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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2152話 課されし役目

 首筋を狙った鋭い斬撃が肉を裂き、淡く輝く青色の燐光を纏った刺突が、『先生』の肩口を穿ち抜く。

 意識を眼前のコジロウタへと向けていた『先生』は、ユウキとシズクの奇襲に反応する事すら叶わず、襲い来る痛みにただ苦悶の声を漏らした。

 だが、二人の刃を呑み込んだ傷は既に蠢く闇が覆い始めており、即座に反応したユウキとシズクは刀と剣を引いて大きく一歩退いてみせる。


「ッ……!! あの闇……やはり厄介ですね……!」

「でも、たぶん予想はあってると思うよ? 今も剣が刺さったままだってのに呑み込もうとしてたし、エツルドにしてやられた時みたいに武器を奪われるかも……!」

「……と、なると斬り払うか切り落とすかですが……」

「あの黒いの、ほんっとうに硬いんだよねぇ……。あんなにぐにぐに動いてるくせにさぁ」

「だとすると……っ!!」

「おおっとっ……!!」


 一歩退いたユウキとシズクは、それぞれに武器を構え直しながら、肩を並べて言葉を交わす。

 そこへ、出し抜けに振るわれた異形の右腕が叩き付けられるが、二人は左右に分かれて危なげなく『先生』の攻撃を躱し、応撃とばかりに伸ばされた右腕に斬り付けた。

 しかし二人が放った斬撃は、揃って硬質な鋼にでも打ち付けたかのような音と共に弾き返され、異形の腕には傷一つ付ける事は叶わなかった。


「くぅっ……!! やはり……硬いッ……!!」

「やっぱり……剣技(スキル)じゃないと通らないよねぇッ……!!」


 だが、ユウキもシズクも斬撃を弾かれてなお体勢を崩す事は無く、まるでそれすらも予測していたかのように、剣と刀が弾かれた勢いを利用して異形の右腕から距離を取る。


「ほぉ……?」


 その様子を遠巻きに眺めていたコジロウタは、酷く愉し気に息を漏らすと、長刀の柄に番えていた手を音も無く下ろした。

 直後。


「はぁぁぁぁッ!!」

「甘いッ……!!」


 距離を取った二人を目がけて、異形の腕から無数の触手が伸びて襲い掛かるが、ユウキは携えていた剣の刀身に赤い燐光を纏わせて振るい、その尽くを両断して落とす。

 一方でシズクも、次々と迫り来る触手を片端から叩き斬り、一撃たりとも肌に掠らせる事なく斬り払った。


「チィィッ!! 鬱陶しいなァッ……!! おい、お前等。あの一番ムカつく銀髪はどうした? まさか、あれだけ偉そうな口をきいておいて逃げたんじゃあないよなァ……!?」

「…………」

「ッ……!」


 苛立ちを露に、表情を歪めた『先生』がシズクとユウキを睨み付けて問うと、ユウキは露骨に目を逸らして剣を構え、シズクは無言で下唇を噛み締める。

 その様子は、『先生』の目には何より雄弁な答えとして映ったらしく、醜悪に歪めていた表情に喜色を浮かべると、ゲラゲラと腹を抱えて高笑いを始めた。


「アハハハハハハっ!!! 逃げたッ!? 逃げたのかよッ!! 本当にィッ!!? アッハッハッハッハッ……!! ダサ過ぎるにも程があるだろッ!! んふっ……ぶははははははっ!! あ~腹痛てぇっ……!!」

「っ……!」

「ッ……!!!」


 爆笑しながらテミスを嘲笑う『先生』を前に、ピクリと眉を吊り上げたユウキが握り締めた剣の柄を固く握り締め、堪えるように噛み締めたシズクの唇から、一筋の血が滴り落ちる。


「それでぇっ……? お前達はァ……! 捨て駒にされたってワケぇッ……!!? 馬鹿だろ! 馬鹿なんですか? 馬ッ鹿じゃねぇのッ!? 足止め押し付けてサッサと逃げ出したヤツの為なんかに命懸けちゃってさァッ!」

「ッ……!!! 黙れッ……!! あの人は逃げてなんかいませんッ!!」

「っ……!? ちょっとッ……!?」

「へぇ……? だったら何処でナニしてるってのさ? お前達にだけ戦わせてさぁ?」


 止まる事の無い笑い声と共に放たれる『先生』の嘲りに、遂に耐え兼ねたシズクが、怒りを宿した瞳で鋭く睨み付けながら叫びをあげた。

 それを聞いたユウキは、驚きに息を呑んで目を丸く見開くと、まるでシズクを静止するかのように掌を翳す。


「ッ……!! 逃げ出したんじゃないッ!! 戦略的な撤退ですッ!! 私達はッ……殿を任されただけッ……!!!」

「アハハハハッ!! それを逃げ出したって言うんだよォォォッ!! お前だって本当はわかってるんだろ? ハハハッ……! 現実を見ろって。殿じゃなくて捨て石。イイように使われたなぁ?」

「…………」

「ッ~~~!!! 黙れッ! 黙れ黙れッ!! 黙れェッ……!!!」


 しかしユウキの制止を無視して、シズクは喚くように荒々しく言葉を続けた。

 けれど、それを聞いた『先生』は更にげらげらと笑いはじめ、酷く歪んだ意地の悪い笑みを浮かべながら、シズクに罵声を叩きつけた。

 嬲るように繰り返される罵声に、ただシズクは怒り心頭といった様子で、駄々をこねる子供の如く喚き散らす。

 

 その様子を、ユウキは口を僅かに開けたまま、ポカンとした表情で見つめる事しかできなかった。


「ハハハハハッ!! ひぃ~~~っ……!! 面白ッ……!! なぁ、お前等さぁ。見逃してやるからそこを退けよ。というか……そうだ。お前等も一緒に、あの逃げ出した臆病者を狩りに行こうぜ?」


 そんなシズクたちへ、『先生』は歪み切った笑みを向けて笑いかけると、異形の右腕を差し伸べて問いかけたのだった。

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