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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2137話 振り切れた怒り

 この男が本当に『先生』であると言うのならば、こいつをここで斬り捨ててしまえばネルードは傾く。

 たとえ現状のネルードを存続させる勢力が居たとしても、現状の支配者であるこの男を排せば、アイシュ達も動きやすくなるはずだ。

 少なくとも、ロンヴァルディアとの戦争を続けようなどと考えている暇もない程には、この国を滅茶苦茶に掻き回せてくれる事だろう。


「オオォォォッ……!!!」


 ならばこの好機、逃してなるものかッ!!

 戦う力もろくに持たない男が、傲慢にもノコノコと戦場へ歩み出てきたのだ。

 これ以上の好機は他に無いッ!!

 そう判断したが故に。テミスは傷付いた腕を無理矢理動かして両手で大剣を掴むと、全力で地面を蹴って『先生』に斬りかかった。

 消耗こそしているものの、並の兵士では姿すら捉える事の叶わない神速の攻撃。

 テミスが見据える先に居る『先生』は、未だに下卑た微笑みを浮かべたままで、自分が攻撃を仕掛けられている事すら知覚していない。

 ……だが。


「なッ……!!?」


 轟然と振るったテミスの一撃が、『先生』の首を両断しかけた刹那。

 ガシィィィィンッ……!! と。酷く固い感覚が大剣を通じてテミスの手に伝わってくる。

 驚きに見開いたテミスの目に飛び込んできたのは、己が振り下ろした漆黒の刃を押し留める、宙に浮かんだ黒く薄いガラスのような結晶で。

 斬撃を阻んだ結晶はテミスが今なお金剛力を以て押し込み続けている刃を、バヂバヂと不気味な音を奏でながら受け切っており、このままでは反撃を喰らうと直感したテミスは、即座に奇襲を中止して背後へ跳び下がった。


「チッ……!! 野蛮人はこれだから厭だね……。馬鹿じゃないのか? オ・マ・エ・はッ……さぁッ!! この僕がッ!! 何の対策もせずに、お前達の前に出てくるわけがないだろッ!! ブァァァァァァカが……よぉぉぉッ!!」

「…………」


 テミスが退いた後。

 自身が斬りかかられた事に気付いた『先生』は、厭味ったらしく舌打ちをした後で、目を剥いてテミスを睨み付けて声を荒げた。

 罵倒と挑発に塗れた『先生』の言葉に、テミスは言葉こそ返す事は無かったものの、鋭く睨み付ける瞳に灯った殺気の光が、額にビキリと浮き出た青筋が、その身を焦がす怒りを表していた。


「よく居るんだよねぇ……お前みたいな馬ァ鹿がさァッ!! お前達みたいな、アタマにまで筋肉が詰まってるような奴が考える事くらい、僕が想定していない訳が無いだルォォぉぉ……!!? ……身を守る術ぐらい用意してるっての。ざぁんねぇんだったなァ……?」

「……この男、直接話している訳ではないですが、酷く癇に障ります」

「大丈夫。普通だよ。ボクも聞いているだけでムカムカしてきたから……!!」

「クス……」


 テミスに指を突き付け、大袈裟に胸を張り、嘲りと侮蔑を山のように盛り合わせたような『先生』の言葉に、傍らで武器を構えたまま警戒態勢を取っていたシズクとユウキが、声と共に眉を潜めて言葉を交わす。

 だが、そんな二人の声を聞きながら、テミスは余裕をも伺わせる笑みすら浮かべていて。

 けれど、その身から溢れ出る静謐な怒りを肌で感じているユウキとシズクは、僅かに顔を見合わせて再び緊張した面持ちで視線を戻した。


「なぁに笑ってんだよおォッ!! 負け惜しみかァッ!! 強がって笑うことしかできなくて哀れだなぁ……!! 僕には全部わかってんだよ間抜けェッ!!」

「フッ……!! クク……なるほどと思ってな。己が身を守る壁があるから、何処へ行こうと何をしようと安心だという訳だ」

「ハッハァッ……!! 出た出たッ!! 冷静ぶって分析してるふりなんかしてるんじゃねぇ――ッ!!!」


 口元に失笑を浮かべて低い声で言葉を紡ぐテミスに、『先生』は更に語気を強めて煽り立てる。

 しかし皆まで言い切るよりも前に、再び前へと踏み出したテミスが黒刃を振るい、ガインッ! と再び阻まれた刃が固い音を立てた。


「……わっかんねぇかなぁ? ムダだってのがさぁ。お前、その剣で鋼の塊とか斬れるワケ? できないだろ? 馬鹿に理解しろとは言わないからさ……せめて僕の話の邪魔だけはしないでくれる?」

「フム。親切に教えてくれて有難う(・・・)。耐久限界はあるだろうとは睨んでいたが、なんだその程度で良いのか」

「ハァ……? 何を訳が分からない……こと……を……」


 自信満々に言い切った『先生』の言葉に、テミスは更に斬り込もうとしていた足をピタリと止めると、片手で携えた大剣を高々と持ち上げて力を籠め始める。

 その構えが、月光斬の溜め(・・)であることを瞬時に察したシズクが、ユウキの肩を引いて一歩後ろへと退いた。

 直後。白く輝き始めた漆黒の大剣の刀身を見上げ、罵詈雑言を垂れ流し続けていた『先生』の罵倒が尻切れに止まる。


「消し飛べ。下郎」


 そんな『先生』の目が大きく見開かれるのを見据えた後、テミスは唇を皮肉気に吊り上げながら一言だけ言い放つと、白く光り輝く月光斬の刃を撃ち放ったのだった。

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