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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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210話 兵士と云う生物

「なっ……何だっ……?」


 ガラガラと燃え崩れる天幕の下で、ルギウスは驚きの声を漏らしていた。

 その周囲では、防壁に守られていない人間の兵士たちが、叫び声を上げながらバチバチと燃え盛る炎から逃れようと、必死の形相で逃げ惑っていた。


「たっ……頼むッ! 俺も! 俺も入れてくれェッ!!」


 果てには、逃れ得ぬことを悟った兵士が、安全圏に居る敵であるルギウスにまで命乞いを始める有様だった。


「っ……ルギウス様……?」

「無視しろ」

「は……はい……」


 しかし、そんな兵士の叫びも空しく、ルギウスは冷たい声でそれを切り捨てる。

 確かに哀れには思うが、窮地で手の平を返す者を招き入れる事は、ルギウスの指揮官としての人格が強烈に否定していた。


「こ……こいつ! 聞いたかッ!? 裏切りやがった!」

「何だとっ!? クソッ! せめて裏切り者だけでも始末しておけっ!」

「ひぃっ!? や、やめろっ! 嫌だ! 死にたくないッ!」


 同時に、窮地に追いやられても矜持を忘れなかった者達によって、泣き叫ぶ裏切りの兵士が引き摺られていく。


「待ってくれ! 子供が……子供がいるんだ! 俺が死んだらあの子はっ……!」


 絶望に満ちた叫びを散らしながら、その父親(・・)兵士(・・)によって叩き伏せられ、抜き放たれた兵士の白刃が高々と振り上げられる。


「っ――」

「――シャル」

「……っ!! …………はい」


 そのあまりにも残酷な光景に耐えかねたのか、シャーロットがピクリと指を動かしかけるが、機先を制したルギウスがそれを留める。

 確かに哀れではあるし、この地獄のような光景が狂っているとも思える。しかし、それ以前に彼は敵なのだ。このような状況に追い詰められなければ、彼は迷わずその刃を我々に向けていただろう。


「……一体、何が正しいのだろうな」


 高々と振り上げられた断罪の刃を眺めながら、力なくルギウスは呟いた。

 生き残りたいと思うのは、生物として正しい本能だ。そしてヒトとしても、幼き我が子を遺して逝くを良しとする親など存在する筈が無いだろう。


 ――しかし、戦争の場では矜持が命に勝るのだ。

 敵を殺す事が圧倒的な正義であり、それを成し遂げる為ならば自らの命すら投げ打つ事も厭わない。それこそが、理想の兵士の姿だ。


「あぁ……なるほど。敵わない訳だ……」


 そこまで思考が至った途端。ルギウスは力無い笑みを浮かべて呟いた。


「これが僕と君の間にある()か」


 シャーロットを引き留めた手を眺めながら、ルギウスは密かに問い続けてきた自らの問いに自答した。


 テミスならば。あの、眩い程の正しさを貫く少女ならば……。迷わずあの父親を救うべく飛び出すのだろう。そしてきっと、気に食わん悪が居たから斬っただけだと嘯くのだ。そして、あの父親の事も容赦なく叩き伏せるのだろう。

 敵に救われた間抜けな兵ではなく、単身生き残るも勇敢に敵に立ち向かった立派な兵士とする為に。


 振り下ろされていく凶刃に目を細めると、ルギウスは心の中で名も知らぬ兵士へと侘びた。

 僕がもっと聡かったのならば……。正義を愛する彼女の様に……軍団長ではなく、一人の男として目の前の現実を受け止められていたならば……。

 全てが手遅れで、自らの手から零れ落ちた命を眺めながら、ルギウスは誓いを立てる。もしも、『次』があるのならば、その時は決して間違わない……と。


「ッ――ギャアア――ア゛ッ!!」


 刹那。バヂィッ! という嫌な音と共に男の醜い断末魔が響き渡り、焦げ臭い(・・・・)匂いが周囲に漂った。


「こ……今度は何――ピギィッ――ッ!!」

「……っ!? な……何が起きているんだ……?」


 違和感を察したルギウスが目を開くと、人間軍を裏切った兵士を断罪しようとしていた二人が、まるで雷にでも打たれたかのように焼け焦げて倒れ伏していた。


「馬鹿な……ッ!」


 バヂィッ! バヂィッ! と。混乱を極めた戦場に音が鳴り響くたびに、その中を逃げ惑う人間の兵士たちが背をのけ反らせて崩れ落ちる。それは、紛れもなく雷系汎用魔法・紫電の雷弓が着弾している光景だった。


「ル……ルギウス様……?」

「……テミスだ」


 ボソリ。と。戸惑いを隠さずに主君へと指示を仰いだシャーロットに、ルギウスは放心したかのように呟いた。

 そもそも、紫電の雷弓の射程は短い。雷系の魔力の特性で、強力な力を持つ一方で拡散力も高いのだ。故に、いくら魔力の高い者が扱ったとしても、せいぜいその射程は長弓と同程度。一撃でも掠れば、魔導防御の薄い敵ならば絶命させ得る威力を持つ点を除けば、あまり使い勝手の良い魔法ではない。


「紫電の雷弓をこれだけの規模の軍勢が持つ索敵範囲の外側から叩き込むなんて、彼女くらいしか考えられないだろう……ッ!」

「確かに……そうですが……」


 そう言って目を輝かせるルギウスの隣で、次々と消し炭へと変化する敵兵を眺めながら、シャーロットは目を伏せたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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