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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2228話 その剣、救いに非ず

 一方。

 サキュドが奮戦を見せる戦場の傍らで、テミスは相対した二体の異形の兵を相手に、淡々と堅実な戦いを繰り広げていた。

 腕を剣のような形状へと変化させて斬りかかる一撃を、刃と化した腕ごと両断し、返す太刀でがら空きとなった身体を両断する。

 続けて襲い来る一体の一撃は大剣の腹を盾のように用いて受け止め、そのまま弾き飛ばして逆襲の一撃の元に斬り伏せた。


「…………」


 そうして危なげのない戦いを進めて尚、テミスは厳しい眼差しでぐじゅぐじゅと再生する異形の兵を睨み付ける。

 あまりにも弱過ぎる。

 それが、異形の兵と刃を交えたテミスの抱いた感想だった。

 『先生』との戦いとの最中に現れた異形の兵は、動きこそ鈍くはあったものの、その攻撃はテミスですら受けるのに苦心する程の破壊力を持っていた。

 だが、眼前の兵の攻撃は軽い。

 確かに、ただの人間である一般兵からしてみれば、強烈な一撃を繰り出している事には変わりはないのだろう。


「数増しの乱造体か……?」


 ボソリと呟いたテミスは、再びヒトの形を成して立ち上がらんとする異形の兵に、無造作に大剣を突き刺しながら思考を巡らせた。

 思えば、あの時現れた異形の兵はどれも、『先生』が手ずから造り上げた、いわば特注品だ。

 聞くに堪えない醜悪な自慢話ではあったものの、『先生』は憎悪のような負の感情で異形の兵を作り出してたという。

 ならば、わざわざ町を一つ制圧しかけるほどの大軍勢を、あの戦いの前から『先生』が有していたとは考え難い。


「……間違いない。個体差があるとみるべきだな」


 ひたすらテミスに再生を阻害され続けた二体の異形の兵は、先に外敵を排除すると定めたのか、一斉に不定形だった形状から針を突き出し、ウニのような姿に形を変えて反撃をする。

 しかし、鋭く長く伸ばされた針がテミスの元へと届く前に、轟然と振るわれた大剣の一閃がその事如くを叩き折った。


「知能がある……? いや、自律行動をしていると考えるべきか。船と一体化していた個体の件も含めて考えると、面倒な進化(・・)をしている可能性があるな」


 淡々と思考を続けながら、テミスは針を斬り払うべく振り抜いた大剣を、勢いのまま大上段に構えると、強烈な一撃を不定形の塊へと叩き込んだ。

 もしも、『先生』が少数の精鋭兵を従える方針から、一体一体は多少弱くとも、再生力と数に者を言わせて呑み込む方針へと切り替えたのならば、戦力で劣るアイシュ達を呑み込むには適切な戦略だといえる。


「クク……それならそれで、手間が省けたというものだ」


 ザザザンッ!! と。

 強烈な一太刀を加えた直後、テミスは激しく大剣を振るって、不定形の塊と化した異形の兵たちに無数の斬撃を浴びせた。

 その後振り抜いた大剣を肩へと担ぎ上げ、異形の兵士であった水たまりのように広がる黒い液体を悠然と見下ろした。


「…………」


 ともすれば、まだ反撃があるかもしれない。

 テミスはそう考えて観察していたのだが、水たまりのようにさらさらと地面に広がった不定形の塊は、不気味にその表面を震わせた後、黒い塵となってボロボロと宙へ消え失せていく。


「……こんなものか」


 最後の一片まで虚空へと消え失せたことを確認したテミスは、クルリと身を翻して、唖然とした表情で戦いを見据えるネルード兵の元へと踵を返した。

 市街へと彷徨い出でんとする異形の兵を食い止めているのは、何もこの場所だけではないのだ。

 本来ならば、一か所ずつ根絶やしにしていくのが常道なのだろうが、今回の目的はあくまでも士気の高揚だ。

 故に、戦闘が落ち着いたからといってテミス達がこの場に残る訳にもいかず、後の始末と警備は本来ここに配されていた兵達に任せる必要がある。


「おい。お前がここを守護する部隊の指揮官だな?」

「あ……あぁ……。助かったよ。感謝する」


 歩み寄ってそう問いかけたテミスの問いに、分隊長と呼ばれていた男は妙に爽やかな笑みを浮かべて答えを返した。

 その傍らでは、彼の手当てを終えた元賞金稼ぎの壮年の男が立っており、呆れたような笑みを浮かべてテミスを出迎えている。


「残存戦力は? 今回の戦いでどれ程消耗した?」

「っ……!! もうマトモに戦える奴ぁ十人も残っちゃいねぇ。だが、アンタたちが来てくれたお陰で、怪我をした連中も――」

「――悪いが、その期待には応えられない。お前は残存兵力を率いて引き続きここの守りを固め、怪我人についてはアイシュからの援軍を待て」

「なッ……!?」


 分隊長の男の言葉を途中で遮ったテミスは、淡々とした酷く事務的な声で伝えるべき事を一方的に告げると、淀みの無い足取りで次の戦場へと歩み始めた。


「ちょっ……! 待ってくれッ!! 無茶だッ!! アンタたちがその援軍じゃあねぇのかよッ!? せめて怪我人を本隊へ送る間だけでもここに居てくれッ!!」

「……サキュドッ! コルカッ!! 次だ。行くぞ」

「くふふっ……! 了解っ……!!」

「あいよッ! まだまだ余裕だッ!!」

「……悪いな」


 淡々と去っていくテミスに、分隊長の男は大慌てで縋るような叫びをあげるが、その足取りが止まる事は無く、旗下に号令をかけて去っていく。

 敵を倒し終えたサキュドとコルカがテミスに続いた直後、壮年の男も憐れむような瞳で分隊長の男にひと声をかけ、三人の後を追った。


「ッ……!! 畜生ッ!! 待てよッ!! 馬鹿野郎ッ!! テメェ等にゃ……情けってモンがねぇのかよォッ!!」


 そんなテミス達の背に、分隊長の男の悲痛な罵倒が投げ付けられたのだった。

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