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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2108話 夕暮れの密会

 濃い橙色の夕陽が照らし出す中で、テミスとレオンは静かに向かい合う。

 互いの瞳に敵意は無く、これから戦いを始めようという素振りも無い。

 だが、テミスもレオンも纏った静やかな緊張感は、とても仲間に向けるものでは無くて。

 見守るシズクは知らずの内にごくりと生唾を呑み下す。


「それはこちらの台詞だ。レオン。どうやら、ネルード兵の練度を見直さねばならんらしい。全く……厭になる……」


 レオンの言葉に応じたテミスは、酷く気怠そうに脱力しながら溜息を吐き、ゆっくりと首を横に振る。

 元より、テミスはただレオンに場所を告げられただけで、時間を定めて待ち合わせをしていた訳ではない。

 殺し合いではないとはいえ、手の抜けない剣戟の最中では詳しいすり合わせなどできる筈もなく、これが精一杯だったのだ。

 だからこそ。今のレオンたちは敵でこそないが、完全にテミス達の……ひいてはロンヴァルディアの味方であるという保証は無い。


「ただの……偶然だ」

「うん……?」

「僕たちが騒ぎを聞きつけたのは偶然なんです。あ~……貴女たちに全滅させられた部隊の後始末とか、報告という名の尋問から逃げていたら、たまたま……ね?」

「クク……なるほど。生存者の数は?」

「……5人だ」

「ほぉ……! 存外多いな?」

「っ……!! も、申し訳ありません!! 開戦直後は些か攻めあぐねまして……ですが決して、手心を加えた訳ではありません!!」


 言葉少なに語ったレオンを補足するかのように、傍らから一歩進み出たミコトが朗らかな声で詳細を語る。

 その後の問いにはレオンが簡潔に答えを返したが、それを聞いてテミスがシズクへと視線を向けると、シズクは慌てた様子で弁明を口にした。


「ハハッ……! お前の戦いぶりを疑ってなどいないさ。だが……ウム、確かに奴の戦い方は少し癖があるからな」


 不安気な表情を浮かべたシズクに、テミスは笑って穏やかな声で告げると、再び視線をレオンの方へと戻す。

 転生者であるユウキの戦い方は、まっとうな剣士のそれとはまるで異なる。

 故に、正当な剣術を収めているシズクには、独特のリズムや呼吸を掴み辛く、連携路取るのに苦労したのだろう。

 それを考えれば、5人の生き残りを出したとはいえ、たった三人の実働戦力で、エルトニアの部隊を壊滅させたのは大戦果といえる。


「……それで? 前置きはこの辺りで良いだろう。まずはそちらの用件を聞こう」

「っ……!」


 話に一息が付いた所で、テミスは静かな瞳で真っ直ぐとレオンを見据えると、早速とばかりに本題を切り出した。

 いくら周囲に人の気配が無いとはいえ、この場所がテミス達にとって危険である事に変わりは無く、レオン達にとっても今の状況は危険なはずだ。

 ならば、さっさと話は片付けるに限るだろう。


「俺達にロンヴァルディアやファントと敵対する意思は無い」

「それは有り難い。正直、お前達と刃を交えたくはないからな」

「だが、表だってお前達と肩を並べることはできない。今回の戦い、エルトニア本国はネルードに付く事を選んだ」

「……残念だが、仕方あるまい。本心を言うのなら、お前達の手も借りたい所ではあったのだが……」

「…………」

「……ん? どうした?」


 レオン達の姿勢を確かめたテミスは、皮肉気な微笑みを浮かべながら言葉を零す。

 しかし、レオンは珍しく歯切れの悪そうに口を閉ざすと、真正面から合わせていた目を不意と逸らした。

 当然。その異変を見逃すテミスではなく、話の先を促すべく問いかける。


「俺達にお前達と敵対する意思は無い」

「……妙に念を押すな? 何の話だ?」

「エルトニアの部隊の任務はネルードへの支援だ。だが……俺達には極秘任務が下されている」

「フムン……?」

「……白翼騎士団の討滅。最強の名を簒奪せよ……と」

「クハッ……!!!」


 やけに強く念を押すレオンに、テミスは若干の不信感を覚えたものの、直後にその疑念が晴れて笑い声をあげた。

 確かに、ファントへ密かに身を寄せているレオン達の立場からしてみれば、まさに板挟みという奴なのだろう。


「ハハハッ……!! 大層な任を押し付けられたな? それで? どうやって切り抜けるつもりなんだ?」

「……勘弁してくれ」

「ホントですよねぇ……。助けて欲しくて貴女に接触しようと探しても、何処にもいないどころか手掛かり一つ無いんですから」

「確かに……私も探すのには難儀しました……」

「悪いが、これでも一応、潜入潜伏中の身なのでな。そう簡単に尻尾を掴まれては堪らんよ」

「問題無い。ネルードも、お前達の居合所を掴めてはいない」

「そうかい。それは何よりな話だ」

「あぁ……そこでだ。ミコト」

「はいはい。そういう訳でして、ここは一つ、取引といきませんか?」

「フッ……聞こう」


 恐らくは、挨拶代わりのつもりなのだろう。

 レオンはネルード側のテミス達の捜索状況の情報をさらりと告げると、傍らのミコトへと水を向ける。

 すると、レオンに替わってミコトがテミスの前へと進み出て、にっこりと人の良い笑顔を浮かべて口を開いた。

 そんなミコトの言葉に、テミスはクスリと不敵な微笑みを浮かべた後、揺らぐ事の無い声色で凛と告げたのだった。

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