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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2103話 誇りと狂気の狭間

 幾度目かになるテミスとレオンの激突が、地下水道の空間を揺らす。

 だがその頃には、エルトニア兵達とシズク達との戦いも趨勢が決していて。

 二十名ほど居た兵士たちは、既にその数をたったの五人にまで減らしており、残った五人もシズク達の強さが骨身に染みているのか、ガクガクと全身を恐怖に震わせていた。


「っ……! な……なんっ……!! どうしてッ……!!」

「クソッ! 畜生ッ!! 死にたくねぇッ!! 死にたくねぇッ!!」

「ふざけるな……やるしかないッ……! やるしかッ……!!」

「俺……俺は……俺俺ッ……! 俺はッ!! 誇り高きィ……エルトニアッ……のッ……!!」

「フゥッ……ふぅッ……!! ひぃッ……! ゼェッ……!!」


 エルトニア兵達の口から次々と零れてくるのは、血生臭いドロリとした感情ばかりで。

 五人が五人とも、既に自分達が敗北を喫している事に気付いているにもかかわらず、兵士としての矜持がそうさせるのか、一人として戦意を失っている者は居なかった。

 だが、進んで死地へと飛び込む覚悟が定まっている訳でもなく、その結果として剣を構えてシズク達と睨み合ったまま、戦況は膠着状態の様相を呈していた。


「ねぇ、キミたち……。もう良いんじゃない? 降伏しなよ」

「降……伏……。そうか……そしたらッ……!!」

「貴様ァッ……!!! 祖国を……エルトニアを裏切るかァッ!!!」

「ぐぁッ……!! なん……でッ……!!」

「あっ……!」

「…………」

「ハァ……」


 地獄絵図のようなこの状況を見かねたユウキが、剣を構えたまま苦笑いを浮かべて問うと、恐怖に押し潰されかけていたエルトニア兵の一人が揺らぎ、声をあげかける。

 だが直後。

 傍らの同胞が怒りの咆哮をあげ、ユウキの誘いに乗りかけた兵士を斬り付けた。

 すぐ傍らから斬りつけられたエルトニア兵は、身を躱す素振りすら見せる事無く仲間の斬撃をその身に浴びると、苦悶の声を漏らしながら床の上へと倒れ伏す。

 自信の呼びかけが招いたその悲劇に、ユウキは小さな悲鳴と共に悲し気に眉を顰めるが、肩を並べているノルは呆れたように溜息を漏らし、シズクは静かに目を細めた。

 ともあれ。

 これで残るは四人。

 シズク達としては、こうして睨み合ったままテミスの指示を待っても良かったのだが……。


「貴方。そこの彼は味方でしょう? 何故、斬ったんですか?」

「うるさいッ!! うるさいうるさいッ!! 貴様等なぞ……貴様等などッ!!」


 瞳に鋭い瞳を宿したシズクが問うが、仲間の兵を斬ったエルトニア兵は血走った眼でシズクを睨み付けて怒鳴ると、ガタガタと震える手で血濡れたガンブレードを掲げる。


「話になりませんね。でしたら、正気に戻してあげましょう。私は貴方に決闘を申し込みます。私が負ければこちらはすぐに降伏します。いかがですか?」

「っ……!!」


 静かに一歩前へと歩み出たシズクが淡々と告げると、相対するエルトニア兵達の間に衝撃が走る。

 だが煌々と怒りに燃えるシズクの瞳を見れば、この提案が絶望のどん底へ差し伸べられた慈悲の籠ったものなどでは無く、更なる地獄への入り口である事は明白だったのだが……。


「獣人風情がッ……!! 図に乗ったなァッ!!!」


 シズクに決闘を申し込まれたエルトニア兵は、仲間の血で濡れたガンブレードを振るって血を払うと、狂気に満ちた薄い笑みを浮かべて吐き捨てた。

 しかし、それにシズクが動ずる事は無く、まるで何かを確かめるかのように背後の仲間たちへチラリと視線を送ると、ノルもユウキも揃ってコクリと頷きを返す。


「その言葉、決闘を了承したと見做します。さあ、いつでもどうぞ」

「ハッ……ハハッ……!!! ゥエリィヤァァアアアッッ!!」


 淡々と抑揚のない声で告げたシズクに、エルトニア兵はへらへらと嘲笑を浮かべたまま気勢をあげ、斬りかかるべくガンブレードを振りかぶった。

 しかし、その刃が振り下ろされるよりも早く。

 シズクは甲高い風切り音を一つ響かせて刀を振るうと、振りかざされた兵士の両腕を一薙ぎで両断する。


「ヘァッ……!!? ィ……ギィィィヤァァァァァッッッ!!」


 振りかざされた勢いのまま、両断された腕とガンブレードは鮮血をまき散らしながら宙を舞い、天井にぶつかってガキンと音を立てた後、両腕を失ったエルトニア兵の傍らに落着した。

 一拍遅れて噴き出た血と共に、両腕を失った兵士は苦悶の絶叫をあげて床の上に倒れ込み、じたばたと痛みでのた打ち回る。


「腕ッ! 俺の……うでェッ!! テメェ等ァッ!! 何してやがるッ!! 何で……一斉に斬りカからながっだァッ……!!」

「きっと、テミスさんならこのまま捨て置くのでしょうけれど……」


 両腕を失った兵士は、痛みに絶叫して暴れ回りながらも、血走った眼で仲間を睨み付けて罵詈雑言をまき散らす。

 そんな兵士を冷ややかな目で見据えたシズクは、ボソリと静かに呟きを漏らした後、正確無比な斬撃を以て両腕を失ったエルトニア兵に止めを刺したのだった。

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