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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2114話 背負いし想い

 騒動の衝撃冷めやらぬ黄旗亭を足早に後にしたテミスとシズクは、互いに言葉を交わさないまま湖のほとりまで歩むと、そこで漸く速度を緩めた。

 無論。あれほどの騒動を巻き起こしたのだ。

 追手がかけられる可能性も少なくは無く、それを警戒するという意味もあった。

 だがそれよりも。前を進むシズクの胸中は、一刻も早くあの場からテミスを引き離す事でいっぱいで。

 自らへ向けられたものではなかったにも関わらず、身を刺し貫くように冷たい殺気に中てられたシズクの脚は、僅かでも気を抜けば今にもガクガクと震え出してしまいそうだった。


「ふぅっ……! どうやら、追手は居なさそうだな」

「…………」


 先を歩むシズクが歩調を緩めたのを合図に、テミスは大きく息を吐くと、背後を振り返って確かめてから口を開く。

 しかし、遂に張り詰めていた気が緩んだシズクは、テミスの言葉を返す事無く、ガクリと崩れ落ちるようにその場に膝を付いた。


「っ……!? シズク!? どうした? まさか、手傷でも負ったのか?」

「ッ~~~~!!!! どうした……? じゃ……ありませんよッ!!!」

「なっ……!!?」


 咄嗟にシズクの傍らに駆け寄って無事を確かめるテミスに、シズクはぶるぶると全身を震わせた後で、弾けるように怒号をあげる。

 その悲痛な叫び声は、テミスとしても予想外の事で。

 テミスは驚きに息を詰まらせると、目を見開いて間近のシズクと視線を合わせた。

 瞬間。


「ゥッ……!?」

「あの時……!! 私がッ!! 止めなければッ!! 抜いていましたよねッ!?」


 ゆらりと伸びたシズクの両腕がテミスの頭を抱えるようにとらえると、目尻に一杯の涙を溜めたシズクが絶叫する。


「気持ちはわかりますッ!! ですがッ!! どうか……ッ!! お願いですから、時と場合を考えて下さいッ!!」

「むぐっ……! むぐぐっ……!?」

「あのような、塵芥の如き輩であっても、この国の住人である事に変わりはありません!! あそこで斬って捨ててしまえば……面倒は免れませんッ!!!」

「わかっ……わかったから……!! 離ッ……!!」

「大事と小事を違わないで下さいッ!! その調子では、フリーディアさんの事を言えませんよッ!!」


 両腕で捉えたテミスの頭をがっちりと掴んだまま、シズクは心の逸るままにガクガクと揺さぶりながら、思いの丈をぶちまけた。

 あの瞬間。テミスが怒りに駆られ、見物人たちを一掃せんとしていたのはシズクも理解している。

 けれど……だからこそ。

 無謀に無謀を重ねるテミスに、心からの不安と心配を迸らせた。

 だが……。


「くっ……!? ふぅっ……!! 流石にそれは聞き捨てならんぞ。私はあいつとはまるで違う!!」


 やっとの思いでシズクの腕から脱出したテミスは、眉を顰めてシズクに視線を向けると、きっぱりと反論を口にした。

 確かにシズクの言っている事は正しい。

 あそこで剣を抜いて暴れれば、本来の作戦を阻害してしまったのは間違いないだろう。

 その点についてはテミスも反論の余地は無く、怒りに呑まれた自身の甘さを痛感している。

 しかし……。

 何もかもをのべつまくなしに救いたがる、あの大馬鹿と同じにされては堪ったものではない。

 そう気炎をあげたのだが……。


「同じですよ! 私から見れば、お二人とも!! 救いを求める誰かに際限なく手を差し伸べる彼女も……他者を虐げる悪人と見れば後先考えずに突っ込んでいく貴女もッ!!」

「ッ……!!!」

「……悔しいですが、私の力では隣に立って肩を並べる事は叶いません。けれどわかりますッ!! もう十分に無茶をしているじゃないですかッ……!! これ以上抱えたら……また……壊れちゃいますよぉ……!!」


 再び叫びをあげたシズクの気迫に気圧されたテミスが、ビクリと上体を反らすと、それを追ってシズクは言葉を重ねながら身を乗り出した。

 けれど。

 伸びた腕が再びテミスの頭を捕らえる事はなく、代わりに縋り付くかのように胸元を掴み、嗚咽をあげながらボロボロと涙を零し始める。


「もう二度と……あんな思いは厭です!! 死体みたいに真っ白な顔で眠る……テミスさんを見るのは……ッ……!!」

「…………」


 どうやら以前の魔王城での一件は、シズクの心に深いトラウマを刻んでしまっていたらしい。

 テミスの心がそう冷静に断ずる傍らで、涙ながらに訴えるシズクの言葉からは、確かに温かな重みが感じられて。

 シズクの悲痛な叫びに何も返す言葉を持たないテミスは、ゆっくりと腕を持ち上げると、自身の胸元に顔を埋めて泣きじゃくるシズクの頭を優しく撫でた。


「……悪かった。心配をかけてしまった」


 そんなシズクにテミスは、柔らかな口調で……しかし噛み締めるように告げたのだった。


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