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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2110話 正義の威を借る者

「お待たせしました! さぁ……食べましょうッ!!」

「あぁ。頂こう」


 両手に山盛りの料理が盛り付けられた器を携えたシズクが席へと戻ると、テミスたちは手早く食事を始めた。

 この黄旗亭は、その外観に似合わず食事の味は大変美味なのだが、今のテミス達にそれをゆっくりと味わって居る余裕は無く、手早く口へ放り込んで片付けていく。

 大皿いっぱいに盛られた料理は、着実にその体積を減らし、二人の皿に残った料理が半分ほどになった時の事だった。


「オイ。テメェら」

「……!」

「…………」


 背後から歩み寄った二人組の男がドスの利いた声を投げつけ、ピクリと眉を跳ねさせたシズクがピタリと食事の手を止める。

 だが、テミスはまるで言葉が耳に入ってすらいないかのように食事の手を止める事は無く、それを見咎めた男たちの額にビキリと青筋が浮いた。


「テメェッ!! 無視決め込んで飯食ってンじゃあねぇぞッ!!」

「…………」

「チィッ……!! 舐めやがって……!!」

「待て。……抜けばこちらも応じなければなりません。そもそも、食事中に不躾に怒鳴りつけてきたのはそちらのはず」


 血走った目を剥いた男たちが言葉を重ねて尚、テミスは変わらず食事の手を止める事は無く、怒りに駆られた男たちが、腰の剣へと手を閃かせかけた瞬間。

 皿をテーブルの上へと置いたシズクが制止の声をあげ、ガタリと椅子から立ち上がる。


「あぁ……? ンだぁ……? ヤるってのか? 俺達と……」

「貴方がここで抜けば、そうなります」

「コイツッ……!! スかした態度しやがって……!!」

「ッ……」


 男たちは眼前に立ちはだかったシズクを睨み付けると、低く唸るような声で威圧をする。

 しかし、シズクは臆する事無く凛と言葉を返し、重ねられた男の怒声にキチリと外套の下で刀の鯉口を切った。


「お前等ァ!! 揉め事なら表でやれェッ!!」


 ピリリ……! と。

 シズクが緊張感を纏い始めた時。

 騒ぎに気付いた店主の怒号が響き、騒がしかった店内が一気に静まり返る。


「……だとよ。テメェ等ちっとツラぁ貸せや」

「お断りします。食事中ですので」

「断れると思ってンのかッ!!」

「思っています。食事中の席に怒鳴り込んだ挙句、用件も告げずに外の出ろ? 冗談ではありません」

「テメェッ……!!!」

「…………」


 店主の怒りを受けて尚、男たちは傲慢な態度を続けるが、シズクも毅然とした態度でそれに応じ、それが更に男たちの悋気に日を注いだ。

 再び一触触発の空気が漂いはじめ、既にシズクの両の手は腰の刀に番えられていた。


「クククッ……!! まぁ待て。俺達はお前達の為を思って、場所を変えようって言ってンだ」

「言うに事欠いて私達の為? 笑わせないで下さい」

「まぁそう言うな。俺達はただ、お前たちが何者かってのが知りてぇだけなんだ」

「私たちが何者であろうと、あなた達には関係無い筈ですが?」

「そうでもねぇさ。例えば……お前が俺達が一生懸命に探し回っている賞金首ちゃんだったりなぁ……?」

「わかったら、とっとと被りモン除けてツラぁ見せてみろッ! それとも、できねぇかッ!?」


 酒場に居合わせた人々の注目が集まる中。

 男たちは、淡々とした調子で反論を並べるシズクに、荒々しい言葉を叩き付ける。

 尤も、如何に理由を並べ立てた所で、チンピラ紛いの賞金稼ぎ如きが、行きずりの他人の外套を剥ぐ権限など有しているはずも無いのだが……。


「……一応確認です。貴方たちは随分とご自身の洞察力に自信があるようですが、こんな騒ぎまで起こしておいて、私たちに擦り付けた疑念が外れていた場合……当然、責任を取る覚悟はあるのでしょうね?」

「あぁ? 責任だと!? 俺達はこのネルードが探し回っている大罪人を見付ける為に、こうして動いているんだ!! つまり! 俺達は正義! 協力しねぇヤツが悪人って事だ!!」

「はぁ……呆れた短絡さですね。勘違いしないで下さい。それが許されるのはせいぜい治安維持軍だけです」

「うるせェッ!! ガタガタ御託は要らねぇから、さっさと脱ぎやがれェッ!!」


 怒鳴ろうとも喚こうとも決して揺らがないシズクに、男の片割れが遂に我慢の限界を超えたらしく、怒号と共にシズクに襲い掛かり、頭を覆っていた外套のフードを取り払う。

 しかし、シズクがそれに抵抗する素振りを見せる事は無く。

 乱暴に払い除けられた外套のフードがバサリと音を立てると同時に、シズクの顔が衆目に晒された。


「なぁッ……!? 獣人族ッ……!? なんでこんな所にッ……!!」


 露になったシズクの顔を見て、男たちは驚愕の声をあげると、蔑むような視線を向ける。

 同時に、騒動を見守っていた者たちの間からも動揺の声が漏れ、酒場の中の意識が一気にシズクへと集中した。


「何故って……決まっているでしょう。私たちもここに居る理由は貴方たちと同じ。こうして外套を被っていた理由は……今の貴方たちの態度が答えです」

「同業……だとッ……!? チッ……!! だったらそんな紛らわしい格好してンじゃねぇよッ!!」


 静かに気迫を滾らせたシズクが、因縁を付けてきた男たちを睨み付けて一喝すると、男たちは捨て台詞を吐きながらクルリと身を翻す。

 だが……。


「待てッ!! これだけの事をしでかしておいて……あれだけの啖呵を切っておいて逃げるのか!?」


 そんな男たちの背中に、怒気の籠ったシズクの叫びが叩き付けられたのだった。

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