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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2237話 醜悪なる産場

 桟橋を制圧したテミス達は、サキュドの先導で押し寄せる異形の兵を斬り伏せながら突き進むと、基地の中心区画へと辿り着いた。

 アイシュとスイシュウの話では、ここには指揮所と書類仕事をこなすための詰め所と、有事の際に兵達が集まるための広場が在る筈だった。

 しかし、変わり果てた姿となった指揮所の建物こそ存在したものの、広場らしきものは一切見当たらず、かわりにぶよぶよと揺れ蠢く巨大な不定形の塊が鎮座していた。


「なっ……!? これ……は……っ!!」


 ひときわ異彩を放つ巨大な不定形の塊を前に、テミスは驚きに目を見開きながらごくりと生唾を呑み下す。

 それもその筈。

 不気味に蠢く不定形の塊は、時折耳を覆いたくなる程に不快な音で嘶くと、ぶじゅりぶじゅりと表面を弾けさせ、異形の兵士を生み出していたのだ。


「なるほど……どうりで数が多い訳だ……!!」


 止めどなく生み出し続けられる異形の兵士を見据えながら、テミスは皮肉気な笑みを浮かべて呟きを漏らした。

 『先生』の言葉によれば、異形の兵士は深い憎悪と絶望から生み出される兵器のはずだ。

 しかし事実として、今テミス達の眼前では異形の兵士たちが生産(・・)されている。

 つまるところ、異形の兵士は『先生』の手によってヒトを基として作り出される兵器ではなく、『量産』の効く代物だという事になる。


「……待てよ?」


 だが、そこまで考えが至った所で、テミスは脳裏を過った一つの違和感に眉を跳ねさせた。

 ネルードで異形の兵士との再戦を果たして以来、ずっと心の片隅に残り続けていた一つの疑問。

 あの戦いの時、『先生』が伴って姿を現した異形の兵士は、今ネルードに蔓延っている異形の兵とは比べ物にならない程に強かった。


「つまり、姿形を似せた劣化模造品という訳か……!!」


 眼前の光景を見たことで、テミスの脳裏では歯車がカチリとはまったかのように、バラバラだった情報が一つに繋がっていく。

 個体差と断ずるにはあまりにも戦力に差があり過ぎる点。

 人間を基としている筈であるにも関わらず、予測される犠牲者の数とおおよそ釣り合わない敵兵の数。

 そして『船』にこの『産場』と、ただ漫然と戦うだけの兵士ではなく、明確に何かの役割を以て生み出されたとみられる異形たち。


「なるほど。お前達良く聞け。この醜いデカブツがこの基地の要だ。コイツを始末した後に掃討戦に移行する」


 テミス達が見ている間にも、巨大な不定形の塊はぶじゅりぶじゅりと異形の兵を生み出し続けていた。

 故に、テミスは即座に決断を下すと、淡々とした声で言葉を続けた。


「ジール。お前達は我々の援護に徹しろ。先ほどの戦いとやることは変わらん」

「ッ……! 了解だ。任せてくれ」

「やれやれ……人使いの荒いお方ですね」

「まだ……やれる……!」


 その指示に応じて、ジールが腰に提げていた剣を抜き放つと、槍使いの男は厭味ったらしく微笑みを浮かべながら、暗器使いの少女は傷を負っていない片手の袖口からじゃらりと鎖に結わえられた刃を垂らしながら、ゆらりと戦場に視線を向ける。


「コルカ。悪いがここが正念場だ。ジールたちを守りながら、討ち漏らした敵を始末しろ」

「了解ッ……! 任せて下さいよ。あんときの地獄に比べたら、こんな程度なんて事はねぇさッ!!」


 続けて発せられた指示に、コルカはニヤリと挑発的な笑みを浮かべると、指先に小さな炎を灯して答えを返した。


「サキュド。シズク。お前達は私に続け。傍らの敵は全て任せる」

「ッ……! 了解、です……!!」

「テミス様ぁ……傍らとは言わず、アタシにお任せ下さっても良いんですよぉ?」


 そして最後に、テミスは並び立つサキュドとシズクに視線を向けて、静かな声で命令を発する。

 テミスとの共駆けを命じられたシズクは、ピクリと耳を跳ねさせて嬉色を零した後、厳かに引き締まった顔で返事を返す。

 一方でサキュドは、ニタリと好戦的な微笑みを浮かべながら、手に携えた紅の槍をクルリと回すと、普段と変わらない調子で軽口を叩いてみせた。

 しかし一見すればただ、サキュドは掌でクルクルと弄んでいるように見えたものの、その実槍から零れる魔力は僅かに揺らぎ始めていた。

 無論。それを見逃すテミスではなく。


「クク……強がりはお互い様だ。サキュド。だからこそ、私はお前に共に来いと命じているのだ」

「あっはぁ……! お見通しでしたか……。勿論、意地でもお供させていただきます」

「フッ……!! それでは総員、行くとするかッ!!」


 クスリと微笑んでみせたテミスの指摘に、サキュドはピタリと弄んでいた紅槍を止めると、深々と頭を下げて恭順を示した。

 そんなサキュドに微笑みを浮かべながら、テミスは漆黒の大剣を肩に担ぎ上げると、ゆらりと大きく身体を揺らした後、先陣を切って突撃を敢行したのだった。

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