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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2221話 揺ぎ無き道理

 戦いの手を止めたサキュドは、地面に突き立った紅槍に触れて虚空へと消し去ると、満足気な笑みを浮かべてテミスを振り返る。

 そこには、戦いの最中に宿っていた狂気は去っており、普段のサキュドに戻っていた。

 だがそれを確かに感じ取る事ができる者は、この場ではシズクを含む黒銀騎団の面々だけで。

 味方であるはずのサンたちネルードの兵士までもが、テミスにすら牙を剥いたサキュドの戦いぶりに、恐怖の眼差しを向けていた。


「……なんなんです? あの目。アタシが戦ったのって、奴等を守る為ですよね? 不快です。ヤっちゃって良いですか?」

「ヒィッ……!?」

「良い訳があるか。幾ら不快であろうとも護衛対象だ。傷一つ付ける事は許さんぞ」

「ちぇっ……!! はぁいっ……!」


 サキュドはテミスとの戦いに、相当満足しているのだろう。

 自身に怯え切った視線を向けるネルード兵達をじろりと睨み付けると、ニタリと凶悪な笑みを浮かべてテミスに問いかける。

 無論。サキュド自身許可が出る筈もないことは承知のうえで。

 ただ、自らに怯えるネルード兵達を揶揄って、遊んでいるのだ。

 それを理解したうえで、テミスもあえて誤解を解く事は無く、サキュドを傍らに連れたまま、元賞金稼ぎたちの元へと歩み寄った。


「畜生ッ……! 何だってんだ……!! お前等ッ……!!」

「あり得ない……!! ぐぅっ……!! こんな事……あり得ないッ……!!」

「っ……!!!」


 サキュドを相手に、辛うじて生き残った三人は、それぞれに自らの負った傷を庇いながら、悔し気な目でテミスとサキュドを迎える。

 とはいえ、既に二人の見せた戦いから……もしくはサキュドを相手にした経験から、隔絶した戦力差を思い知っているからだろう。

 悔しさに満ちた目を向けこそするものの、そこに害意は感じられなかった。


「改めて、俺達を見逃してくれて感謝する」

「勘違いするな。見逃したわけじゃない。お前の言動から、利用価値があると判断したまでだ。敵だと見做せば即座に斬る」

「っ……!」


 唯一傷を負っていない壮年の男が口を開くと、テミスは冷淡な声色で言葉を返し、ギロリと冷えた眼差しで、地面にぐったりと倒れ伏している暗器使いの少女を睨む。

 瞬間。

 暗器使いの少女はビクリと肩を跳ねさせると、ゆったりとしたローブのような服の袖口から、僅かに覗いていた刃先を引っ込めた。


「馬鹿が……そこまでボロボロにされて、自分では敵わんとまだわからんか。自殺ならば一人でやれ。俺を巻き込むな」

「っ……! ところで、手当てをしては貰えませんかね? 投降はしましたし、僕たちは捕虜ですよね? 軍属なら、捕虜を見殺しにすべきではないのでは?」

「ッ~~!!! 言った傍からッ……!!」

「フッ……知らんな。今言っただろう? 私は利用価値があると判断したからこそ、お前達を殺さなかっただけだ。死ぬならばそれまでだ。勝手に死ね」

「なぁッ……!?」

「……ッ!!」


 槍使いの男が理詰めで要求を口にすると、壮年の男は表情を歪めて額を掌でパシリと叩く。

 察するに、酷く不安定な綱渡りでもしている気分なのだろう。壮年の男が心を削る姿に、クスリと僅かに頬を緩めたテミスが冷ややかに言葉を返すと、槍使いの男は驚愕に目を見開いて息を呑んだ。

 だがそれと同時に、戦斧使いの女がうめき声と共に倒れ伏す。


「……さて。各員支度を整えろ。5分後に出立するぞ」

「ばッ……!!? 正気かよアンタッ!! 僕は兎も角、このまま放っておけば彼女は死ぬぞッ!!」


 しかし、テミスはただチラリと一瞥をくれただけで、さっさと視線をネルードの兵達の方へ向けると、淡々とした声で指示を出し始める。

 それに槍使いの男は怒りの形相で立ち上がり、傷付いた身体を引き摺りながら叫びをあげた。


「だからどうした? 覚えの悪い奴だな。知った事かと言ったはずだが?」

「この……人でなしめッ!!」

「クハハッ……! まったく可笑しな奴だな? お前達は我々を殺す気で襲ってきたのだろう? だというのに何故、私がお前達を助ける? そんな道理があるものか」

「うぐッ……!! だ、だがッ……!!」

「止せ。俺の持っている包帯がある。応急処置だけして担いで運ぶぞ」


 だがテミスはニタリと蝋燭の蕩けたような歪んだ笑みを浮かべ、嘲るように吐き捨てる。

 それでも尚、抗弁を続けようとする槍使いの男を止めたのは、彼を率いていた壮年の男で。


「出発は5分後だったな? 俺達が勝手に手当てをして、勝手に連れて行く分には構わないだろう?」

「好きにしろ。だが、離脱すれば離反したと見做して叩き斬る」

「ッ……!!!」

「……わかった。温情に感謝する」


 そんな壮年の男の問いに、テミスは変わることのない冷たい声で、突き放すように答えを返した。

 けれど、壮年の男は静かに微笑みを浮かべると、礼を口にしながらテミスへ深々と頭を下げたのだった。

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