表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2311/2319

2231話 異形の巣

 翌日。

 武装を整えたテミス達一行は、アイシュ率いる反抗部隊の面々と共に、治安維持軍が使っていたという港を訪れていた。

 テミスの要請に、アイシュは方々から兵をかき集めたらしく、今回の戦いに加わる兵数は二個大隊規模。

 そのうち一個大隊を、今回の話を聞きつけるや否や真っ先に参戦を表明したスイシュウが率い、アイシュは残る約一個大隊強の部隊を指揮する手はずだ。

 そこに加えてテミスの手勢は、サキュドとコルカとシズクに、道中で拾ってきた元賞金稼ぎの盗賊たちだった。


「さて……確かに報告通り、遠くから眺めているだけでは何もして来ないが……。なるほど、不気味さは図抜けているな」


 その先頭にアイシュと共に立ったテミスは、遠くに見える軍港を見据えて言葉を漏らす。

 一見しただけでは、多少人の形から崩れてこそいるものの、門番役の兵士が内外に二名ずつ立っているだけの、何ら変哲の無い光景だ。

 しかし、その兵士たちが身じろぎ一つせずに、まるで彫像のようにただ棒立ちしている姿からはまるで人間味を感じる事ができず、彼等が真の意味で化け物になり果てていることを物語っていた。


「テミス様。なぁんかアレ……前の連中とは違います」

「あぁ。わかっている」


 前を見据えるテミスの傍らで、うっすらと嗜虐的な微笑みを浮かべたサキュドが、静かに口を開く。

 その視線は、軽い調子の言葉をは裏腹に、鋭く門番役の異形の兵へと向けられており、小さな身体からはピリピリと満ちた魔力が感じられた。

 こと戦いにおいて、共に黒銀騎団として死線を潜り抜けてきたサキュドの直感は、テミスにとって信ずるに値する進言だ。

 無論。今回に限ってはサキュドが言わずとも、テミスも敵が纏う雰囲気が、以前の戦いで相まみえた異形の兵と異なる事は肌で感じていた。


「……既に察しているでしょうが、あそこの兵達はこの間貴女たちが一蹴して見せた雑兵とは格が違います」

「具体的には?」

「先日の兵は、こちらの兵五人程度で囲んで叩けば倒せますが、奴等を倒すためには最低でもその三倍は必要と見込んでいます」

「見込んでいる……という事は、実例は無いんだな?」

「残念ながら。討伐するに至った事はありません。その三倍という数も、犠牲者込みでのものになると思います」


 テミス達の会話に小さく息を吐くと、アイシュは『だから厭だったんです』と言わんばかりにテミスを横目で見据えながら、沈んだ声で言葉を紡ぐ。

 とはいえテミスとて、ここまで来て今更退くという選択肢は無く、元より敵が強いことはアイシュから知らされていたため、ここでは改めて己の目で見て事実を確認したに過ぎない。


「フッ……不本意な作戦であるのは承知しているが、そう突っかかるな。その試算はあくまでもお前や我々を頭数に含まない場合。意味は無い」

「あ~……お話し中の所申し訳ねぇんだが確認させてくれ」

「ッ……!」

「サキュド。構わん」

「何の確認だ? ジール。作戦行動については事前に通達済みのはずだが?」


 テミスとアイシュが話をしている所へ、元賞金稼ぎたちを率いていた壮年の男がゆっくりと歩み寄ると、酷く言い辛そうに声をかける。

 その瞬間。

 敵へと向けられていたサキュドの鋭い視線が壮年の男へと向けられるが、テミスはそれを制して冷ややかな声色で壮年の男に言葉を返す。

 この元賞金稼ぎの男は名をジールというらしく、賞金稼ぎたちの間ではそこそこ名の通った男だったらしい。

 その功績で、盗賊と化したあの元賞金稼ぎたちを取りまとめていたという。

 尤も、軍属の経験は無いようで、それ故に度々こうした横紙破りをやらかしては、サキュドの怒りに触れているのだが。


「アンタ達が恐ろしく強えぇってのは理解している。その上で……だ。俺達だけが、先駆けを務めるアンタらに随伴するのは、俺達が信用できねぇからか?」

「…………」

「そうだ。私は命欲しさだけで従っているお前達を信用していない。故に――」

「――待ってくれッ! だとしても、自分の足で死にに行けってなぁあんまりじゃねぇか……!? まだ若けぇ奴等も居るッ!! 信用できねぇってんなら、丸裸に剥いてくれて縛ってくれたって構わねぇッ! だからッ……!?」

「黙って聞いていればべらべらと勝手な事ばかり……。喉を掻き切れば少しは静かになるかしら?」

「ウッ……グッ……!!」


 テミスの言葉を遮って懇願するジールに、サキュドは流石に堪忍袋の緒が切れたのか、瞬く間に紅槍を現出させ、その切っ先をジールの首に向けて口を開く。

 その迅さに、ジールはまるで反応する事ができず、ただ恐怖に顔を歪めて緊張の汗を浮かべ、サキュドの要求通りに口を噤む事しかできなかった。


「クク……死にに行けだなんて誰が言った? お前達の仕事はたった二つ。我々に付いてくる事と、我々が無力化した敵の後始末をする事だけだ。仕事さえしていれば、私たちがきっちり守ってやる」

「ッ……!! わ……わかったッ……!! どうせアンタらからは逃げられねぇんだ。その言葉……信じるとしよう」


 そんなジールにテミスは不敵な微笑みを浮かべて告げると、ジールは酷く緊張しながら一歩退いてサキュドの穂先から逃れてから頷きを返し、クルリと背を向けて部隊の元へと戻っていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ