幕間 天衝く魔塔
地下水道でのテミス達との戦闘の後。
辛うじて生き残ったエルトニア兵たちを救助したレオンたちは、宿舎でもあるインペリアルタワーの下層へと戻っていた。
しかし、同行していた部隊が壊滅した誹りを免れることはできず、エルトニアとネルードを問わず、既に良からぬ噂が広がりつつあった。
「あーあ、嫌になっちゃいますね。この空気。そんなに文句を言うのなら、一回自分達が戦ってみればいいのに」
「まったくだぜ! 生き残りが居たのだって、俺達が必死こいて戦って退かせたからじゃねぇか!!」
「まぁまぁ、そんな意地悪言っちゃダメですよ? あの人たちじゃどうせ、戦っても死んじゃうだけじゃないですか」
「フッ……」
ひそひそと漏れ聞こえてくる陰口を前に、レオンたちは朗々と響く大声で言葉を交わすと、揃って皮肉気な微笑みを浮かべて、周囲の兵士たちを睨み付ける。
とはいえ、レオン達が上層部から直接の懲罰を受けた訳ではなく、ネルード側も同席のもとで事情聴取を受けただけなのだが、敗走した癖にお咎めが無い所為で、余計に噂を加速させてしまっていた。
「ねぇレオン。賭けない? 私たちが喧嘩を吹っかけられるのが先か、あの人がこっちに来るのが先か……」
「ハハッ!! 良いな! ソレ! 乗ったぜ! 俺は断然喧嘩だ!」
「……それなら僕は、レオンの逆にしましょう」
「あははっ! なら私もそうしようかなッ! レオンは?」
「っ……! 俺は……」
「あっ! ずりぃぞ! お前ら二人がそっち側なら、レオンはこっち側だろうが!」
「ぶ~! 賭けにそんな決まりはありませぇん! 負けたくなかったら頑張って怒らせれば良いんじゃない?」
「クッ……!! コイツッ……!!」
「そう煽らないであげて下さい。彼等にファルトが期待するほど度胸なんて無いんですから」
「あっはぁっ! 確かに! 弱っちぃから、陰でコソコソ文句言ってる事しかできないもんねぇ!!」
「…………」
レオンは怒りに任せて周囲の兵達を煽り立てる仲間達に溜息を吐くと、鋭い視線に気迫を込めて、周囲の兵士達を威圧する。
普段ならば、こういった事態になったとしても、冷静なミコトが止めに入るのだが、今回は彼までファルト達と一緒に、周囲に喧嘩を振り撒いているのには訳があった。
このインペリアルタワーの警備は、レオン達が認識していたよりも厳重で。
一部の兵士たちの宿舎も兼ねている都合上、警備の任に就いていない兵も出入りする為、配置されている兵士の数が実数を遥かに上回っている上に、行動の読めない兵士が多数存在する。
それはテミス達との密会を企んでいるレオン達にとっては非常に都合が悪く、ならば注意を自分達へ向ける事で、ある程度好き勝手に動き回る兵士たちの制御を試みたのだ。
「っ……! 早いな」
そうして、主にファルトが中心となって注目を集めている最中。
窓の外を注視していたレオンの目が、既視感のある人影を捉えた。
かなりの高さがあるせいで、人影は豆粒程度の大きさにしか見えなかったものの、レオンはテミス達である可能性は高いと直感していた。
「ファルト、シャルロッテ。ここは任せる。ミコト……行くぞ」
「あっ……! 流石早いですね……わかりました」
ボソリと指示を出してレオンが歩きはじめると、スルリとファルトたちの輪から抜け出したミコトが後に続く。
そんな二人と別れたファルトとシャルロッテは、思いのままに周囲の兵士達を煽りたてながら、ゆっくりとレオン達とは逆の方向へ歩き始めたのだった。




