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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2100話 虚なる全霊

 この戦いは茶番だ。

 レオンと相対したテミスは胸の内で皮肉気に吐き捨てると、構えた大剣の柄を固く握り締める。

 訓練や稽古ですらない斬り合いだというのに、互いに相手を殺す気が無い剣戟は、おおよそ戦いなどとは呼ぶべきではない。

 だが、戦いではなく茶番だからこそ、真に迫って演ずるのは酷く難しい。

 本気で相手の身体を切り刻む気で放たなければ、斬撃に気迫は籠る事は無い。

 そのような斬撃では、腕の立つ者でなくとも茶番だと見抜くのは容易い事だ。

 故に……。


「スゥ……ハァァァ~~~~ッ……!!」

「ッ……!!!」


 テミスは大きく息を吸い込んでから、深く長い息を吐くと、静やかな瞳でレオンを見据える。

 戦術の上での欺瞞工作や剣戟の虚実ならば兎も角、何かを演ずる事など縁の無かったテミスには、存在しない殺気を作り出して剣戟を演ずるなど荷が重い。

 それを正しく理解しているからこそ、テミスは己の力を抑え込み、全力で敵と見做したレオンを殺すと心に誓う。

 そうして放たれた濃密な殺気に、レオンは即座に反応してガンブレードを構え直した。

 瞬間。


「オオオォォォォッ!!!」

「クッ……!!」


 雄叫びと共に、テミスは一直線に疾駆してレオンとの間にあった距離を詰め切ると、構えていた大剣の切っ先をレオンの顔面に向けて突き放つ。

 ただ真っ直ぐに突撃して刺突を放つ。

 そこには、普段のテミスが繰り出す超高速の体捌きも無く、愚直に放たれた一閃をレオンは構えたガンブレードの腹で受け止めた。


「っ……!!」

「クッ……?」


 ガギンッ!! と。

 ガンブレードと大剣は互いにその刀身をぶつけ合いながら、甲高い金属音を奏で、テミスの繰り出した突きはレオンのガンブレードによって阻まれる。


「セッェェェッ……!!」

「チッ……!?」


 鍔迫り合いと共に生じた僅かな空白の後。

 裂帛の雄叫びをあげたテミスは、クルリと身体を翻して追撃の斬撃を放った。

 初撃は牽制……ならばこちらが本命かッ!?

 焦りと共にレオンは全身に力を籠め、放たれ二撃目に備える。

 たとえ防ぎ切れなかったとしても、直撃だけは逸らしてみせるッ!!

 テミスから放たれるあまりにも濃密な殺気に、レオンはそう覚悟を決めて斬撃を受け止めたのだが……。


「――グッ……!?」

「オォォォッ!!!」


 ギャリィンッ!! と。

 大剣とガンブレードは再び真正面から打ち合わされたものの、放たれた斬撃にレオンが危惧した程の威力は無かった。

 レオンは防御ごと弾き飛ばされる覚悟すらしていたのだが、実際に受け止めた斬撃は全力で堪えれば凌ぎ切れる程度のもので。

 猛々しい雄叫びと共に押し込まれる大剣の刃も、レオンの防御を圧し潰す事は叶わず、打ち合わせた剣を軋ませるに留まっている。

 何かがおかしい。

 剣を打ち合わせながら、そう直感したレオンは防御に徹した構えを取ると、真意を探るべく剣戟の隙間からテミスの瞳を見据えた。

 だがそこにあったのは、いつもと変わらない悠然とした自信と余裕に満ちた瞳だけで。


「っ……! フッ……なるほど。そういうことか」


 乖離した殺気と剣圧の差に、最初は戸惑いを覚えたレオンだったが、テミスの瞳を見てその真意に思い至る。

 テミスは大幅に自らの実力に枷を嵌めた状態で以て、その内での全力でこの戦いに臨んでいるのだ。

 とはいえ、加減をした剣戟であっても、受けているのがレオンだからこそ捌き切れているのであって、他のエルトニア兵達が相手ならば既に決着は付いていただろう。


「ならばッ……!! こちらからも行くぞッ……!」

「あぁ……来いッ!!」


 間違いない。殺気こそあるが、テミスが自分達を傷付ける気は無い。

 そう確信したレオンは、緊張から肩に籠っていた余分な力を抜くと、押し込まれ続けていた大剣を弾き、素早くガンブレードの刃で空を薙いで叫びをあげた。


「フッ……!!」

「ラァッ!!」


 流れるような動きで掲げられたガンブレードの刃が走り、同じく弧を描いた漆黒の大剣と再び打ち合わされる。

 奏でられた激しい剣戟の音色は周囲へと響き渡り、戦いの最中にあって尚、エルトニア兵達を戦慄させた。


「えぇっと……」

「私達は……どうすれば……」


 だが、その一進一退の拮抗した戦いに、加勢する機を逃したミコトとシャルロッテが置き去りにされていて。

 構えを保ったまま、自分達も戦いに加わって良いものかと、困惑の視線を交わらせる。


「っ……!! ミコト! シャルロッテ!! 援護を頼むッ……!」

「フハッ……!! 良いぞッ!! まとめてかかって来るが良いッ!!」


 そんな二人の困惑を察知したレオンが鋭い声で指示を出すと、そこへまるで現状を愉しむかのようなテミスの声が、朗々と重ねられたのだった。

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