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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2091話 巡り合う絆

 シズクの斬撃を受けたまま、黄旗亭の外へと飛び出したテミスは、十分に店から離れた事を確認すると、反撃に転ずるべく脚に力を込めた。

 だがそれに合わせて、刃を合わせていたシズクも斬撃に込めていた力を緩め、更に刀の柄から片手を離して、自らの外套を払うべく腕をあげる。


「っ……!!」

「ひゃぁっ……!?」


 しかし、怪しい女の正体がシズクであるなどと、想像だにしていないテミスは、持ち上げられた腕を攻撃の予備動作だと認識し、瞬時に手首を掴んで動きを止めた。

 このまま引き倒して、一気に決めるッ!!

 驚きの悲鳴をあげたシズクの声には耳すら貸さず、テミスは追撃の姿勢に入った瞬間……。


「わぁぁ! 待って! 待って下さいテミスさん! 私です! シズクですッ!!」

「なにッ……!?」


 サン達から離れ、通りに人気が無いことを確認したシズクが、腕を引かれながら悲鳴をあげた。

 だが、既にテミスはシズクの体制を崩し終え、地面へ叩きつける態勢に入っており、それなりに勢いの付いたこの動きを止める事はできなかった。

 故に。


「クッ……!!」

「あわっ……! とっ……! ととっ……! とぉっ……!!」


 全身全霊の気力を以て、テミスはシズクの腕を掴み取った自身の手の力を緩めにかかった。

 その甲斐あってか、完全に投げを決めてしまう前に、力の緩んだテミスの手の内からスルリとシズクの腕が抜ける。

 しかし、投げ技の前段階にあたる崩しは既に完璧に終えており、腕を解き放たれて尚体勢を崩したシズクは、危なっかしい足取りで数歩前へとよたよたと歩む。

 だが、猫人族の身体能力が為せる業なのか、完全に重心が崩れた状態からでも、シズクは地面に転がることなく、掛け声と共に体勢を立て直してみせた。

 その拍子に、目深に被っていたシズクの外套のフードがフワリと外れ、テミスの見知った顔が露になる。


「お前……! 本当にシズク……なのか……? 何故、こんな所に……!!」


 露になった素顔を改めて尚、テミスにとっては驚くしかできない事態で。

 シズクがヤタロウから与えられた任務を考えるのならば、今もややと共にファントで執務に勤しんでいるはずで。まかり間違っても、このネルード居るはずが無いのだ。

 とはいえ、眼前に現れたその顔をテミスが見紛うはずも無く。

 驚きに目を見開いたテミスは、自らが剣を手にしている事すら忘れてシズクに問いかけた。


「えぇと……色々と事情があるのですが、お話をすると長くなってしまいまして……。ひとまず、私はテミスさんの助太刀に参った次第なのです!」


 問われたシズクは、一瞬だけ何から話し始めるべきか逡巡したものの、まずは伝えるべき事柄を真っ先に告げた。

 それは以前、テミスと行動を共にしていた折に自然と身に着いた技術で。

 見知った顔であるが故に攻撃の手は緩めたものの、いまだにシズクの目的を測りかねていたテミスにとって、決定打となる一言だった。


「フム……わかった。助太刀に感謝する」

「へっ……!? あっ……!!」

「窮屈だろうが、この地では外套を被っておいた方が良い。下手をすれば、魔族領(あちら)での人間よりも胸糞の悪い仕打ちを受ける羽目になりかねん」

「……ありがとうございます」


 シズクの言葉を聞いたテミスは、コクリと力強く頷いて礼を告げた後、柔らかな手つきで脱げてしまったシズクの外套のフードを被せる。

 その背後からは、慌ただしい足音を奏でながら、ちょうどサンが駆け出てきたところで。

 テミスの気配りに、シズクは感謝の意を込めて礼を言うと、抜き身のまま携えていた刀を腰の鞘へと納めた。


「ネールッ!! 無事かッ!! いま加勢するぞッ……!! ……って」


 そこへ、戦意を漲らせたサンが勢い良く駆け寄ってくるが、既に戦闘を終えて並び立っている二人に気が付くと、目を丸くしてテミス達の傍らで動きを止める。


「安心しろ。サン。コイツは敵ではない。以前知り合った傭兵仲間だ。名は――」

「っ……! ロゼと申します」

「いやいやいやっ! たった今、アンタら思いっ切り戦ってたじゃねぇか!!」

「あんなもの、我々の間では挨拶のようなものだ。なぁ?」

「はい。武人たるもの、常在戦場の心構えを忘れるべからず! です」

「えぇ……」


 瞬時に目配せをしたテミスの意を汲んだシズクが偽名を名乗るが、サンは表情を引き攣らせ、納得がいかないとばかりに叫びをあげた。

 だが、テミスもシズクもそんなサンの叫びに応えることはなく、飄々とした態度で言葉を紡ぎ続ける。


「ちょうど人手が足りなかった所でな、お前が来てくれて助かるよ。後で、今共にこちらへ来ている仲間を紹介しよう」

「是非。では、私の方からのお話もその際に」

「了解だ」


 そのまま、テミスとシズクは和やかな雰囲気で言葉を交わしながら、連れ立って歩き始めたのだった。

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