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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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213話 仕掛け人の愉悦

 人間領最前線・イゼル。

 領主であり、この地を守る冒険者将校でもあったカズトが斃れてからというもの、抑圧されていたこの町にも僅かながらも活気が戻りつつあった。


 しかし、今日だけは。町の人々はカズトの統治下にあった頃の様に、頭を下げ、下を向いて暮らしていた。


 その元凶は魔族を連れて突如現れ、空になった領主館を占領した白翼騎士団にあった。曰く……町に迷惑はかけないから、少しだけ逗留させて欲しいとの事だったが、魔族の捕虜を連れ、完全武装した騎士団が駐留するなんて事態は、再生しつつある町の住人にとっては、迷惑極まりない事だった。


「まさか……君が彼女を嵌めるとはね……」


 そんな町人たちの心情など露知らず、領主館に招かれたルギウスは紅茶を傾けながら楽しそうに目を細めた。


「嵌める……なんて人聞きが悪いわ? 私は白翼騎士団の団長……義を通し、人を護る義務がある」

「……その信念の結果が。これだと?」

「えぇ。あそこには何も知らない冒険者たちも居た……余程あなたの力を警戒していたのね?」


 その正面で。フリーディアは疲れ切った身体を休ませながら、ルギウスと言葉を交わす。マーヌエルの一派はきっと、私達が王都へ向かったと思うはず……。少なくとも一日は、私達が最前線へ向かった事は露見しない。ならばその間に……ルギウス達を引き渡す事ができれば、全てが丸く収まる筈……。


「不殺の心……フフ。やはり君は面白いね……。テミス程では無いけれど」

「あら? それはどういう意味かしら?」


 ルギウスが含みを持たせた笑みを浮かべると、興味を引かれたフリーディアが問いかける。別に、対抗意識を燃やしている訳では無いが、テミスに劣っている物があるのならば知っておきたいとは思う。


「そうだね……フリーディア。君は人間にしては珍しく、本当に僕たちと同じ志を持っているらしい」


 手に持った紅茶を置いて、ルギウスはゆったりとした口調で語り始めた。


「人魔共存の世を望みながらも、魔を滅するヒトに与する……この矛盾はなかなかどうして面白いものがあるけれど、同種の情と言ってしまえばそれまでなんだ」

「っ……否定は、しないわ」


 ルギウスの言葉に、フリーディアは微かに眉を顰めると、その言葉を肯定する。

 確かに、人魔共存を真に願うのなら、必要以上にヒトを傷付けようとしない魔王軍に付くのが正しいのだろう。けれどそれは同時に、フリーディアは自らの親友人に刃を向ける事になってしまうのだ。


「……私は、平和になった世界で共に笑いたい人に刃を向けてまでそれを求めるほど、割り切る事はできないわ」

「ああ。それが普通さ」


 物憂げに呟いたフリーディアに、ルギウスは大きく首肯して言葉を続ける。


「だからこそ、テミスは面白いんだ。彼女がしている事は何もかもが逆……。あれだけの力を持ちながら、その求める物を手にした事は……一度も無いんじゃないかな?」

「……? 何を言っているの? なら、ファント(あの町)はどうなるのよ?」

「ああ……失礼……。言葉が足りなかったね」


 ルギウスは、自らの言葉に目を丸くしたフリーディアに笑いかけながら、やんわりと言葉を付けたした。


「正確には、彼女が求めていると思っている物を手に入れた事は……だね」

「求めていると……思っている物?」

「ああ。決して手に入る事の無い愚かな物さ」


 そこで言葉を切ると、ルギウスは柔らかい笑みをさらに深め、その端から怪しさに似た不気味さが漏れ出てくる。


「彼女は……テミスは自分に嘘を吐き続けている。誰よりも戦いを望まないはずなのに……ただひたすら、まるでそれを好むように戦火の中に身を置いている……その矛盾が、僕は見ててとても面白いんだ」

「…………」


 ルギウスの答えを聞いたフリーディアは、何も答えずに手元の紅茶で喉を潤した。

 テミスが、戦いを望んでいない……? いいえ。それは間違っているわ。

 同時にフリーディアは、心の中でルギウスの言葉を否定する。


 ……テミスは戦いを求めている。自らの正義の為……悪という悪を屠る為。正しさの化身たる彼女は、自ら好んで修羅の道へと突き進んでいっている。

 だからこそ……私達は、テミスが本当の鬼になり果ててしまう前に、平和な世界を築かなくちゃいけない。


「フフ……フリーディア。どうやら僕と君の持つ意見は違うらしい」

「……えぇ。そうね」


 ルギウスが再び面白そうに喉を鳴らすと、フリーディアは短くその言葉を肯定する。

 この男は、敵ではない。

 この問答で、フリーディアは一つの確信を得ていた。

 ルギウスが願う景色は確かに、私達の願う平和な世界と同じだ。けれど、私ともテミスとも違う何かが、この男の中には眠っている……。そう感じずにはいられなかった。


「……私は休みます。流石に、疲れたわ」

「おや、良いのかい? そんな事を僕に伝えてしまって。勝手に帰ってしまうかもしれないよ?」

「それは無いわ」


 席を立ったフリーディアに、ルギウスが煽るような口調で問いかける。しかし、フリーディアは一言の元にそれを断ずると、小さな笑みを浮かべて付け加える。


「私に出し抜かれたテミスが悔しがる顔……あなたも見たいでしょう?」

「ククッ……君も人が悪いね……。でも確かに、そんな珍しいものを見逃す手はない」

「ええ。いつも私だけが掌の上で踊らされるのは不公平ですから」


 フリーディアは満面の笑みでそう告げると、ルギウスに一礼して部屋を後にしたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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