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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2124話 底見えぬ強さ

 獲ったッ!!

 エツルドの剣を受け続けるテミスの心と、背後から奇襲を仕掛けたユウキとシズクの心が重なる。

 背後二方向からの奇襲で後方への逃げ道は無い。だが左右に躱した所で、鍔迫り合いから解き放たれたテミスの刃が追い縋るだろう。

 もはやエツルドに刃を躱す術は無く、選ぶ事ができるのはせいぜい、誰の一撃を受けるか程度の事だ。

 だが……。


「カカッ……!!」

「っ……!!?」


 ぎしり。と。

 テミスは突如として響いた音と共に、自身が受けている剣への圧力が一気に増したのを感じ、歯を食いしばって更に抗う力を籠める。

 けれど、着実に押し込まれるエツルドの刃が止まる事は無く、刃は遂にぷつりとテミスの首筋の皮を食い破り、一筋の血が伝った。


「ぐくッ……!! クソッ……!!!」


 あと僅かでも圧し込まれれば、首の脈を切り裂かれるッ!!

 そう直感したテミスは歯ぎしりと共に吐き捨てると、真っ向から圧し合っていた大剣を傾けてエツルドの剣をいなし、鍔迫り合いを解いた。


「……気を付けろッ!」


 たとえ背後から襲い掛かろうとも、剣が自由になっていれば反撃を食らう可能性が出てくる。

 故に。テミスは自身が体勢を崩しながらも叫びをあげ、エツルドの背後に肉薄している二人へ警告を発したのだが……。


「大丈夫ッ!!」


 直後。

 自身に満ちたユウキの朗らかな声と共に、高々と振りかざされた剣の刀身が赤く輝き、鋭い剣閃と化して振り下ろされる。


「届くッ……!!」


 ユウキの声と同時に、シズクは気合の籠った声をあげて応え、八艘の形に構えた刀で袈裟懸けの一撃を放った。

 二人の攻撃は余人のそれとは比べるまでも無く鋭く、背後からの同時攻撃である事も加えれば、どう足掻いた所で躱す事も、受ける事も叶わない必殺の攻撃だった。

 だが……。


「フゥンッ……!! ハァァァッッ!!」

「えぇっ……!!? わぁぁっ……!!」

「なッ……!? くぅッ……!!」


 野太い気合の声を発したエツルドは、背後で振り下ろされるユウキ達の剣閃よりも迅くその巨体を翻すと、力任せに振り回した剣で己が後方を薙いだ。

 異様な素早さを見せたエツルドの放った一撃は、必殺の間合いにあった筈のユウキの斬撃を弾き飛ばし、続いてそのままシズクの胴へと向かう。

 この想定外の一撃に対して、シズクは咄嗟に防御に転ずると、放たれた斬撃を流麗な剣技を以て受け流した。

 だが、渾身の一撃を弾かれたユウキはそのまま空中で体勢を崩しており、即応できる市井では無かった。


「ヌゥアアアアアアッッ!!!」

「――っ!」

「ッ――!!! あぐッ……!!」


 そこへ、咆哮をあげたエツルドは剣を振り抜いた際に空いた右手で固く拳を握り締め、巨拳をユウキへと叩き込んだ。

 空中で姿勢を崩していたユウキにこの一撃を躱す術は無く。

 辛うじて剣を盾代わりに受けたものの、肉を打つ音を奏でながら吹き飛ばされた。


「…………。クク……やるじゃあねえか」

「…………」


 吹き飛ばされたユウキが地面を転がって数瞬。

 拳を放った姿勢のまま硬直していたエツルドは、ギロリと瞳を動かしてシズクを見据えると、ニヤリと口角を吊り上げて口を開いた。

 その腕には、小さいながらも一筋の刀傷が付けられており、滲んだ血の雫がポタリと丸太の如き巨椀から滴り落ちる。


「あの一瞬で、俺の腕を狙って斬りかかったな? お陰でソイツを仕留め損なった」

「ぐっ……うぅ……っ……!!」


 エツルドは身体を震わせて立ち上がるユウキを、拳から突き出した親指で指しながらシズクに語り掛けた。

 だが、既にシズクはユウキの傍らまで退いており、油断なく刀を構えてエツルドを睨み付けたまま、言葉を返す事は無かった。


「クク……。あぁ……勿体ねぇ……!! 本当に……このまま喰っちまうには勿体ねえ連中だッ……!」

「ハッ……! 事ここに及んでまだ言うか。本当に気色の悪い奴めッ!! 手始めにそれ以上盛りがついて恥を晒さんように、一思いに去勢してやろう」

「ゴホッ……!! 気を付けてッ……! こいつ……本当に強いッ……!!」


 エツルドの背後を取る形となったテミスは、二人が応じている隙に体勢を立て直し、突撃の構えを取って皮肉を口にする。

 役割分担は変わったが、前後を挟んでいるこちらが圧倒的に優勢なのは間違いない。

 そう考えて攻撃に転じかけたテミスの足を、ユウキの警告が押し留めた。


「フハハハハッ!! 強えぇ奴が弱えぇ奴を好き放題するのは当然の事だろォが! だが勘違いしてくれるな? 俺が喰うっつったのは、こういう意味だァッ!!」

「――ッ!! 全員ッ!! 躱せッ!!」


 そんなテミスの言葉に、エツルドは高笑いをあげながら逆手に持った剣を振り上げると、叫びと共に一気に地面へと突き立てる。

 瞬間。

 危機を直感したテミスはユウキたちに鋭く警告を叫ぶと、自身もその場から一歩跳び退がったのだった。

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