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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2245話 偽りを砕く

 テミスとの会議の後。

 アイシュは拠点内に居る全ての者に、テミスとの連名で非常呼集をかけると、並び立った一同の前に悠然と姿を現した。

 その傍らには、不敵な微笑みを浮かべているテミスが肩を並べており、テミスの事を良く知らないアイシュ旗下の者達の間に、ざわざわと同様のざわめきが広がっていく。

 一方で、アイシュ曰くテミスが目覚めたのは、先の戦いで先陣を切った者達の中で最後だったらしく、非常呼集で集った者達の中の一角には、サキュドたちの姿もあった。


「…………皆。まずは呼集に応じてくれたことに感謝をします」


 アイシュが全員の前に立って尚、ざわめきが収まることのない様子には、傍らで様子を眺めていたテミスも僅かに眉を顰めて閉口する。

 尤も、口を開いているのは一部の治安維持軍所属の者であったり、今回の騒動で兵として加わった元民間人の者達ばかりだったのだが。

 そんな者達も、ある者は近くの軍属であった者から注意を受け、ある者は緊張感を帯びた場の空気を敏感に察知して口を閉ざす。

 それでも、全員がアイシュに傾注するまでには優に十秒以上の時間がかかっていた。


「まぁ……非正規軍ならばこんなものか」


 本格的な軍属としての経験が無い者達に、この手の機微を求めた所で浸透は難しいだろう。

 そうは理解しているものの、テミスはボソリと呟きを漏らすと、胸中に生まれた僅かな不安に視線を逸らす。

 傾注の遅さとは即ち、兵の練度の低さを表している。

 そして戦場において、各兵士の練度とは最重要事項であり、部隊としての戦力に直結する。練度の低い千人の兵は、練度の高い百人の兵に容易く敗北するだろう。

 だからこそ、軍隊では何よりも最初に、兵士各々が個として動くのではなく、群として動く事を骨の髄まで叩き込まれるのだ。


「我らの仇敵である化け物は今、旧政庁区画へと退き防御を固めています。そのお陰で開放された地区は少なくありません。ぞれは皆も知っての所でしょう」


 アイシュが静かな声で語り始めると、集った兵士たちの表情には喜びの笑顔が浮かび、僅かに弛緩した空気が場に漂い始める。

 しかし、テミス率いる黒銀騎団と、テミス直属とされたジールたち元賞金稼ぎたち、そしてスイシュウ直属の部隊の者達をはじめとする一部の者達に緩みは無く、逆に緊張した面持ちを浮かべていた。


「このなかにも、自身の元の住処を取り戻した者も少なくはないはずです。戦いは終わった……そう感じている者も居る事は私も知っています」


 アイシュが言葉を続けると、緩んだ空気がそうさせるのか、兵達の間に少しずつざわめきが広がっていく。

 口をつぐんだまま、テミスが耳を澄まして聞いてみれば、やれ戦功評定の会だの、反抗部隊解散の宣言だのと、おおよそ的の外れた希望論ばかりが漏れ聞こえてきた。


「フッ……」

「……ですがっ! 私はこの場で皆に、敢えて否であると伝えなければなりません」


 一拍の間を置いた後、アイシュはクスリと昏い笑みを浮かべてテミスへ視線を向けてから、凛とざわめきに倍する声で高らかに宣言をした。

 それはある種、目の前にぶら下げられた希望という名の餌を取り上げる行為に等しく、故に耳を傾けていた兵士達も、鋭く息を呑んで口を噤み、アイシュに意識を集中させる。


「今ここにある平穏は、敵の策によって形作られた仮初の物でしかありません」

「っ……! アイシュちゃん。ちょっと良いかい?」

「貴方は……何でしょう? この場に割って入るほどの重要な事ですか?」

「重要も重要さ。本当に大事な事だよ」


 兵達の希望を打ち砕いたアイシュは、眼前で肩を並べる兵達に視線を向け、淡々と逃れ得ない現実を叩きつけていく。

 しかしその時、穏やかな笑顔を浮かべたスイシュウがアイシュの前へと進み出ると、普段と変わらない軽薄な口調で言葉を紡いだ。

 だがアイシュを見据えるその瞳は、何かを憂うような思慮深い光を帯びており、自然な調子でアイシュの傍らまで近付いたスイシュウは声を潜めて口を開く。


「止すんだ。何をやろうとしているかは察しているつもりさ。けれど君たちのやり方では離反者が出かねない」

「承知の上です。彼女達には時間がありません。ですが我々にも時間が無い事を意味する」

「やり方が乱暴すぎると言っているっ! ひとつひとつしっかりと説明をすれば、わからない兵達ではないよ!」

「そんな時間が私にあるとでも? 全軍の再編成に各種配備する装具の見直し、再編成した部隊での作戦もたてなくてはなりません」

「だったら……僕に考えがあるッ! 君たちの邪魔はしないから、ひと芝居付き合って貰うよ」

「クス……好きにすればいいでしょう」


 ボソボソと言葉を交わした後、アイシュはスイシュウを脇へと押し退けて兵達の前に進み出ると、ざわめきの中を兵士たちの不安気な視線がアイシュへと集中する。


「故にッ!! この機に我々は、敵中枢である旧政庁区画に潜む化け物共を殲滅すべく、決戦作戦を決行しますッ! 各員は決戦に備えての準備を、真の意味でネルードを取り戻すための最後の戦いです!!」


 そんな動揺のざわめきを切り裂いて、アイシュは揺るぎのない声でそう宣言を放ったのだった。

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