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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2120話 いざ中枢へ

 生垣の中で意識を失ったゾルゲスを、テミスは足で軽く小突いて確かめてから、呆れた表情を浮かべて小さくため息を零す。

 まさか、敵の中枢を守護する兵士の中に、生垣の中で寝転んでサボっている者が居るなどとは、予想だにしていなかった。


「はぁ……やれやれ……。何だったんだ、コイツは……」

「名前、たしかゾルゲスとか言ってたよね? このおじさん」

「えぇ。ここを守る兵はそこそこの階級に就いているはずですが……。むむ……残念ながらこの男、大したものを持たされてはいませんね。鍵の一つでも持っていればと思ったのですが……」

「ククッ……!! 警備にも立たず、こんな所で仕事を放棄している奴が、そんなものを持たされているわけがないだろう」

「……ですね」


 言葉を交わしながら、シズクは手早くゾルゲスの身体を検めた後、溜息と共に立ち上がると足元のゾルゲスを蔑んだ眼で見下ろす。

 その冷ややかな表情に、テミスは喉を鳴らして笑い声を漏らすと、再びため息を吐いたシズクが、意識を失ったゾルゲスの上着を脱がせ、猿轡代わりに噛ませて拘束を施した。

 これならば、仮にこの男が意識を取り戻したとしても、すぐ報告に走る事はできないだろう。

 更に言うのなら、本人がここに隠れ潜んでいたため、暫くの間姿が消えていてもテミス達の侵入がすぐに露見する事は無い筈だ。


「惜しかったな。あと少し怠惰でなければ、英雄だったものを」

「ボクたちとしては、有難いけれどねっ!」

「配置を無視した動きの読めない兵……。こうして見ると、敵としても味方としても厄介ですね」

「あぁ……全くだ……」


 足元のゾルゲスに完全に興味を失ったテミスは、周囲を探るために薄闇の中を目を凝らすと、正門付近には武装した兵達がうろついていつのが見えた。

 テミス達の戦力であれば、正面突破できない数ではなかったが、場所が場所だけになるべく露見を抑えたいため、やはり搦め手を用いたのは正解だったと言えるだろう。


「後は肝心のこの建物に、どうやって潜入するかだが……」


 そう呟きながら、テミスは屋敷の外壁にぺたりと触れると、視線を動かして建物を検める。

 今のところ目に見える侵入経路は、正面玄関の一つだけ。

 後は嵌め殺しの大きな窓がいくつかあるものの、叩き割って侵入してはここまで潜入した意味が消失するし、かといって人が通れるほどの穴を開けるには時間がかかり過ぎる。


「裏に回りましょう。これ程の屋敷です。何処かに必ず、使用人たちが利用する通用口がある筈です」

「わかった。シズク。先導は任せる。私は殿を受け持つ」

「了解です」

「了解っ!」


 自身の言葉を受けたシズクが意見を口にすると、テミスはコクリと頷いて淡々と指示を出した。

 あまりに衝撃的な出来事だったため、期せずしてこの場に立ち止まってしまったが、ここはまだ敵の拠点の庭先。最も警備が固く、最も危険な場所であるともいえる。

 指示に即応したシズクが颯爽と動き出すと、きょろきょろと周囲を見回していたユウキも即座にそれに続き、最後にテミスが後を追った。

 屋敷を守る塀と屋敷の外壁の間の細い道は、その殆どが手入れのされていないらしい生垣に占領されて酷く歩き辛い。

 この調子では、万に一つ通用口を見付けたとしても今は使われておらず、侵入経路としての役を果たせないのではないか?

 そんな一抹の不安が、テミスの胸中を過った時だった。


「っ……! ありました! 通用口です!」


 前を行くシズクが静かに声をあげると、屋敷の外壁に設えられた一枚の扉の前で立ち止まる。

 通用口といえども、その扉は見るからに重厚な造りをしていて。

 その上テミスの危惧した通り、近頃は使用されていなかったのか、壁と一体になっているが如きその雰囲気が、更に扉の重厚感に拍車をかけていた。


「……開くのか?」

「問題ありません。この形の扉でしたら、恐らく閂はこの辺り……フッ!!」

「わっ……!?」

「ッ……!」


 最悪の場合、ぶち破るしかないか……。と。

 テミスの脳裏に腹案が浮かび始めた時の事だった。

 静かに向けられたテミスの問いに答えを返したシズクが、そのままひたりと自身の腰に提げた刀へと手を這わせると、突然鋭い吐息と共に抜き放つ。

 閃光のように放たれたシズクの斬撃は、重厚な扉と壁の隙間を正確に斬り裂き、億からキキンッ……! と微かな音が響いた。

 そして……。


「っ……!!」

「わぁ……」

「お待たせしました。さぁ……行きましょう!」


 軋む音すら出さず、滑るように開いていく扉にユウキは簡単の息を漏らし、テミスは驚きに息を呑む。

 そんなテミス達へと向けて、シズクは開く扉を躱しながら、シズクは自身に満ちた表情を浮かべると、潜めた声で力強くそう告げたのだった。

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