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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2243話 友誼の一歩

「さて……そろそろ真面目な話をしましょうか」


 ただ一言命じてルルイを下がらせたアイシュは、穏やかな微笑みを浮かべて静かにテミスへ告げた。

 一見すれば、ただ角が取れただけの柔らかな微笑み。

 しかし、纏った雰囲気はピリリと引き締まっていて、テミスもそれに応じて剣を収め、コクリと頷いて先を促した。


「まずは……そうですね、現状の共有から始めましょう。貴女がぐっすりと眠っている間に、戦況は随分と様変わりしましてね」

「……まさか、宣言してすぐに前言を翻すとはな。こちらも同様に応じれば良いんだな?」

「多少の愚痴は勘弁してください。これでも私、あの戦いから一日たりとも休んでいないのですから。どなたかと違って」

「チッ……!! 色々と言いたい事はあるが……まぁいい、聞き流してやる」

「ありがとうございます」


 チクチクと言葉の端々で嫌味を突き刺してくるアイシュに、苦笑いを浮かべたテミスはじろりと睨みを利かせながら応じる。

 しかし、最前線で激しい戦いを繰り広げていたとはいえ、テミスが今日まで眠りこけていたのも事実で。

 故に。テミスは自分たちの留守を守り切ったアイシュの要求に、不承不承ながらも付き合う他に道は無かった。


「まずはこちらの勢力図ですが、先日の戦いを制した効果なのか、敵は戦力を旧政庁区画まで撤退させ集結。同区画内にありますゼルト軍港を除くすべての港湾施設が解放されました」

「フム……朗報のように聞こえるが、その表情を見るに良い報せではないのだろうな?」


 アイシュの報告は、額面上だけで捉えればこれ以上ない程の大戦果だ。

 テミスがネルードに到着した時には、ネルード全域に広がる各主要軍事施設のほとんどは敵の制圧下に置かれており、そこから更にじわじわと後退を始めていた体たらくだったのだ。

 そこから、敵を旧政庁区画にまで押し返したのは、攻勢では歴史書にすら記される程の、史上稀に見る大逆転であるに違いない。

 だというのにも関わらず、アイシュの表情は優れず、眉間には相も変わらず深い皺が刻まれている。

 つまるところ、この大戦果ですら霞んでしまう程の何かが待ち受けている。

 話の先を促したテミスは、腹の底を冷たい何かがひたりと過るような思いを抱きながら、密かに覚悟を決めた。


「えぇ。昨夜の事です。ゼルト軍港から多数の艦艇の出撃を確認しました。数は定かではありませんが、いずれもロンヴァルディアの方向へ舵を取っていたと報告を受けています」

「っ……! そう来たか……!! 嫌らしい奴だ」


 僅かに声を落として語ったアイシュに、テミスはピクリと眉を跳ねさせると、吐き捨てるように呟きを漏らす。

 おそらくは先の軍港攻めの戦いで、『先生』はテミスが現在このネルードに居る事を確信したのだろう。

 だからこその背後を叩く一手。

 ロンヴァルディアを守るべくテミス達が退けば、連中は再び市街を制圧にかかるだろう。

 撤退こそせずとも、アイシュ達との間に不和が生まれれば、戦力不足のアイシュ達と兵数に乏しいテミス達を、各個に撃破しやすくなる。

 それに加えて、テミス達が退かなかった場合。大きく戦力を欠いたロンヴァルディアは格好の隙を晒している状態、そこを攻めない道理はない。

 まさしく、どう転んだところで自分達を利する事ができる一石三鳥の良手だ。


「今まさに、貴女が守らんとしていたロンヴァルディアが攻め込まれているというのに、随分と落ち着いているのですね?」


 だが、テミスは苛立ちこそ見せたものの動揺を露にする事は無く、平然とした様子で思考を巡らせていた。

 アイシュは、まず間違いなくここでひと悶着があるだろうと想定し、幾ばくかの理論武装すらも準備していたのだが……。


「クク……そもそも、私が無策でこちらに出向くわけがないだろう。きちんと残してあるさ、十把一絡げの化け物共を叩き潰す番犬をな」

「それは僥倖です。実は、すぐに帰還すると言い出されるのではないかと案じていましてね。とはいえ、港を取り戻したとはいえ、まともに動く船は一隻たりとも残っていなかった訳ですが」

「馬鹿にするな。それでは元の木阿弥……素人が戦況に流されて右往左往しているだけではないか」


 まるでテミスを挑発しているかのような静やかな笑顔を浮かべて、アイシュは大仰に肩を竦めながら情報を付け加える。

 しかしそれでも、テミスはふてぶてしく鼻を鳴らして言葉を返し、小さくため息を零して言葉を続けた。


「そう怯えずとも、救援すべきお前達を放り出して帰ったりなどしないさ。下らない腹の内を探るのはこれっきりにしろ。少々……いや、かなり不愉快だ」


 援軍として出撃するにあたって、テミスとしてもこういった事態は予測していた。

 だが、あらぬ疑いを持たれて痛くも無い腹を探られては、手を貸してやる気が失せるというのもまた事実。

 だからこそ、釘を刺すという意味も兼ねて、テミスは皮肉と共にアイシュへ忠告を叩きつけた。


「……申し訳ありません。この身の不明を恥じ、深く謝罪します」

「謝罪を受け入れる。二度は無いぞ」


 そんなテミスに、アイシュは不意に立ち上がると、深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

 アイシュからの真摯な謝罪を受けたテミスは、嫌味を交えることなく淡々と答えると、ゆっくりと顔をあげたアイシュへ静かに頷いてみせたのだった。

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