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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第32章

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2193話 出兵遊戯

 数日後。天高く上った陽が燦々と辺りを照らし出す中。

 毅然と並んだ船団が、パラディウム砦に程近い湖上に集結していた。

 その雄姿に満ち溢れた姿はパラディウム砦の軍港からも良く見え、美しく等間隔に整列した数々の船は、それぞれに高々とロンヴァルディアの国旗を掲げている。


「ハハッ……!! 馬鹿の見本市だな」

「ッ……!!!」


 その錚々たる景色を眺めながら、テミスは侮蔑に満ち溢れた嘲笑を浮かべると、吐き捨てるように笑い声をあげた。

 だが、テミスの傍らには、護衛の名目を以て張り付いている四人の王宮近衛隊の騎士が居て、嘲り笑うテミスを怒りに満ちた瞳で睨み付ける。


「それで? こんな無様なものを見せるためにわざわざ私を連れ出したのか?」

「貴様ッ!! 我々が黙って聞いているからとッ……!! 下らん戯れ言を抜かすなッ!!」

「止せッ! 下賤な輩にはあの美しさが理解できんだけだ。まともに取り合うな」

「ほぉ? 初耳だな。戦争とは美しさを競い合う物なのか? ならば船首には目立つように煌びやかな像を立て、煌びやかな宝石でも埋め込んで飾り立れば良いのではないか?」

「減らず口をッ!! しかと見よ! あの寸分の乱れ無き精緻な隊列をッ! これ程の大軍を以て成せるは練磨の証ッ!! 即ち我が軍の強靭さであるぞッ!!」

「…………」


 無理矢理に連れ出された腹いせに、テミスが止まる事のない皮肉を叩き付けると、堪えかねた一人の騎士が、仲間の制止を振り切って怒りの咆哮をあげた。

 しかし何をどう見たところで、テミスの目には眼前の船たちがパレードでも催しているようにしか見えず、とてもこれから出撃する船団とは思えなかった。


「……船を密集させ過ぎだ。これでは外縁部の船以外は回避行動は愚か、まともに回頭すら出来んではないか。砲撃演習の的にしたって巨大すぎる」

「ハハハハッ! 馬鹿め。ここは最前線からはかなりの距離がある。敵など来るはずが無かろう」

「なるほど……? そういう楽天的な馬鹿ばかりだからこそ、私がロンヴァルディアに仕掛けた奇襲はあれ程までに効果的だったのか」

「コイツッ――ぐぁッ!!?」


 呆れかえったテミスが問題点を指摘してやると、騎士は嘲るような笑い声をあげた後、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて言葉を返す。

 だが、すかさずニンマリと意地の悪い笑みを浮かべてテミスが挑発し、再び怒りに呑まれた騎士が、固く握り締めた拳を振り上げる。

 しかし、その拳が振り下ろされるよりも遥かに迅く。

 テミスは流れるような身のこなしで騎士の腕を取ると、一本背負いに騎士を投げて地面へと叩き付けた。


「ッ……!!! 動くなッ!! 何をしているッ!!」

「…………」


 全身を強烈に叩きつけられ、悲鳴をあげる余裕すらなく身悶えする騎士の傍らで膝を付くテミスに、周囲を固めていた騎士達は一斉に抜剣すると、切っ先をテミスへ突き付けて怒声をあげる。

 けれど、テミスはただ昏い微笑みを浮かべただけでそれ以上動く事は無く、故に突き付けられた剣が振りかざされる事も無かった。


「やれやれ。馬鹿だな。何故切り付けて来ん」

「なんだと……? う――わぁッ……!!?」

「なッ……!? ……がぁッ!?」


 次の瞬間。

 深々と溜息を吐いたテミスは、突き付けられた剣を一振りずつ掴み取ると、力任せに腕を引いてバランスを崩し、剣を奪いながら二人の騎士を衝突させる。

 これで残るはたったの一人。

 両手で剣の切っ先を掴んだまま、テミスは胸の内でそう呟くと、クルリと剣を投げ回してパシリと柄を掴む。

 そして、残る一人は悲鳴や雄叫びすら上げる間も無く。

 ただテミスへ向けていただけの剣を、無抵抗に蒼空へ弾き飛ばされ、ドサリとその場に尻もちをついた。


「そういう所が、ずれていると言っているんだ。お前達は今、私が危険だと判断したから剣を抜いたのだろう? (コイツ)はヒトを斬り殺す為のものだ。見ての通り、ただ突き付けただけでは意味をなさない棒きれに過ぎん」


 痛みに悶え、或いは恐怖に腰を抜かした騎士たちを冷ややかに見下ろしながら、テミスは淡々と言葉を紡ぐと、両手に握った剣を棄てる。

 テミスの手を離れた剣はガシャンと大きな音を奏でて地面に落ち、痛みの悶えるそれぞれの持ち主たちの傍らでピタリと止まった。


「おやおや。困りますねぇ。このような事をされては。我々に対する叛逆と見做しても良いのですよ?」

「好きにしろ。兵のしつけもまともにできん奴が……大仰な口を叩けば叩くほど滑稽に映るぞ?」


 その時、癇に障る声が響き渡り、声の主であるグレイルが悠然とした歩みでテミス達の元までやってくる。

 そんなグレイルに、テミスは一瞥すら向ける事は無く、皮肉気な微笑みを浮かべて吐き捨てるように告げたのだった。

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