でもあるノル。

 彼女たちを回収して全速力で離脱し、フリーディアのテミスの敗北を報せる事。それがロロニアに密かに課された使命だった。

 無論。その際に捨て石とせざるを得ないネルードの者達の前では、そのような命令など出せるはずもなく。

 故に、言外に尋ねたテミスの言葉無き問いに、ロロニアもまた目したまま答えを返したのだ。


「ところで……反乱兵共はどうするんだ? 総力戦なんだろ? こっちに来た時、殺しちまって構わねぇのか?」

「クク……安心しろ。奴等は我々と共に最前線の死兵だ。生憎、戦える連中を遊ばせておく余裕など無いのでな」

「かぁ~っ!! 相変わらずやることがエゲツねぇな……。ともあれ俺達は、アンタ等が出払った後の拠点を守れば良いってことだろ? ひとまず、了解だ」


 吐き捨てるように答えたテミスに、ロロニアは大仰な身振りで言葉を返すと、ニヤリと表情を崩して静かに拳を突き出した。

 無論。この差し出された拳の意味を理解してこそいるものの、これまでテミスはロロニアと拳を合わせた事など無い。

 だが、その意がロロニアなりの激励であると理解したテミスは、ニヤリと不敵に頬を歪め、自らも握り締めた拳をコツリと合わせた。


「無事に帰って来いよ。そんでまた酌み交わそうぜッ!! 今度は、そっちの姉ちゃんたちも一緒になッ!!」

「だ……そうだ。アイシュ。盛大な酒宴の準備はできているんだろうな?」

「っ……!! 非戦闘員の者達に指示を出しておきましょう。ネルード中のお酒をかき集めておくように……と」

「ハハッ!! ソイツは豪勢で良いなッ!! 俺達も秘蔵のヤツを準備しておくぜッ!」


 快活に言葉を交わすと、肩を竦めて微笑むアイシュに背を向けて、ロロニアは指揮を執るべく自らの船へと戻っていく。

 その甲板には、ぴょこりと顔を出したリコとノルの顔があって。

 二人を見上げ、目を細めて微笑んだ後、テミスは傍らに従えたアイシュと共に身を翻した。


「テミス様。全軍、集結及び再編成、完了いたしました。」

「了解だ。では、我々も向かうとしよう。……ところでアイシュ」

「はい? 何でしょうか?」

「先に行っても構わんぞ。我々は定刻に合わせて向かう」


 背後で静かに控えていたサキュドが、生真面目な口調で報告をすると、テミスは不意にアイシュへ首を向け、不敵に微笑みながら意味深に言葉を付け加える。

 その言葉は皮肉でも嫌味でもなく、純然たる心遣いだった。

 テミス達が部隊の集結場所へ到着すれば、即座に進軍が開始されるだろう。

 最終決戦の指揮を執るのがテミス(自分)であるとはいえ、これまで彼等を率いて戦い、この時までネルードを守り抜いてきたのは彼女なのだ。

 旗下の兵に駆ける言葉なり、思うところはあるだろう。

 そうテミスは考えたのだが……。


「ふふ……お心遣いだけ頂いておきましょう。こう見えて私は一途なので。ここに来る前に、あの子たちとはそう言った事を済ませてあります」

「ハッ……! 生粋の変態め。好きにしろ」


 穏やかな微笑みを浮かべたアイシュがそう告げると、眉を顰めたテミスは鼻を鳴らして歩む足を速めた。

 その先でテミス達を待っているのは、最前線を切り拓き、敵中枢へ一気に肉薄すべく集められた精鋭たちで。

 シズクやコルカだけではなく、アイシュに助太刀をしていたコジロウタや、反乱兵達の監督役を任されたジールたちも居る。


「さて……今度こそ、決着をつけてやろう……!!!」


 そんな部隊の仲間達の元へ向かうべく集結した兵達の間を歩み抜けながら、テミスは獰猛な微笑みを浮かべると、低い声で嘯いてみせたのだった。

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