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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2249話 騒がしき両雄

「……やってくれたな。アイシュ」


 指揮権の完全移譲を宣言する場となった召集は、蜂の巣をつついたような大騒動の末に幕を閉じた。

 足早にその場を後にしたテミスは、自らの者となった執務室にどかりと腰を据えると、深々と溜息を吐いてアイシュを睨み付ける。


「はて? 何のことでしょう? 私はただ、事前の取り決めに従って指揮系統の一本化と、部隊の再編成を行っただけですよ?」

「ハッ……!! いけしゃあしゃあとよく宣う。指揮権の完全移譲など聞いていない。元々は部隊の垣根を一時的に取り払っての協調作戦だった筈だ!!」

「おや、そうでしたか? ですがまあ、どちらでも同じ事でしょう」

「変わるんだよ!! 主に、私の作業量がッ!!」


 飄々と肩を竦めてみせるアイシュに、テミスは苛立ちを露にしながら吐き捨てると、机の上に積み上げられた書類を叩いてみせた。

 その書類には、これまでアイシュが率いていた反政府部隊全員の名前と所属が記されており、テミスはその確認に迫られているのだ。


「ふふっ……それは大変そうですね。心より応援申し上げておりますよ? 指揮官殿?」

「ふざけるな。ならば指揮官命令だ。アイシュ、お前を次席指揮官に任命する。直ちに部隊編成の作業に取り掛かれ」

「あっ!! それは狡いですよ!! 卑怯ですッ!!」

「黙れッ!! 何が卑怯なものか!! 元々はお前の仕事だろうがッ!!」

「私、もう何日も休んでいないんですよッ!? だというのにッ!! 指揮官の座を降りてもなお、まだ働けと仰るんですかッ!?」

「あぁ働けッ! 死ぬまで働けこの変態!! 今が山場だろうがッ!!」

「はぁぁ……今、私は猛烈に、貴方がたの船を沈めに走りたい気分ですよ」

「やってみろ。その前にとっ捕まえてここに縛り付けて、寝る暇もない書類仕事漬けにしてやるからな」


 テミスは自身を揶揄ったアイシュに、怒りの声をあげて命令を下し、そこから二人はぎゃいぎゃいと姦しい言い争いを始める。

 その光景はまるで、フリーディアと言い争いをしている時のテミスに酷似しており、見慣れないはずの見慣れた光景に、黒銀騎団の面々は苦笑いを浮かべていた。

 尤も、自らは限界まで仕事をしたうえで、テミスも働かせるべく奮闘するフリーディアとでは、休息を勝ち取らんとするアイシュとそれを逃すまいとするテミスの構図は若干意味が違ってくるのだが……。


「やれやれ……いつになく賑やかだねぇ……。静まり返っているよりは全然いいんだけどね?」


 正面切って怒号と罵声を飛ばし合うアイシュとテミスを横目に、スイシュウはのんびりと言葉を漏らしながら、執務机から書類の束を取り上げて目を通し始めた。

 今この執務室の中には、テミスの副官であるサキュドと同席を命じられたシズク、そして無理やり執務室に連れて来られたアイシュに、ひょっこりとついてきたスイシュウが肩を並べている。

 しかし、これだけ雁首を揃えているにもかかわらず、まともに仕事をしているのは見かねて先に作業を始めたスイシュウと、いち早く書類の選別作業に入ったシズクだけだった。


「お呼びに従い参上……って、何だい? こいつぁ……?」


 そこへ、微かに扉を軋ませたジールが、薄い書類の束を手に姿を現すと、喧々囂々と言い争いを続けているテミスとアイシュを眺めて目を見開く。


「気にしなくて良いわよ。それより、アナタも手伝いなさい」

「そうは言われてもなぁ……。俺としちゃあ生きた心地がしねぇんだが……」

「今、確実に死ぬよりは良いでしょう? そんな事よりも、傭兵たちの名簿はまとまったのかしら?」

「俺も命は惜しい。そういうことなら、喜んでお手伝いをさせていただきますぜ? 副官サマ」


 ジールが入室したのを合図に、それまで愉し気にテミスとアイシュの争いを眺めていたサキュドが応ずると、ニタリと妖しい微笑みを浮かべて犠牲者を増や(指示を出)した。

 尤も今はまだ部隊に残留する兵の確認を取っている段階で、出来る事と言えば報告があがり次第即応できるように、雑多に並んでいる兵の情報を整理する程度なのだが。


「それじゃ、あそこの山を片付けなさい。ふぅん……? 血斧のアルベルダに堅槍のレイシルド、暗剣アマネコ……名前だけは大層なモノねぇ?」

「俺達は名前が看板みてぇなもんだからな、本名って訳じゃあねぇ。かく言う俺、銀剣のジールもジルベルトっつぅ本当の名前から取っただけのモンだしな」

「戦えるのなら何でもいいわ。っと、次の書類は……」

「へいへい。その通りでさぁ。……ったく、こうしてみてると、ただの姦しい娘っ子だってんだからタチが悪りぃ……」


 低い声でサキュドと言葉を交わしたジールは、チラリと未だに争いを続けるアイシュとテミスに視線を送ると肩を竦めて深々と溜息を吐く。

 そして、何かを諦めたように首を横に振ってから、ジールはサキュドに命じられた書類の山へと手を伸ばしたのだった。

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