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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2096話 将の荷を降ろして

 短く、そして力強く吐き出された息と共に、シズクの刀が閃く。

 直後。キキン……! という微かな音が響き、両断された錆びきった鉄の棒が、甲高い音を奏でて地面に落ちる。


「……見事だ。やはり、また腕をあげたな。シズク」

「…………。えへへ……! 恐縮です」


 静かにその様子を見守ったテミスは、刀を振り抜いたシズクに賞賛を告げるが、その声に滴が直ぐに応える事は無く、残心を終えて刀を鞘へと納めてから、にっこりと満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「凄いッ……!! 斬った音……ぜんっぜんしなかったですよッ!!?」

「しかも斬ってみせたのは狙いを定めた二本のみッ……!! 隣の格子には傷一つ残っていないッ……!!」

「っ……!!」


 眼前で披露された神業に、リコとノルは目を見開いて驚きを露にする。

 事実。シズクの技の冴えはテミスの予測以上で。

 斬鉄という妙技を為して尚、斬撃の際の音が響かなかったという事は、音すらも発しないほど無駄のない斬撃であったという証拠だ。きっとシズクの刀には、鉄を斬ってなお刃毀れどころか傷一つ無いだろう。

 しかし、一行が口々にシズクを絶賛する中で。

 ただ一人ユウキだけは口を真一文字に結んで肩を震わせ、爛々と輝くような熱の籠った瞳でシズクを見据えていた。

 だが、その視線に気付く者は一人として居らず、褒めちぎられて照れたシズクが促すままに、一行はシズクの切り開いた格子の隙間を潜り抜けて先へと歩を進める。


「これは……かなり広いな……。ここならば、私も剣を振るえそうだ」


 格子を抜けた先に広がっていた地下水道は、これまでの狭さが嘘であったかのように広々とした空間が取られており、天井の高さも光が微かに届く程度まで上がている。

 それを確認したテミスは、満足気に呟きながら背中に背負った大剣を手に取ると、数度空を薙いで感覚を確かめた。

 これ程の広さが確保できれば、壁際での攻防には幾らかの注意を払う必要はあるだろうが、十分に大剣を振り回す事ができるはずだ。

 テミスは最後に壁との間合いを確かめてから、ゆったりとした動きで大剣を背中へと戻すと、行く先を問うべくシズクへと視線を向ける。


「ねねっ! 次は? 次はどっちに行くの?」

「っ……!」

「あ、はいっ!! 敵の中枢と思われる建物へはどちらからも向かえますが……近いのはここを左でしょうか」

「左だね! 了解ッ!」


 しかしテミスが言葉を発する前に、スルリとシズクの側まで近付いたユウキが朗らかな声で問いかけ、それに答える形でテミスにも回答が示された。

 とはいえ、ユウキが自由奔放であるのは普段通りの事で。テミスは己が発しかけていたといの言葉を飲み込むと、ユウキと肩を並べて歩き始めたシズクの背を追って歩を進め始める。

 本来ならば。殿を務めていたユウキが最前を歩めば隊列は崩れる。

 当然作戦行動に支障をきたすからこそ、叱責は免れないのだが……。

 ある程度開けた場所に出たお陰で、テミスも戦えるようになった今に限っては、殿の役をテミスが代わりに努めれば事が済む。

 寧ろ。最も会敵する可能性が高い最前に、剣と刀という即応しやすい武器を持つ二人が立つ方が、理に適っているとまで言えるだろう。


「ふっ……やれやれ。私も甘くなったものだな」


 テミスはゆったりと歩きながら胸の内でそこまで考えてから、クスリと微笑みを浮かべてひとりごちる。

 もしもこれが訓練で、ユウキが黒銀騎団の一員だったのならば。

 作戦行動を乱したユウキに厳しい叱責が飛ぶのは間違いない。

 だが、今のテミスの身の上は白翼騎士団の客将であり、そしてユウキはあくまでも白翼騎士団預かりの身だ。

 部隊としての統率を考える事無く、現場の尺度だけで考えるのならば、いちいちユウキの行動に目くじらを立てて叱責していた方が、作戦に与える悪影響は大きい。


「偶には、こういうのも悪くない」


 言葉を交わしながらも、周囲の警戒を欠かす事無く進んでいく仲間達を眺めながら、テミスが背後だけを警戒しつつ、穏やかに鼻を鳴らした時だった。


「おぉっ……!! なにこれ……ひっろぉ……!!」


 何の前触れもなく。最善を歩いているシズクとユウキが足を止めると、眼前に現れた光景に言葉を漏らす。

 そこには、テミス達の持つ明かりでは端まで届かないほど広い、部屋のような空間が広がっていた。


「ここを越えて少し行くと、建物の間近まで接近できます!」

「了解だ。陣形を切り替えるぞ。私が前に出る。ユウキとシズクは側面。ノルは後ろだ」

 

 地図を見ながら告げるシズクにテミスは短く返事を返すと、淡々と命令を発しながら、先陣を切って大きな部屋の中へと足を踏み入れたのだった。

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