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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2139話 最強の兵士

 ぞろぞろ、ぞろぞろ……と。

 弓を構えた異形の兵士の背後から、一人、また一人と異形の兵士が歩み出る。

 異形の兵士たちの手には剣、槍、斧などの多種多彩な武具が握られているものの、そのどれもが兵士たちの体を覆っている闇とも影ともつかない黒い色で塗り潰されているようで。

 加えて、幾つかの武器はときおり脈動するかの如く、表面に赤い筋が明滅している。


「ハッ……!? クッ……!!!」


 テミス達が呆然としている間に、矢を放った異形の兵は再び手に携えた弓に矢を番えると、目を見開いて凍り付くテミスに向けて第二射を放つ。

 だが、自身を狙う矢の風切り音に我を取り戻したテミスは、すんでの所で大剣を振るって闇色の矢を打ち払った。


「アハハッ……! ハハハハッ!! どうだい? 驚いたかい? こいつらが僕の持つ最強の兵さッ!!」

「ガハッ……!! ゴホッ……!! ッ……!! 先……生……」


 館の中から次々と湧き出るかのように歩み出てくる異形の兵を背に、『先生』がケタケタと誇らしさすら滲む高笑いをあげる。

 すると、それまで地に伏せたまま動かなかったエツルドが、油の切れた人形のような動きで体を起こし、激しく咳き込みながらしゃがれた声で言葉を漏らした。


「んん……? あぁ……なんだ。お前。生きていたのか」

「『先生』の最強の兵は……俺たち……親衛隊では無かったのですかッ……!!」

「…………」

「あ~あ~あ~あ~……。そういうの良いって。面倒臭いから。確かに、前までお前達親衛隊は最強だったさ。でも……世代交代ってあるだろ? 技術は日々進歩してるんだからさ。お前たちみたいな旧世代……いや、試験型がいつまでも最強な訳ないだろうが!」

「試験……型……? 俺……達が……?」


 血を吐くようなエツルドの慟哭に、テミスは憐れむような視線を向けると、クスリと静かに頬を歪める。

 テミスは、この性根の腐り切った男の精神は、叩こうが(なます)に斬ろうがどうにもならないと諦めていた。

 だがどうやら、力を賜った者から三下り半を突き付けられたとあれば話は別らしく、傲慢な笑みを浮かべていたエツルドの表情は、今や絶望に沈んでいる。


「そうだとも。その証拠に、お前には自我が残ってるだろ?」

「なっ……!?」

「お前達にやった呪法刀は全部、呪いの方向性や発現する能力(チカラ)の傾向を研究していただけのモノだ。ま……だからこそ、無駄に自我が残っちゃってるんだけどさ」

「クク……。最強の兵士……とは良く言ったものだ」


 絶望に打ちひしがれるエツルドに、嬉々として絶望の真実を告げる『先生』の言葉を聞きながら、テミスは皮肉気に頬を歪めて低い声で呟きを漏らす。

 建物の中からまるでゾンビの如くまろび出てくる異形の兵士たちには、『先生』の宣った通りどうやら自我と呼ばれるものは無いらしい。

 確かに、傍若無人に振舞うエツルドや、変態趣味に走ったアイシュの事を考えれば、『先生』の言い分にも一理あるようにも思える。

 事実。かの世界での軍隊でも、まず兵士たちには圧倒的な理不尽と過酷な命令を以て、命令に絶対服従する従順さを植え付けるという。

 言い換えればそれは自我を剪定する作業であり、時には死地であると知りながらも赴かねばならないのが兵士という存在である以上は、一概に否定する事はできない。

 だが……。


「自我が無ければ自ら思考し、行動を起こす事も無い。つまり、お前の目が届かん場所ではただの木偶と変わらんし、指揮官であるお前を殺せば全て片が付く」


 テミスは低い声で淡々と告げると、大剣の柄を掴んだ手をギシリと固く握り締める。

 最強の兵を自称するだけあって、テミスが打ち払った矢には凄まじい威力が込められていた。今この眼前に立ち並ぶ異形の兵達が、全て同等の攻撃力を有しているのだとしたら、一国を滅ぼす事など容易い力だと言えるだろう。

 唯一の救いは、この兵たちが指揮者(・・・)の命令なしには自律行動できない所だ。

 テミスがそう胸の内で安堵の息を零した時。


「ハハハハッ!! お前、意外と話が分かる割には馬鹿だなぁ……? 良いか? 新しい製品(・・)ってのは、思い付く問題を全て潰して世に出すモンだ!! こいつ等は兵士だッ!! 人を殺す道具ッ!! 怨念と憎悪と苦痛ばかりが残ったコイツらを放り出してやれば……どうなるかくらい簡単だろうッ!?」


 『先生』はテミスの零した言葉に応えるように、大きく両手を広げてげらげらと不快な笑い声をあげると、まるで自身の玩具を自慢する子供のように朗々とまくし立てる。

 だがそれは、あの異形の兵士たちが死すら生温い地獄の中に在る事を意味していて。


「馬鹿なッ……!! そんな事ッ……できる訳がッ……!!」

「できるからこそ、こうしてこいつらがある訳だけど? ありとあらゆる苦痛を与えて身体を苛め抜き、ありとあらゆる絶望を与えて心を苛み、ありとあらゆる恥辱を与えて尊厳を壊しただけさ。こいつ等を仕上げる時は最高だったよ。そいつが一番大事にしているモノ……、たとえば、家族、恋人、子供とかを、自分で殺させるんだッ!!」


 想像を絶する悍ましい現実を前に、テミスは目を見開き、声を張り上げて反論をする。

 ヒトの自我というものは存外に頑丈だ。それを人為的に狙った通りに壊すような真似など、まさしく人の序業ではない。

 そんな戦慄に身を震わせるテミスに、『先生』は変わらない調子で誇らし気に、加えて酷く愉し気な思い出に浸るように、聞くも悍ましい所業を語ってみせたのだった。

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