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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2247話 怨嗟の果て

 アイシュの叩きつけたひと言を境に、希望に満ちていた兵士たちの顔は不安と絶望に曇り、突き付けられた影が取り払われて尚、場は水を打ったような静けさに包まれる。

 今この場で、アイシュが述べたことは全て事実だ。

 敵の狙いにネルード側の戦いを遅滞させ、先にロンヴァルディアを陥落させるという意図がある以上、少しずつ敵戦力を削いで戦うという安全策を取ることはできない。

 不安を露わにしている兵士たちが思い描くように、安全策を以て応ずることを決めた瞬間、テミス達はロンヴァルディアを守る為、即座にネルードを離れるだろう。

 そうなってしまえば、敵が旧政庁区画に留まる必要は無くなり、再び侵攻が始まるのは明白だ。


「さて……どうなるか……」


 逃れ得ぬ現実を突きつけたアイシュの選択を眺めながら、テミスは一人ボソリと呟きを漏らす。

 このまま兵達がアイシュの先導に従い、覚悟を固める事ができれば良し。

 次善としては、アイシュから離反したとしても、彼女に異を唱えたスイシュウの元へと着き、スイシュウが説得できれば事なきを得る。

 だが、最悪の場合は……。

 昏い微笑みを浮かべて場を眺めるテミスの視界の片隅では、サキュドとコルカ、そしてシズクが密かに戦闘態勢を整えており、それに気が付いたジールが驚きの表情を浮かべていた。


「アイシュ様ッ!!」

「…………」


 酷く重苦しい静寂に包まれた中。

 肩を並べた兵士たちの中からサンと数名の兵たちがアイシュの前へと飛び出すと、鬼気迫る表情で声をあげる。


「彼女達への義理があるのはよく理解できますッ! ですが、俺達はネルードのために戦っているんだ!! こんな無謀な戦い……ロンヴァルディアの為に命をかけろっていうのはあんまりですッ!!」

「そうですよッ!! 俺の戦友はロンヴァルディアの野郎共に殺されたんだ!! そんな奴等の為になんか命張れるかッ!!」

「……なら、貴方たちの思うようにすれば良いでしょう。我々が動かないのであれば、彼女たちがここに残る意味もありません」

「っ……!! そ……れはッ……!! 何とか、別の礼を以て残ってもらうとか……」


 サンと共に口々に意見を発した兵達は、たった一言アイシュが言葉を返しただけで勢いを失い、酷く気まずそうに口ごもる。

 彼等とて、テミス達の戦力の大きさは理解している。

 尤も、ひと際表情の暗いサンに至っては、己の意志とは別に傍らの兵達に頼られて、飛び出して来ざるを得なかったようだが。


「はぁ……やれやれ……。つまり、君たちはこう言いたいんだね? 自分達は彼女達の大事なもののために戦う気はないけれど、彼女達には自分達の大事なもののために戦ってほしいと」

「っ……!!!」

「ッ……!! それは当然のことのはずだッ!! 俺達は奪われ、殺され、町は滅茶苦茶にされたッ!! 侵攻してきたロンヴァルディアにはその責があるだろうッ!!」

「残念だけど、この戦争を仕掛けたのは僕たちネルードだ。ただ返り討ちにされただけの僕たちには、それを宣う権利は無いよ」

「グッ……!! だからって……!!!」


 見るに見かねたように前へと出てきたスイシュウが、静かな声で口を開くと、サンと共に出てきた男は怒りを込めて吠え猛る。

 どうやらこの男は、人一倍ロンヴァルディアに対して恨みが深いらしい。

 だが、如何に恨みが深かろうとも、スイシュウが淡々と言い渡した通り、事実が揺らぐことはない。


「…………」


 分水嶺はこの先。

 テミスはチラリとサキュドたちに目配せをすると、自身も静かに腰を落として身構える。

 ロンヴァルディアとネルードは、ついこの間まで実際に砲火を交え、今もなお戦時中である間柄なのだ。

 こういった反発が出てくるのはむしろ当然であり、アイシュもテミスもこの点については織り込み済みだった。

 如何に苦しみを伴う事であっても、変えようのない事実を受け止め、飲み下して先に進むのならばそれでいい。

 しかし、真逆の方へと傾いた場合……。


「ッ……!! は……ははっ……!! そうだッ!! 船ッ……! あいつらの乗ってきた船を沈めちまえばいいッ……!!」

「なっ……!? 馬鹿野郎ッ!!! 何を言ってるんだッ!!」

「そうじゃねぇかッ!! 取り戻した港にはマトモな船はねぇ! アイツらが戻る足は乗ってきた船しかねぇんだッ!! 帰る足が無くなっちまえば、俺達に協力するしかねぇよなぁッ!!」

「このッ――!!?」

「おいッ!! テメェ等の乗ってきた船ぇ沈められたくなけりゃ、この場に残って俺達の為に戦えッ!! だよなぁッ! テメェ等ァッ!!」


 暫く黙り込んだ後。

 怒り猛っていた兵士は狂気を孕んだ表情で顔をあげると、アイシュから少し離れた位置で身構えているテミスを指差して叫びをあげた。

 続けて、傍らのサンが顔を青ざめさせて留める声を押し切って、高らかな声をあげて兵士達を煽り立てる。

 だが、脅迫じみたその言葉に同調して声をあげた者は少なく、狂気に染まった兵士は顔を歪めて喚き声をあげた。


「……ッ!! なんだよ!? どうしたッ!! クソッタレなロンヴァルディアの為に死ぬなんて御免だろうがッ!! あんな化け物共と戦うより、コイツらのボロ船沈める方が簡単だろッ!!」

「ククッ……!!」


 そんな兵士の叫びに、テミスはニンマリと意地の悪い微笑みを浮かべると、渋面を作ったスイシュウが退いた前を通って、ゆらりと前へ進み出たのだった。

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