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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2105話 地上への帰還

 レオンたちのとの戦闘の末、地下水道を脱したテミス達は素早く拠点である乾ドッグへと帰還した。

 地下水道の中を彷徨っていた時間は存外に長かったらしく、地上へ顔を出した頃には、既に日は傾いており、柔らかな橙色の光が港を照らしていた。


「ふぅぅっ……!! つっ……かれたぁぁっ……!!」


 自分達へあてがわれた船へ戻るなり、ユウキは躊躇なく腰から兼帯を外してガシャリと落とし、フラフラと寝床へ歩み寄って倒れ込む。

 テミスからしてみれば、仮拠点の内とはいえ、敵地の只中で主兵装である剣を手放すなど考え難く、静かに顔を顰めてユウキの棄てた剣を拾い上げて口を開く。


「剣を手放すなど……幾らなんでも不用心が過ぎるぞ。ユウキ」

「えぇ~……いいじゃん今くらい。ここに敵なんて居ないんだからさっ!」

「……それはどうかな?」

「っ……!?」


 シャリンッ! と。

 テミスは涼やかな音を響かせながらユウキの剣を抜刀すると、注意してなお反省の色を見せないユウキへ一足飛びに斬りかかった。

 とはいえ、抜き身の剣を向けこそするものの、テミス自身にユウキを傷付ける気は毛頭なく、放たれた斬撃にも殺気は欠片ほども込められてはいない。

 ただ、その分流麗極まる剣閃は鋭く鮮やかで。

 傍らで様子を眺めていたノルやシズクであっても、一声すら発する事ものきなかった。

 しかし、実際に刃を向けられたユウキは、流石に己へと向けられた刃を無視することはできなかったのか、ビクリと身を竦めて僅かに壁際へ向けて後ずさる。

 けれど、たかだか僅かに間合いを取った所で、テミスの剣戟から逃れる事ができる筈もなく。

 放たれた斬撃は、刃をユウキの首筋にピタリと添えて留めていた。


「ッ……!!! おぉぉ……! 綺麗な剣……」

「ハッ……!! 戯けた事を。武器を四六時中身に帯びていろとまでは言わんが、せめて自分の手の届く位置に置け」

「っ……はぁ~い。次からは、気を付けまぁす! ……しょうがないじゃん。ここの皆と居れば安全だって思ったんだもん」

「…………。はぁ……」


 ユウキが自身の首元へと添えられた刃を認識したことを確認すると、テミスはクルリと手首を返して突き付けていた刃を離し、軽い音と共に元の鞘へと納める。

 同時に、僅かに震える声で虚勢を張るユウキに、半眼で湿度の高い視線を向けながら滾々と小言を続けた。

 だが、小言と共にテミスが鞘に収めたユウキの剣を差し出すと、ユウキは唇を尖らせて不貞腐れたように返事を返しながら、再びドサリと寝床へ沈む。

 無論。寝床へ倒れ込んだ後にボソボソと零したユウキの言葉も、テミスの耳は一言一句聞き逃す事無く捉えていて。

 けれど、テミスは可愛らしいユウキの呟きにため息とともに苦笑いを零すと、それ以上追及する事なく身を翻す。


「……ですが、ユウキの気持ちもわかる気がします。こうして拠点に戻ったことを自覚すると、疲労が一気に……」

「あははぁ……。私たち、けっこう長い距離を走り回っていましたもんね」

「ですが、ここまで時間が経っているとは……。闇は感覚を狂わせると教わっていたにもかかわらず……不覚です」


 そこでは、食卓へと腰を下ろしたノルがぐったりと椅子の背もたれに身を預けており、その前の席に腰掛けたシズクが歯噛みをしていた。

 しかし、明るい笑い声と共に言葉を添えているリコは、席に腰を落ち着ける事無く、何やら道具を広げて茶の準備に勤しんでいて……。


「リコ……そう言う君は平気そうだが……」

「そりゃあ当然ですよ。私は、皆さんに守ってもらっただけで戦っていませんし!」

「それはそうなのだが……うぅむ……」

「クスッ……」


 ぐったりと椅子に身を投げ出したまま、ノルはリコの言葉に何処か釈然としない様子で口ごもる。

 その様子を眺めたテミスは、確かな得心と共に真実を胸の内へと呑み込むと、密かに微笑みを浮かべた。

 確かに戦う力こそ持たないものの、リコは白翼騎士団の一員なのだ。

 フリーディアの方針で、他の騎士同様にリコも厳しい訓練を受けているし、何より旗手という役は剣などよりも遥かに重い旗を担いで戦場を駆けまわる事になる。

 その役割を担うリコの体力が貧弱なはずも無く、むしろ余裕すら漂わせている姿には、テミスも密かに舌を巻いていた。


「よし。それではお前達はここで休息を取っていろ。私は少し出てくる。シズク。悪いが付き合ってくれるか?」

「っ……!! 了解です! 同行させていただきます」


 そんな仲間達を柔らかな微笑みと共に見回したテミスは、シズクに同行を要請しながらゆっくりとした足取りで扉へと向かった後、連れ立って再び外へと出かけて行ったのだった。

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