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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2109話 不要な真実

 レオンたちのと密会を終えた後、テミスとシズクは足早にネルードの中心街を抜けると、拠点へ戻る前に黄旗亭へと立ち寄っていた。

 外は既に夜の帳が降り、ギラギラと煌びやかな光を放つ中心街の外は、穏やかな静けさが揺蕩っている。


「何か……お話ですか?」

「ん……? まぁな。だが、その前に腹ごしらえだ。今から戻ったとて、食事は無いだろうからな」

「あはは……ですね……。では、注文は私が通してきます」

「頼む」


 端の席を選んで腰を下ろしたテミスとシズクは一息を吐いてから、シズクが再び席を立ってまとめた注文を告げに行く。

 その背中を見送りながら、テミスはさり気なく人で賑わう店内へと視線を向けると、静かに外套のフードを被り直した。

 時間がちょうど夕食時な事もあってか、黄旗亭は多くの客が出された料理に舌鼓を打っている。

 しかし、普段の黄旗亭とは異なり、水夫である事を窺わせる男や、荷役を担っているらしき男達の中に混じって、傍らに武具を携えた流れ者らしき連中も混じっていた。


「……そろそろ限界だな」


 察するに彼等こそ、ネルードが公表した賞金を求めて集まってきた賞金稼ぎの一部なのだろう。

 その手の連中が、こんな郊外の不便な飯屋にまで姿を現すようになったという事は、いよいよネルード中心街に店を構える、彼ら向けの庶民志向な飯屋が増える客に対応しきれなくなったのだと思われる。

 テミス達を捜索する者が増えれば増えるだけ、その捜索範囲も精度も上昇し、隠れ果せるのも難しくなるはずだ。

 この分では潜伏しているだけでももって数日。

 情報収集の為に外を出歩く危険性を鑑みれば、既に限界を迎えていると言っても過言ではない。


「……テミスさん」

「わかっている。意識は向けなければならんが気取られるな」

「わかりました。いざという時は……私が」

「駄目だ。この土壇場でお前という戦力を失う訳にはいかん」

「ふふっ……ありがとうございます。でも、大丈夫です。ひと芝居を打つだけですから」


 注文を通し終えて戻ったシズクは、異変に気が付いたらしく声を潜めてテミスへ視線を向ける。

 だが、テミスが皆まで言わせる事は無く、淡々とした言葉を返すと、シズクは嬉しそうに目を細めて笑顔を覗かせた。


「……好きにしろ」

「はいっ! お任せください」


 視線を逸らして呟くように引き下がったテミスに、シズクはにっこりと笑顔を浮かべて頷くと、受け取ってきたらしい二つのジョッキのうちの片方に口をつけ、冷えた水で喉を潤す。

 そして。


「食事の前に、お話をお伺いしても構いませんか?」

「ン……そうだな。大した話ではないのだが……」


 ジョッキを置いて本題へと斬り込んだシズクに、テミスはジョッキへと伸ばした手をピタリと止めて前置きを語ってから、間を置く代わりにジョッキを口へと運ぶ。


「あいつらの……レオンたちの任務の事を、他の連中には明かすなというだけだ」

「っ……!! 理由を、お聞きしても?」

「奴等は仲間ではあるが、私の旗下では無いからな。ユウキは騎士団預かりの身だし、リコはそもそもフリーディアの旗下。ノルに至っては、ユナリアスの旗下だ。奴等が知るところになれば、どう足掻いても情報の漏洩は避けられない」

「なら……私は……!」

「フッ……お前は私へ預けられた援軍だろう? それに、ギルファーとは縁を結んでいると認識している。ヤタロウの奴が知った所で、せいぜい自国へ引き抜く算段を建てる程度だろうさ」

「っ……!! なるほど……」


 ぶっきらぼうに告げたテミスに、シズクは喜色を浮かべて花が綻ぶように表情を緩めると、納得したかのように頷いてみせた。

 あくまでも保険のようなものだが、レオン達の任務を他の面々に伏せるのは、事をこれ以上大きくしない為にも必要な措置だ。

 彼女たちが事実を知れば、情報は間違いなく本来の主であるフリーディアやユナリアスの知るところになる。

 そうなってしまえば、たとえこの戦いを収めたとしても、ロンヴァルディアとエルトニアの間に新たな確執を生むだけだ。

 最悪を想定するのならば、先手を打ったロンヴァルディアが、レオン達を排すべくファントヘ刺客を向けてくる可能性だってある。

 だが、今回の密会で少なくとも、今のレオン達に白翼騎士団を害する意思が無い事はわかった。

 ならば、たとえ真実と言えども、場をかき乱すような情報は秘しておくに限るだろう。


「でしたら、彼等の事は協力者……とだけ。私も知らぬ存ぜぬで通します」

「面倒をかける」

「いえ。とんでもありません。ちょうどできたみたいですね。受け取ってきます!」


 そうして、テミスとシズクの話がちょうど落ち着いた時だった。

 カウンターの方から、店主がシズクの通した注文ができたことを告げる声が響くと、シズクはにこやかな笑顔を残して席を立ったのだった。

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