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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2128話 不死身の秘密

 空を仰いで伸び切った首に吸い込まれる刀の刃。

 ぶしりと鮮血が迸り、テミスは振り抜いた拳を引き戻しながら、胸の内で勝利を確信する。

 しかし……。


「そんなッ……!!?」

「ッ……!?」


 直後に響いたシズクの悲痛な悲鳴に、テミスは目を見張って驚愕すると、眼前に仁王立つエツルドの姿を仰ぎ見た。

 その樹木のように太い首には、確かにシズクの刀の刃が埋まり、今もなお真っ赤な鮮血が噴き出している。

 だが、首筋に食い込んだ刃は中程で止まっており、首を刎ねるには至っていなかった。


「ゴブッ……! グフフッ……! ゴカカカカカカッ……!!!」

「ひぃっ……!!」

「チィッ……!!」


 中程まで首を断たれたエツルドは、ごぼごぼと口から血の泡を吐き出しながら、不気味な高笑いをあげる。

 ギルファーでの厳しい戦いを潜り抜けたシズクでさえ、その悍ましい光景には恐怖を隠しきる事ができず、ビクリと身を竦ませながら刀から手を離して飛び退いた。

 同時に、危機を察したテミスも即座に後方へと飛び退き、天を仰いで血を流しながら笑い続けるエツルドを睨み付ける。


「ガガガガッ……!! げぶァッ……!! 命を絶たれたのは、いつぶりの事だろうなァ……!」

「……命を、絶っただと?」

「カカッ……!! 何が何だかわからねぇって顔だなぁ……!! ブッ……!!」


 喋りづれぇッ! と、血の塊と共に言葉を吐き捨ててから、エツルドは首に突き立つシズクの刀を抜き捨て、ニタリと血塗れの笑顔を浮かべてテミスを見据えた。

 しかし、その間もエツルドの傷が癒える事は無く、刀を抜き捨てた所為で露になった傷口から、ぶしりと再び血潮が勢い良く飛沫をあげる。


「あぁ……テメェ等の攻撃は間違いなく致命傷だ。腹や脚は兎も角、首のコイツは間違いねぇ……。だがッ……!!」


 ビシャビシャと噴き出す血潮を周囲へ撒き散らしながら、大きく胸を張ったエツルドは朗々と叫び言葉を続けた。


「俺の内には……これまで喰った連中の命が在るッ!! 喰えばッ! 喰っただけッ! 命は俺様の血肉となり、命を増やせるのさッ!!」

「そんなっ……!!」

「ズルいッ……!!」

「…………」

「ハァァッ……ズルくなんざねぇよ……!! 言ったはずだぜ? 俺様は強者! 弱えぇテメェ等は食いモンだってなァッ……!!」


 だくだくと、エツルドはとっくに失血死に達していても不思議ではない量の血を流しながらも、未だに倒れる事無く、高笑いをあげて咆哮する。

 そこにあったのはエツルド自身の言葉の通り、自らこそが他者を喰らう強者であるという、揺らぐ事の無い自負だった。


「フッ……ククッ……!! ハハハハッ……!!」

「……何がおかしい? 絶望で壊れたか……?」


 不死身にして無敵。

 傲岸不遜たる態度を以てそれを示すエツルドを前に、テミスは腹を抱えて高笑いを始める。

 テミスの手にはもはや剣すらなく、状況は絶望的と言って等しい。

 故に。エツルドを挟んで反対側で立ち尽くすシズクたちの胸中にも、遂にテミスが壊れてしまったのではないかという不安がよぎる。


「いいや? ククッ……豪語する割には品が無いのだと思ってな。裂いた腹の内を垂れ流して誇る姿は、随分と滑稽に見えるぞ?」

「ほぉ……?」

「先ほどから見ていたが、確かに死にこそしないものの、傷が塞がる様子もない。こうして血を流している今も、お前の命……いいや、力は失われている。違うか?」

「そうかっ……!! で……でもッ……!!」


 不敵な微笑みを浮かべながら告げたテミスの言葉に、一縷の希望を見出したのだろう。

 息を呑んだユウキが表情を輝かせて顔をあげるが、すぐに自らの手に武器が無いという現実を目の当たりにし、悲し気に目を細める。


「だとしても……だ。もうテメェ等は戦えねぇ。それとも、またさっきみてぇに殴りかかってくるか? あぁ?」

「……そうだな」


 ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべたエツルドの言葉に、テミスは一転して静かな声で答えを返した。

 事実。

 今もなお、テミスの大剣とユウキの剣は、エツルドの脚と腹に咥え込まれており、最後の望みであったシズクの刀も、今やエツルドの足元に打ち棄てられている。

 万策は既に尽きている。

 その事実があったからこそ、エツルドは自身の力が着々と失われゆくにも関わらず、テミスたちを弄んでいたのだ。

 だが……。


「エツルド様ァッ……!! 只今助太刀に……ヒィィッ!!?」

「……剣なら、今届いた」

「っ……!!!」

「ぎゃっ……!!」

「がっ……!!」

「げぇッ……!!」


 テミスたちとエツルドの戦いの音を聞いて駆け付けた警備の兵たちは、血みどろで仁王立つエツルドの異様な姿を見止めるや否や、悲鳴をあげてビクリと身を凍らせる。

 その隙を突いて、ニヤリと皮肉気な微笑みを浮かべたテミスは囁きを残すと、一瞬で集まってきた兵達の三人を打ち倒し、腰に携えていた剣を奪い取った。


「そら……時間稼ぎの甲斐があったな。さっさとこの肉ダルマを片付けるぞッ!!」


 そして、テミスは奪い取った剣を一振りずつ放り投げてユウキとシズクの間近の地面へ突き立てた後、手の内に残った一振りの剣の切っ先をエツルドへ突き付けて、不敵な微笑みで号令を発したのだった。

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