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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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197話 知謀の試練

「フン……ギルティアの奴め、意趣返しのつもりか……? やってくれる……」


 ベリスから受け取った封筒に目を通すと、テミスは不機嫌そうに鼻を鳴らして呟いた。受け取った封筒の中に入っていた書類は全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


「おおかた、私も試されていた……と言う所だろう。奴め、フリーディアを呼び込んだ事で疑念でも抱いたか……?」

「いえ……ギルティア様のお考えは推し量りかねますが、私はただ……テミス様が私を受け入れたらこの書類を渡すように……と命じられていただけです」


 テミスは書類をマグヌスへ放り渡すと、凶悪な笑みを浮かべてベリスを見やる。

 私が敵であった者を拒み、疑心だけで拒絶すればそれは、魔族や人間を敵としてひとくくりにまとめ、戦を拡大させる愚者と同じ……。だが、ベリスの話を鵜呑みにし、何の疑いも無く迎え入れれば、それは軍団を預かる将として失格……いずれ自滅の道を辿る。


「やれやれ。知らぬ間にとんでもない綱渡りをさせられていたようだな……私は」


 テミスは大きくため息を吐くと、息を吐いてドカリと椅子に腰かける。

 実際問題、この結果を導き出せたのは運によるものが大きい。仮に私がギルティアから送られてきたリストを精査する事を厭わず、既にそれを終わらせていたのなら……。私は迷うことなくベリスを十三軍団に迎え入れただろう。秤に乗せる先が目も当てられない惨状を呈している以上、真意はどうあれ十三軍団に興味を抱いているだけはマシ……と。


「それで……? お前の見立てではどうなんだ? ベリス」

「……えっ?」


 張り詰めていた気を緩めながらテミスが問いかけると、ベリスは目を丸くして首を傾げる。


「このリスト以外の第二軍団の連中は、使い物になりそうかと訊いているんだ」

「っ……それは………………難しいかと……」


 その問いに、ベリスは気まずそうに視線を逸らすと、暫くの間沈黙と葛藤を繰り返した後で、小さな声で呟いた。


「ハハハハッ! はっきりと言う奴だ。根拠は?」


 テミスはその態度に胸のすく様な爽快感を覚えながら笑い声をあげると、重ねてベリスに問いかける。人物の選定において、書類の上だけでなく生の声を聞く事ができるのは僥倖と言った所だろう。


「はい。まず、テミス様が人間だという事で反感を持っている者。そして、ドロシー様を打ち倒し、王都に事実上の幽閉をした事で、テミス様に敵意を抱いている者が大半です」

「ハッ……だろうな……」


 ベリスの答えを聞くと、テミスは嘲笑を浮かべて吐き捨てるように呟いた。

 このような男が居たのだ、もしかすれば骨のある奴が幾人か居るかとも思ったが、現実はそんなに甘くないらしい。


「……ですが、コルカ隊長率いる第三分隊は別かもしれません」

「コルカ……? 聞かん名だな」


 そう続けたベリスの言葉に、テミスは小首をかしげて意識を記憶に巡らせる。

 今も執務室に積まれている書類(ゴミ)の山の中には、コルカなんて名前はもとより、第三分隊という所属も記されていなかったはずだ。


「マグヌス、サキュド。お前達はどうだ?」

「ハッ……私も記憶にはありません……。別の部隊とはいえ、腕の立つ者の名は記憶しているはずなのですが……」

「私も、聞いた事無い……ですわ」


 副官たちに訪ねてみるも、返って来たのは期待していたような返答ではなかった。私よりも魔王軍での在籍期間の長い二人ならば或いは……と、思ったのだが……。


「……皆さんが存じ得ないのも無理はない話かと。なにせ、第三分隊は内々での呼称……その実態は、第二軍団の各部隊から選出された選りすぐりの魔術師部隊。緊急時にのみ部隊として動く、幻の部隊ですから」

「要は特殊な別動隊……と言う訳か……」


 ベリスの説明を一言でまとめると、テミスは眉根を寄せて考え込んだ。

 そこまでドロシーに信頼を置かれた者であれば、その忠誠心を覆すのは容易ではないだろう。しかし、緊急時の部隊というのが引っかかる。もしも、第二軍団が形骸化しつつあるこの瞬間を緊急時と捉えているのならば……。


「提出されていないのならば、書類が無いのも頷ける……」


 テミスは思考の一端を零すと、脚を組んで爪を齧った。

 その存在はつまり、根絶やしにしたと思った第二軍団のトラブルが、いまだにこうして息を続けているという事に他ならないのだ……。


「チッ……また面倒事か……。備えておいて損はないか」

「あ~……いえ、申し訳ありません。私の言い方のせいで誤解を生んでしまっているようで……」


 方策を練るべくテミスが立ち上がると、その背をベリスが呼び止めて言葉を続ける。


「別……と言ったのは、意図がわからないからなのです。ドロシー様がテミス様に敗れて以来、時を待つ……とだけ言い残して、あてがわれた部屋から一歩も出てこないんですよ」

「…………訳の分からん奴だ。主がやられて心が折れたとでも……?」


 心配の種が杞憂に終わったテミスは、果てしない徒労感に襲われながらその足を止めてため息を吐く。

 だが、ベリスが持ってきた書類の者を全員採用したとしても、数が足りないのは事実だ。ならば、害意を持って動く連中を招き入れるよりは、動かぬ人形を加えた方がマシではあるのか……。


「まぁ良い……ひとまずはベリス最初の仕事だ。お前も執務室に来て選定を手伝え」

「……っ! はいっ!!」


 テミスはそう命じると、サキュドとマグヌス、そしてベリスを引き連れて、仕事の待つ執務室へと向かったのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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