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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2236話 無言の誠意

「よしッ! やったかッ……!!」


 爆炎に包まれた桟橋を確認したテミスは、グラリと傾いだ身体を地面に突き立てた大剣で支えると、小さく笑顔を浮かべて声をあげる。

 足を止めての戦いを始めてから、コルカが四つの桟橋を爆破しきるまでにかかった時間はおおよそ十分に満たない程度の短いものだった。

 しかし、斬り捨てた敵にも気を配りながら、時には足元からの攻撃を躱して続ける戦いなど、如何にテミス達と言えども経験がある筈もなく、テミスを含めた部隊の面々の消耗は大きい。

 それでも戦い抜く事ができたのは、場の状況を良く見極めて立ち回り、時にはテミスに進言をしたジールと、彼の率いた元賞金稼ぎたちの地道な奮戦があったお陰だろう。


「……艦砲射撃の脅威は去ったとはいえ、敵はまだ残っている。総員、油断はするなよ」


 テミスはダメージを負った身体を無理やり動かして歩を進めると、部隊の面々に発破をかける。

 魔力を使い切った訳ではないとはいえ、消耗したコルカが戦線に復帰するまでには、まだ少しばかりの時間が必要だろう。

 とはいえ、異形の兵が大挙して押し寄せてくるうえに、足元からも復活してくるこの場所で戦いを続ける事は、事実上の敗北を意味する。

 部隊の面々はその意を正しく理解しているのか、サキュドは既に単独で戦線を切り拓き、シズクと槍使いの元賞金稼ぎの男が拓いた進路を維持していた。

 その道を、ジールに半ば担がれるようにして手を借りたコルカが向かい、無防備となった二人の護衛を暗器使いの少女が担っている。

 だがそこへ……。


「ッ……!!? クソッ!!」


 突如。

 四回目の爆発によって、未だ爆炎に包まれた桟橋の方向から、ビリビリと空気を揺るがす砲撃の音が鳴り響いた。

 その直後。

 立ち込める爆炎を引き裂いた二発の砲弾が上空へと舞い上がり、テミス達の方へと落下を始めた。

 しかし、テミスは即座に身を翻すと、地面に杖代わりに突き立てていた大剣を逆手で振り上げ、月光斬を以て放たれた砲撃に応じた後、返す刃で続けてもう一撃、爆炎の中に潜む異形の船へ向けて月光斬を放つ。


「クッ……!!」


 テミスの放った月光斬は見事、爆炎に包まれてなお生き残っていた異形の船を、もうもうと立ち昇る水煙ごと両断してみせた。

 だが、テミスとて強がってはいたものの、至近距離で榴弾の炸裂を受けたダメージは浅くはなく、振り切った大剣の切っ先を地面へ向けたまま、グラリと大きく上体を傾がせる。

 故に、自らを狙ったその一撃にテミスが気が付いたのも、まさしく偶然の産物だった。

 それは、逼迫した戦場かつ、想定外の敵の攻撃に即応した直後という状況下でなければ、テミスも見落とす事は無かったであろう、考えてみれば当り前の事実。

 サキュドが道を切り開き、シズクと槍使いの男が進路を維持。加えて消耗したコルカの移動にジールが手を貸し、暗器使いの少女がその護衛に付いているのだ。

 即ち足元の斬り伏せた異形の兵を押さえている者は一人も居ない。


「っ……!!」


 不定形の塊と化した異形の兵から放たれた攻撃が一閃。

 無防備に傾いだテミスの頭部へ向かって放たれた。

 形状は馬上槍のような円錐型で、軌道は一直線の刺突。

 しかし、体勢を崩しているテミスでは、どう足掻いた所で初動が遅れ、もはや躱す事は叶わないだろう。

 かといって、身を守ろうにも頼みの綱の大剣は、切っ先を地面に向けたまま構えてすらいない。

 この一撃を無傷で躱す事は叶わない。

 瞬時にそう判断したテミスは、体勢を崩したままどうにか急所は外そうと、無理矢理体を捻る。

 次の瞬間。

 肉を貫く鈍い音と共に、ぶしりと鮮血が宙を舞った。


「なっ……!?」


 だが、宙を舞ったのはテミスの血では無かった。

 すんでの所で、己が身を盾としてテミスの前に飛び込んだのは、ジールとコルカの護衛に付いていた暗器使いの少女で。

 テミスを狙った刺突は、少女が腕に巻き付けていた暗器の鎖によって逸らされ、少女の肩を貫いていたのだ。


「ウッ……ぁ……っ……!!」

「――ッ!!!」


 ぞぶりと無慈悲に引き抜かれる、槍を模った不定形の固まり。

 肩口に走る鋭い痛みにうめき声をあげた、暗器使いの少女の前に広がっていたのは絶望の光景で。

 足元で不定形に蠢いていた筈の異形の兵士だった物体は、その身をまるで剣山の如き姿へと変え、更なる追撃を放たんとしていた。

 しかし、恐怖と後悔に目を見開いた暗器使いの視界の中。

 背後から鋭く突き出された漆黒の大剣の切っ先が、剣山と化した異形の兵を瞬く間に刺し貫き、再び元の不定形の姿へと戻す。


「馬鹿な真似をッ……!! だが……助かった……ッ!!」


 その隙を逃す事無く、テミスは力を失って崩れ落ち始めた暗器使いの少女の身体をがしりと抱えると、一足飛びに高々と跳躍してジールたちの傍らまで退いたのだった。


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