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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2087話 怪しい尋ね人

 妙な女がテミスの事を嗅ぎ回っている。

 アイシュからの急使によって報がもたらされたのは、テミス達が行動を始めた日の翌朝早くの事だった。

 曰く。

 女は丈の長い外套ですっぽりとその身を覆い隠し、顔を見たものは一人として居ないらしい。

 幾人かアイシュの手の者が、女の正体を検めるべく後を付けたものの、数分と経たぬうちに感付かれ、瞬く間に姿をくらませてしまうという。

 だが、その女はどうやらテミスの所在を正確に把握している訳ではないようで、手当たり次第に町の宿屋や酒場に顔を出しては、テミスの容姿を告げて聞きまわっているのだという。


「まさか……お前の手を借りる事になるとはな」


 普段ならば捨て置く所だが、状況は既に差し迫っている。このまま件の女を放置していては、自分達の作戦に支障が出かねない。

 話を伝え聞いただけでテミスはそう判断すると、まだ女が尋ねてきていないという黄旗亭で待ち構えると決めたのだ。

 しかし、相手は未だに敵か味方かもわからない。護衛役にはユウキがいるとはいえ、リコとノルを連れて行くにはあまりにも危険過ぎる。

 だからこそ、テミスは一人で黄旗亭へと赴くつもりだったのだが、引き留める三人との言い争いを、たまたま通りがかったサンが聞きつけて助力を申し出たのだ。


「あれ……? 迷惑だったか? てっきり、困り果てているように見えたんだが……」

「あぁ。困っていたとも。時間も無かったからな。あいつ等を説き伏せてくれた事には感謝している」

「それは良かった! これで少しは、借りが返せるってもんだぜ」

「だが、お前こそ良かったのか? 皆にはああ言ったが、恐らくはこの首にかかった金が目当ての賞金稼ぎだぞ?」

「任せてくれ! その時は加勢するとも!」

「いや……そういう意味で言ったんじゃないんだが……。まぁ良いか……」


 テミスとしては、万が一戦いになった時に護ってはやれないという意図だったのだが、サンはニカリと良い笑顔を浮かべて拳を握り、ガッツポーズを取ってみせる。

 それを半眼で眺めながら、テミスは小さくため息を吐くと、木製のジョッキを静かに傾けた。

 店内はちょうど昼前という事もあって客足も少なく、テミス達の他には数名の酔っ払いが酒を飲んだくれているだけだ。

 これならば、たとえ戦闘になったとしても、店が壊れるくらいで済むだろう。

 そんな事を考えているうちに、テミスが傾けていた木製のジョッキが空になり、思考が二杯目を注文するか否かへと傾いた時だった。


「…………」


 カラン。と。

 店の入り口に設えられた小さな鐘が客の来店を告げ、目深に外套を纏った小柄な人影が店の中へと入ってくる。

 なるほど確かに、ただ者ではないな……と。

 テミスはさり気なく視線を向けながら、密かに胸の内で呟きを漏らした。

 ローブに覆い隠されているとはいえ、端々から見て取れる身のこなしは武人のそれで。

 そんじょそこらのチンピラ擬きでは、足下にさえ及ばないのは一目見ただけで理解できた。


「水を一杯と干し肉を」

「あいよ」


 同じく姿を秘したテミスが視線を注ぐ前で。

 怪しい人影は迷いの無い動きでカウンターへ向かうと、店主の前に腰を落ち着けて注文を済ませる。

 だが、注文を受けた瞬間。

 店主がまるで何かを問いかけるかのように、チラリとテミス達の方へと視線を向け、人影を監視していたテミスと視線が交わった。


「チッ……」


 戦いの場に身を置かない店主に求めるのは酷な話ではあるものの、その視線は万が一この人影が卓越した腕前を持つ武人であったならば、テミス達の存在を声高に知らせているに等しい。

 故に、テミスは微かな舌打ちと共に内心で毒づきながら、半ば反射的に怪し気な女と思しき人物へ向けていた視線を外す。


「…………」

「っ……!」

「それで……店主殿。一つお聞きしたい事があるのですが……」


 テミスが息を殺し、気配を断つこと数秒。

 怪し気な女と思しき人物は再び静かに口を開き、店主へ向かって低い声で口を開いた。


「……何だい?」

「人を探しているのです。御存じないでしょうか? 長い白銀の髪に赤い瞳の女性で、背の丈は私よりも少し高いくらいなのですが……」

「……!」


 決まりだ。

 周囲を憚るように潜められた声を捉えたテミスは、彼女が件の女だと確信し、スルリと音も無く席を立つ。

 そして……。


「さぁて……どうだったかな……。なにせ、客なんざ日に数え切れんぐらい来るからな」

「何の用だ? 私の事を方々で嗅ぎ回っているのはお前だな?」


 そんな女の背後へと忍び寄ったテミスは、十分な警戒と共に身構えると、不敵な微笑みを浮かべて問いかけたのだった。

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