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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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198話 嗜虐の笑み

「はぁ……何だこれは……」


 数日後。テミスは目の前の惨状に呆れかえると、巨大な溜息と共に、鬱屈とした気持ちを体外へと押し出した。

 テミスの眼前に広がる光景……それは、元・第二軍団の兵士たちが、緊張感のない顔で自分を見上げている姿だった。


「どいつもこいつも……あの書類の内容は嘘だったと言うのか……?」

「っ……我が古巣ながら、面目次第もありません……」


 思わずテミスがそう零すと、傍らに控えていたベリスが肩を落として消え入るような声で呟いた。


「んっ……?」


 ふとテミスが視線を向けた先に、一際目を引く燃えるような赤毛の女が一人。焦点の合わない目を辺りに彷徨わせていた。


「……あれがコルカか。随分と腑抜けた顔をしているな」

「以前お見かけした時は、もっと剛毅な方だったのですが……」

「フム……」


 確かに、言われてみればそう言った面影が見れなくもない。長く伸ばした炎髪は所々が跳ね、彼女の性格の片鱗が見て取れた。

 ……ともかく、こうして前に出張った以上、ただ突っ立ている訳にもいかない。


「諸君……十三軍団へようこそ! 互いに色々と思う所はあろうが、我々は諸君を歓迎しよう!」


 壇上に立つテミスが心を決めて声を張り上げるが、その姿を見つめる元・第二軍団の面々からは、覇気の無い囁き声が漏れ出ただけで、そこに揺蕩っている雰囲気が変化する事は無かった。


「ハァ……。いい加減にイライラしてきたな……」

「テミス様……」


 表情を歪めたテミスが低い声でそう漏らすと、控えていたマグヌスが諫めるようにテミスの名を呼ぶ。


「……解っているとも」


 テミスはその言葉が孕んだ意味を理解すると、唸るようにため息を吐きながら頭の中で打開策を模索する。

 現状。こんな連中を配下に加えた所で、士気が落ちるのは火を見るよりも明らかだ。部隊としての練度も、下降の一途を辿るのは間違いないだろう。


「んっ……? 練度……?」


 テミスは自らの思考が導いた言葉に違和感を覚え、目を見開いて首を傾げる。

 そうだ。よくよく考えてみれば、新たに加入する連中は第二軍団謹製の魔術師たちなのだ。新たな分隊を創設したところで分隊同士の連携に齟齬が生じ、十三軍団の強みとも言える柔軟性が損なわれてしまうだろう。


 …………ならばいっそ……。


 どうせ失うものならば、捨て去ってしまえばいい。

 ただ注ぎ足すだけではなく、しっかりと混ぜ合わせたうえでより強力な部隊へと錬成する……。


「クハッ……」


 その天啓が如き閃きに、テミスは大きく頬を歪めて微笑んだ。


「っ……」


 その表情を視界の端で捕えたマグヌスとサキュドは、ゴクリと喉を鳴らすと胸の内で覚悟を決める。

 この軍団長がこんなに愉しそうな笑顔を浮かべているのだ。波乱が起きないはずはない……と。


「さて。そんな諸君に朗報がある」


 テミスは歪んだ笑みを満面に浮かべながら、元・第二軍団の兵士たちに声高らかに言葉を紡ぎ続ける。


「慣れない土地、新たな職場……諸君らは様々な不安を抱えているだろう」


 その言葉は、まるで一人一人に語り掛けるように親身に……そして、まるで頼れる父であるかのように雄弁に紡がれていく。


「だが、何も心配する事は無い。今日この瞬間から、諸君は我ら第十三独立遊撃軍団の一員であり、共に戦う仲間である。故に、仲間である諸君の憂いは我等の憂いであり、我等もまた……新たな同胞との出会いに胸を躍らせている」


 テミスは壇上で左右に歩き回りながら、歌うように宣言した。その宣言は、後から聞けばテミス自身でさえ頭を抱える程に支離滅裂なものだったが、今この瞬間だけ……彼女の持つ雰囲気に呑まれた兵士たちの表情を変えるには十分すぎる程の説得力を持っていた。


「そこで……だ」


 テミスは被っていた帽子のつばを指で弾くと、壮絶な笑みのまま目を見開いて兵士たちを睨み付けて宣言する。


「新生・第十三独立遊撃軍団初の大規模訓練といこうじゃぁないか。疑心も不安も全て塗り潰すほど夢中になれるとびっきりのものを用意しよう」

「げっ……」

「ウッ……」


 狂気の笑みと共にテミスがそう締めくくる後ろで、サキュドとマグヌスの心情をそのままに表した声が重なった。


 なんてことをしてくれたのだ……。


 考え方も性格も異なる二人だったが、今この瞬間だけは互いの心の内が手に取るように解った。いや……それだけではない。仮に十三軍団の兵士がこの場に居たとしたら、全ての者が同じ感想を抱き、頭を抱えただろう。


「そ・れ・に……今回は特別だ。以前十三軍団の面々に課した私特製の訓練に加えて、新生の名に相応しい新たなメニューも付け加えよう」


 そんな部下たちの心情など夢にも思わないのか、テミスの嗜虐の高笑いが軍団詰め所の中庭に響き渡ったのだった。

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