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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2107話 敵中の只中へ

「こちらですっ! こちらの建物が、インペリアルタワーでございます」


 フィルチと名乗った男は、先陣を切ってテミス達を天高くそびえ立つ塔の元まで案内すると、言葉と共に深々と頭を下げる。


「そうか。ご苦労だった。ではな」

「ははっ……!! このメッシュ・ド・フィルチ、あなた様のお役に立てた事、生涯の誇りとさせていただきます!! また何かご用命がございましたら是非我がメッシュ家に……いえッ!! このフィルチめに是非ともッ!!」

「クス……覚えておこう」


 テミスは何処ぞの政治家が如く自らの家名や名前を繰り返すフィルチに、薄い笑みを浮かべて言葉を返すと、身を翻して案内された塔へと歩み始めた。

 その背中を、フィルチたちは再び深々と頭を下げて見送った後、踵を返して雑踏の中へと紛れていく。

 フィルチたちが立ち去って行ったのを、テミスは肩越しに僅かに振り返って確認をすると、インペリアルタワーへと向かっていた足をピタリと止める。


「わっ……!? えぇと……? あの尖塔へ向かうのではないのですか?」

「フッ……あのような場所に、真正面から入って行けるわけがないだろう。間抜けな一般市民は騙せたとしても、流石に警備の兵の目をごまかす事はできんだろうさ」

「っ……? でしたら、何の為に……あっ! 何処へッ……!?」


 シズクが皆まで言葉を紡ぎ終わる前に、テミスはバサリと外套を翻して塔の正面入り口から逸れていく。

 そこではちょうど、警備の兵らしき者達が何やら集まって言葉を交わし始めたため、テミスは事が面倒へと発展する前に即座に場を離れたのだ。


「……この辺りでいいだろう」


 正面入り口を避けて歩く事数分。

 綺麗に整えられた庭園のような場所に辿り着くと、テミスは満足気に頷いて足を止めた。


「あの……そろそろ、説明をして頂けませんか?」

「あぁ、そうだな。奴等(・・)を待つ間の暇潰し程度にはなるか」


 堪りかねたかのように問うシズクに、テミスは静かな笑みを零して告げると、ゆっくりと息を吸い込んでから言葉を紡ぎ始める。


「このインペリアルタワーに用があるのも、ここが目的地であったことも本当さ。ただ、正規に招かれた訳ではないというだけでな。全く、厄介な場所を待ち合わせに選んでくれたものだ」

「っ……!! でしたら、先ほどの方々には何を見せられたのですか? ああも態度を変えるなど……」

「なぁに……簡単な話だ。この白翼騎士団の制服を見せてやっただけだよ」

「えぇっ……!?」

「クク……そう驚くな。我々には信じがたい話ではあるが、平穏を生きる一般の民たちにとっては、敵国の軍服を一目でわかれなどという方が酷なものだ」


 つらつらと話し始めたテミスの解説に、シズクは思わず声を漏らして驚愕した。

 紛れもない敵国の中心であるこのネルードの地で、現在真っ向から戦っているロンヴァルディアが誇る白翼騎士団の制服を見せるなど、自殺行為に他ならない。

 けれど、事実として。

 テミスはそのような暴挙を行って尚、こうして戦いにすら発展する事無く目的を果たしている訳で。

 シズクは驚き覚めやらぬ思いのまま、視線をテミスへと向けて続きを促した。


「加えて今、ネルードは国外から多くの勢力を呼び込んでいる。レオン達エルトニアもその一つさ」

「だからといって……幾らなんでも……」

「あぁ。無茶だろうな。しかし、行き先がこのインペリアルタワーならば話は別。連中は多くを聞かずに信ずるしかないんだよ」

「この塔に……秘密が……?」

「秘密だなんて大層なものではないがな。このインペリアルタワーはいわば迎賓館。ネルードが他国から呼び寄せた戦力のなかでも、特別な連中の受け入れ先なんだ」

「っ……!! なるほど……!! そういう理由でしたか!!」


 そこまで解説されてはじめて、シズクは急に態度を変えたフィルチたちの漏らした言葉も重ねて、現状を理解した。

 現ネルード政府に弓引く者が現れ、情勢が不安定な中。あのように意味深に問われてしまえば、ただの一般人が他国の重鎮であると誤認してしまうのは致し方の無い話だ。

 テミスが待ち合わせている相手など、聞くまでも無く地下水道で相まみえたレオン達だろう。

 つまり、テミスは自分達がネルードが呼び寄せた他国の兵であると誤認させ、彼等にこの場所まで案内させたのだ。

 思い返してみれば、テミスと二人だけで街を闊歩していた時よりも、フィルチの先導に従って歩いている時の方が目立っていなかったように思える。


「理解したようで何よりだ。さて……そうやら待ち人が来たらしい」

「っ……!!」


 シズクの態度を見たテミスは、柔らかな微笑みを浮かべて頷いた後、視線を傍らの生垣へと向けて話を締めくくった。

 瞬間。

 シズクは半ば反射的にピクリと身を跳ねさせると、テミスの示した方向を見据えてスルリと隣へ並び立つ。


「フッ……随分と早かったな」


 そんなテミス達の前に。

 静かな声と共に、傍らにミコトを連れたレオンがゆっくりと姿を現したのだった。

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